日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PC053] 胸腔持続吸引システムの理解を妨げる要因に関する考察

陰圧の力の性質と力のつり合いに着目して

青木久恵1, 門司真由美1, 青木奈緒子1, 窪田惠子1 (福岡女学院看護大学)

キーワード:陰圧, 概念化, 力のつり合い

問題と目的
胸腔持続吸引システムに関しては,患者の生命を守るために十分な理解がなされていなければならない。看護師は,正常な作動の管理と患者の状態の異常の早期発見を含めて看護を行う必要がある。しかし,学生にとっては理解し難く,国家試験直前の学生からも質問が多く寄せられる。今回胸腔持続吸引システムに関して,説明DVDによる学習を促した。その直後の確認テストで白紙や誤答が多かったため,テキストやDVDでは解説がなされていない陰圧の力の性質と,吸引器と胸腔内の力のつり合いに関する解説を行った。さらに自作の動画で,胸腔内圧の変化に応じて水封室の水面が上下することを観せた。本研究では,その効果を分析し,胸腔内持続吸引システムの理解を妨げる要因と今後の課題について考察する。
方法
対象者 A看護大学4年生,胸腔持続吸引システムの補講受講者75名中,協力が得られた58名。
手続き 「胸腔持続吸引システム」に関する90分の補講を行った。まず肺の仕組みや吸引装置が説明されている市販のDVD(20分)を学生に観せた。その後,「胸腔内圧の算出」「吸引圧の確認」「エアーリークの確認」「水封室内の水面の呼吸性移動」「吸引圧の制御システム」「吸引回路からのリーク」「胸腔内圧の管理」に関する7問(7点満点)の確認テストを行った。その後陰圧の性質を「引く力」「掃除機の原理」とし,「吸引器と胸腔内の圧の綱引き」であることを解説した。また,吸引圧はマイナスの数が小さくなればなるほど陰圧が強くなる関係を説明した。さらに胸腔持続吸引セットに注射器をつなぎ,胸腔内圧を変化させることで,水封室の水面が上下する動画を事前に作成し,学生に観せながら解説した。解説直後には,DVD後テストの変数を変更した確認テストを行った。
結果
テスト成績 テスト成績がDVD使用後と解説後でどのように変化したかを比較検討した(表1)。t検定を行ったところ,DVD後得点よりも解説後得点の方が優位に上昇していた(t(57)= 5.715,p<.01)。特に胸腔内圧と吸引圧の回答は,DVD後では白紙や誤答が目立っていた(図1)が,自作動画を観せた際には,学生から歓声と拍手があり,解説後テストでは正答率が上昇した。しかし,陰圧にも関わらず,マイナスをつけていないという誤答が5名(8.6%)存在していた。
考察
本研究の結果から,陰圧を「掃除機」「綱引き」という比喩で説明することと胸腔内圧と水封室の水面の変化を示す動画は,学生が「胸腔持続吸引システム」をイメージしやすく,理解を促進させる効果があることが示された。このことから,学生が理解を妨げる要因は,胸腔持続吸引システムの原理や胸腔内圧の性質,2つの圧力の関連性がイメージできなかったことが推察される。また,陰圧の数値は小さくなるほど引く力が大きくなるという点では,数学的に誤解が生じやすいことが推察される。加えて陰圧の値の表記方法が「マイナスの数値」や「プラスの数値で陰圧をかける」などと統一されておらず,このことも新たな概念形成を妨げる要因になっていることが推察される。今回,学生の理解を促進する効果が示されたが,胸腔持続吸引システムの理解度は十分とは言えない。また吸引圧制御機構の設問では,解説後に正答率が低下している。これらの要因について検討を加え,学生が確実に理解できるための教材や教育方法の検討が必要であると考える。