日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PC067] 協調性と友人関係が授業外学習時間に与える影響

寺田未来1, 浦光博2 (1.大手前大学, 2.追手門学院大学)

キーワード:相互協調的自己観, 相互独立的自己観, 友人関係

目 的
個人主義・集団主義といった文化レベルの違いは,自己調整学習のさまざま側面(援助要請,授業内での発言など)に影響を与える。これまで,多様な文化や価値観の相違が自己調整学習に影響を与えることが指摘されてきた(Schunk & Zimmerman, 2009)。本研究では文化的背景に基づく個人レベルの文化的自己観の相違と大学入学後の新たな友人関係の構築が,自己調整学習と授業外の学習時間にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とする。
Markus & Kitayama(1991)は“自己”の存在を他者との関係性のあり方から二種類に分類して捉える。一つが自らを他者とは異なる独立した存在として捉える相互独立的自己観,もう一つが自らを他者との結びつきの上で捉える相互協調的自己観である。先行研究によれば,相互独立的自己観の高さは自律的な学習動機と関連し,反対に相互協調的自己観の高さは他者との結びつきを重視するため,周囲からの期待を内面化し自律性の低い学習動機と関連するという(高山, 2001)。このことから独立性優勢の個人は協調性優勢の個人よりも,自己調整学習により取り組んでいることが予測できる。
大学入学後の新たな友人関係の構築は,学習面,生活面への適応を左右する。とりわけ自主学習に関する問題の背景には,人間関係の悩みやストレスが大きく関わっていること,さらに人間関係への不満足傾向が,自主学習の低下や授業出席率の低下の引き金となっていることも少なくない。他者との関係性に重きをおく協調性優勢の個人にとって,新たな友人関係におけるストレスフルな相互作用を多く経験するほど調和的な関係性の維持に自らの制御資源を費やし,授業外の学習時間にネガティブな影響を与えるだろう。反対に関係性の満足度の高さは学習時間にポジティブな影響を与えているだろう。一方相互独立的自己観が優勢な個人は自己を周囲の他者とは独立したものと捉えるため,友人関係に関するストレスフルな相互作用や満足度と学習時間の間に関連はみられないだろう。
方 法
調査対象者:H大学の大学1年生134名(平均年齢18.26(±.51)歳,男性65名,女性69名)調査内容:自己調整学習尺度(玉城・浦, 2009)17項目5件法,1週間あたりの学習時間,相互独立的-協調的自己観(高田, 2000)20項目7件法,友人関係満足度(加藤,2005)5項目5件法,ハイメンテナンス相互作用(高野, 1996)10項目7件法

結 果
独立性優勢得点から協調性優勢得点を減算し,自己観得点を作成した。この得点が高いほど独立性が優勢,低いほど協調性が優勢であることを示す。自己調整学習について,自己観得点を独立変数としたt検定の結果,有意差の傾向が認められた(t(128)=1.81, p=.07)。独立性優勢群の方が協調性優勢群に比べ,自己調整学習により取り組む傾向がみられた。
学習時間を目的変数とし,関係性満足度,ハイメンテナンス相互作用を説明変数とした重回帰分析を実施した。その結果,友人関係に対する満足度の高さが学習時間に正の影響を与えることが示された(β=.18, p<.05)。反対に友人関係への不満をもつことで学習時間の少なさに結びつくといえる。
次に,独立性優勢群,協調性優勢群それぞれに対し同様の重回帰分析を実施した。その結果,協調性優勢の個人において,ハイメンテナンス相互作用の頻度が高いほど学習時間に負の影響がみられること(β=-.20, p<.10),さらに関係性満足度と学習時間の間に正の関連(β=.26, p<.05)がみれらることが示された。一方独立性優勢の個人については,一貫して友人関係にかんする変数と学習時間との間に有意な関連は認められなかった。

考 察
本研究より,文化的自己観の相違が大学入学後の自己調整学習に影響を与えることが示された。自己を他者と独立した者と捉える個人は,他者とのつながりを重視する自己観をもつ個人に比べ自己調整学習に取り組んでいた。さらに協調性優勢な個人は友人関係の満足度が授業外の学習時間に正の影響を与えたのに対し,ストレス経験の頻度が高いほど学習時間が少なくなっていることが示された。独立性優勢な個人の学習動機は自律的あるいは内発的な特徴をもつことから,友人関係にかかわらず主体的な学びと関連するといえる。反対に協調性優勢な個人は,自らに他者が期待している役割の内面化や友人とのかかわりを大学での学びの動機の一つとしている(東,1994)。こうした文化的自己観による学習動機の違いが,大学での主体的な学びに影響を与えることが示唆される。