The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PC069] 大学生は誰を尊敬してきたのか?

対象人物との現実的な交流の有無に着目した探索的検討

武藤世良 (東京大学・日本学術振興会特別研究員)

Keywords:尊敬, 大学生, 関係性

問題と目的
近年,人に個人的な意味での優れた役割モデルを発生させる感情として,尊敬(affect-respect)が注目されている(Li & Fischer, 2007)。青年期において,どのような他者を役割モデルとし,自らの将来像に結び付けていくのかという問題は,個人のその後の成長・発達の方向づけに大きな影響を及ぼすと考えられる。これまで,大学生においては,尊敬感情の対象が,個人的関係のない他者,上地位者,同地位者,下地位者の4種類に整理されること(蔵永・樋口,印刷中)や,尊敬の主観的情感に敬愛や畏怖など複数が存在すること(蔵永・樋口,印刷中;武藤,2014a,2014b)などが明らかにされてきた。青年は,親や教師などの身近な尊敬「すべき」上地位者以外にも,友人や後輩,有名人,場合によってはフィクションの人物といった多様な対象に尊敬の気持ちを感じ,時にその他者に対して一貫した尊敬の感情的態度(武藤,2014b)を形成するといえる。しかしながら,ここで考えてみたいのは,たとえば,友人や先輩など身近な他者ばかりを尊敬する人もいれば,有名人など現実的に交流のない他者ばかりを尊敬する人もいる,というように,尊敬の対象人物に,個人差が存在する可能性である。そこで,本研究では,対象人物との現実的な交流の有無を大きな要因として,大学生が今までの人生で,どのような対象人物をどのくらいの人数,尊敬してきたのか,その実態調査を行い,そこにいかなる個人差が見出せるのか,探索的に検討することを目的とする。また,その個人差に関わる変数として,特性的な尊敬関連感情(武藤,2014a)やポジティブな可能自己,また多次元的な共感性に着目する。
方法
本研究は,武藤(2014c)と同時に実施された。
回答者 宮城県,千葉県,東京都,京都府にある大学の計7校を対象に質問紙調査を行い,大学(院)生370名(男性174名,女性193名,不明3名; 平均年齢19.9歳 [n = 367; SD = 1.62,レンジ: 18-29])を有効回答者とした。
調査内容
1. 尊敬してきた人の数 「『尊敬』する人」を,「将来なりたい自分に影響を与えるような,優れた他者」と操作的に定義し,説明した上で,回答者がこれまで何人くらいの人を尊敬してきたのか,その大体の人数の自己報告を求めた。その際には,「現実的に交流のある身近な,尊敬してきた人」(A),「現実的に交流はないが,自分の中で一方的に尊敬してきた人」(B),「現実には存在しない小説や映画,漫画,アニメなどの登場人物ではあるが,自分の中で一方的に尊敬してきた人物」(C)の3領域を設定した。Aに関しては,さらに「親やきょうだい,祖父母などの家族や親戚」,「友人や恋人,同級生,同期」,「先生や指導者」,「先輩」,「後輩」の5領域に細分化し人数の報告を求めた。
2. 特性尊敬関連感情尺度 武藤(2014a)の「特性尊敬」,「特性心酔」,「特性畏怖」の三つの尊敬関連感情の特性を測定する尺度。38項目,7件法。
3. 可能自己の明確性・実現志向性尺度 武藤(2014c)の「可能自己の明確性」と「可能自己実現への努力」を測定する尺度。12項目,5件法。
4. 多次元共感性尺度(MES) 鈴木・木野(2008)の尺度。特性的な共感性を「被影響性」,「他者指向的反応」,「想像性」,「視点取得」,「自己指向的反応」の5側面から測定する。25項目,5件法。
手続き 2014年2~5月に大学の講義を用いた集団形式または個別配布・回収により実施された。
結果と考察
「尊敬してきた人の数」は,A・B・Cどの領域に関しても人数の分布に正規性が認められなかった。そのため,Aの5領域の合計人数と,B,Cの人数の3変数を全て2値化(0:0名,1:1名以上)し,回答者に関して,A・B・Cの2値3変数を用いて階層的クラスター分析(ward法)を行った。解釈可能性より,有効回答者はA,B,Cがそれぞれ一人以上いる「全般型」(n = 195),A,Cが一人以上でBが一人もいない「身近・フィクション型」(n = 17),Aが一人以上でB・Cが一人もいない「交流限定型」(n = 60),A・Bが一人以上でCが一人もいない「実在人物限定型」(n = 83),Aが一人もいない「非交流型」(n = 11)の五つに分類され,「全般型」が半数以上を占めた。また,この5水準を要因とする1要因分散分析の結果,たとえば「全般型」は「交流限定型」や「実在人物限定型」よりも「想像性」が高い,「非交流型」は他の4群よりも「特性尊敬」や「他者指向的反応」が低い,などの差異があることが示された。