The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 » ポスター発表 PC

ポスター発表 PC

(501)

Fri. Nov 7, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 501 (5階)

[PC086] 規範逸脱行動の拡散過程モデルに対する妥当性検討

「隣に座っている他者」を考慮する方法に着目して

出口拓彦 (奈良教育大学)

Keywords:規範逸脱行動, 中学生, シミュレーション


【 目 的 】
 規範逸脱行動が教室に広がる過程に関するモデル(出口, 2009)の妥当性を検討した。具体的には,「逸脱行動に対して,自分の隣にいる生徒(他者)が持つ態度を,どのように考慮して,逸脱行動の実行・不実行を決定するのか」に関するモデルを複数設定した。そして,各モデルを用いたシミュレーションによる逸脱行動の予想値と,質問紙調査による実際の逸脱頻度を対照した。
【 方 法 】
1. 質問紙調査
1)調査対象者 近畿圏内の1つの中学校(12学級)に所属する生徒450名(男子218,女子227,不明5名。出口(2013)等と同様の調査)。
2)測定した変数 a.逸脱頻度:「(授業と無関係の)私語」「内職」「遊び」について,「1.ぜんぜんしなかった~5.たくさんした」で回答を求めた。私語尺度(出口・吉田, 2005)も併せて使用。b.逸脱行動に対する態度:上記の逸脱行動について,「自分も周囲も遵守(R)」「自分は遵守,周囲は逸脱(S)」「自分は逸脱,周囲は遵守(T)」「自分も周囲も逸脱(P)」の4状況(仮想場面)を提示して,「1.非常に不満~7.とても満足」で回答を求めた。
2.シミュレーション
1)概要 21x21のマトリクス(教室を表す)上に441個のセル(生徒を表す)を配置した(セル・オートマトン法を援用)。各セルは,(規範)「遵守」「逸脱」のうち,いずれか1つの状態をとり,最初は全セル「遵守」状態で開始した。また,「状態」とは別に,質問紙データから(学級ごとに)復元抽出した「態度」(R, S, T, Pの4つ)を持つ。
2)状態変容の仕方 a.「多数派と同じ状態」に変容,b.「自分と他者の態度を考慮」して変容,という2つの規則のいずれかにより,自分の状態を変える。「a」「b」のいずれを使用するかは,ステップごとにセル単位で確率的に決定する(「b」の使用確率は「M-prob」とし,全セル共通)。
「a」の規則では,隣接する8セル(ムーア近傍)中の遵守セルと逸脱セルの数を比較して,多数派のセルと同じ状態に変容する。同数の場合は現状維持とする。(なお,「私語」は,音声を伴う逸脱行動であるため,出口(2013)等を基に,逸脱セルの数(影響力)を1.5倍してから比較した。)
一方,「b」の規則では,ムーア近傍からランダムに1セル(他者)を選択し,自分と他者の態度を,ゲーム理論の利得行列を基に組み合わせ,パレート効率的な解を志向する状態に変容する。例えば,自分の態度(R:S:T:P)が3:1:4:2,他者の態度が5:3:6:4である場合(いわゆる「囚人のジレンマ」),3/5(遵守/遵守), 1/6(遵守/逸脱), 4/3(逸脱/遵守), 2/4(逸脱/逸脱)(左が自分,右が他者)という組み合わせとなる。このうちパレート効率的な解は,3/5, 1/6, 4/3の3つである。いずれの解を選択するのかについて,以下の3つのモデルを設定した。a.「自分」の利得を最高にする(「4/3」で逸脱),b.「他者」の利得を最高にする(「1/6」で遵守),c.自分と他者の利得の「合計」を最高にする(「3/5」で遵守)。(まだ解が複数残る場合は,ランダムに選択。)
状態変容は199回繰り返した。M-probは.00 - 1.00の範囲で.01ずつ変化させ,各条件100回試行(計10100回)した。
【結果と考察】
 質問紙で測定された「逸脱頻度」の平均値と,シミュレーションの10100試行における逸脱率(「逸脱」セルが占める割合)の平均値(「平均逸脱率」)を,それぞれ学級ごとに算出した。そして,「逸脱頻度」と「平均逸脱率」の相関係数を算出した。その結果,全般的に正の相関が示された(Table 1)。このことから,本モデルには一定の妥当性があると考えられる。なお,「自分>合計>他者」の順で,有意な相関係数が多く示された。すなわち,「自分」の態度を優先して逸脱行動の実行・不実行を規定するモデルの方が,妥当性が高い傾向が示された。
-引用文献- 出口拓彦 (2009). 「他者の利得を考慮すること」が規範逸脱行動に及ぼす影響 日本社会心理学会第50回大会・日本グループ・ダイナミックス学会第56回大会合同大会 / 出口拓彦 (2013). 教室における規範逸脱行動拡散の過程:質問紙調査とシミュレーションによる検討 日本心理学会第77回大会 / 出口拓彦・吉田俊和 (2005). 大学の授業における私語の頻度と規範意識・個人特性との関連:大学生活への適応という観点からの検討 社会心理学研究, 21, 160-169.
※本研究は科研費(22730508, 26380885)の補助を受けた。