日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PD

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PD027] 自己開示の効用とリスクに関する研究(2)

有倉巳幸 (鹿児島大学)

キーワード:自己開示, 開示効用, 開示リスク

自己開示の機能に関する研究(安藤,1986)では,健康増進や信頼関係構築など個人内過程及び対人関係において自己開示がポジティブな効果をもつことが指摘されている。しかし一方で,開示が対人関係を悪化させるなどネガティブな効果をもつことも指摘されている。遠藤(1994)は,自己開示を,話しにくさを伴う自己表出行動の一つであると考え,開示における抵抗感を,開示内容への評価に関わる抵抗感の「対自的側面」と他者との相互作用変化に係わる抵抗感の「対他的側面」の二つに分類した。片山(1996)も,ほぼ同様の分類をした上で,自己開示の効果予想と併せ検討した。
これらの知見をふまえ,有倉(2014)は,開示によって対人関係及び自己の状態に肯定的影響を与える可能性のある認知を「開示効用」,否定的な影響を与える可能性のある認知を「開示リスク」と定義し,自尊心との関連について検討した。その結果,自尊心低群は,開示効用においては高群と同程度に認知するものの,開示リスクにおいては高群より高く認知しており,開示リスクを高く認知することで開示が抑制されることが示唆された。しかし,この研究では開示内容は一種類のみであること,また,開示するか否かを尋ねていないことが検討課題として挙げられた。そこで本研究では,開示内容について複数の条件設定を行うこと,また,開示意思を尋ね,開示効用や開示リスクとの関連性について検討することを目的とした。
【方法】
回答者 大学生393名(男性170名,女性223名),調査内容 (1)自尊心尺度:Rosenberg(1965)の翻訳版(山本ら,1982)を使用(5件法)。(2)開示内容の確定:各回答者には,予備調査を経て作成された恋愛場面における否定的な出来事(被害・加害)と,その深刻さ(高・低)からなる四つのシナリオのうち一つを提示。(3)開示対象:親密度の異なる同性の他者(初対面・顔見知り・親友)を設定。(4)開示効用・開示リスク:有倉(2014)の開示効用・開示リスク尺度を使用(各10項目,5件法)。(5)開示意思:開示効用・リスク尺度への回答後,開示の可能性を%で評定。
【結果・考察】
基礎統計量 本稿では,四つのシナリオを込みにした分析を報告する。総じて,親密度が高くなるほど,開示効用(初対面M=25.5,顔見知りM=29.2,親友M=36.9)及び開示意思(初対面M=13.6%,顔見知りM=27.0%,親友M=75.4%)が高くなり,開示リスク(初対面M=31.1,顔見知りM=29.7,親友M=24.9)が低くなった。また,自尊心との相関を求めたところ,開示効用とは無相関であったが,開示リスクとは有意な負の相関(初対面r=-.30,p<.001:顔見知りr=-.33,p<.001:親友r=-.14,p<.01)が得られ,有倉(2014)と同様,自尊心が低いほど自己開示リスクを高く見積もっていた。開示意思については,親友のみ自尊心と正の相関(r=.12,p<.05)が得られた。
因果モデル 上述した変数を用いて,顕在変数による構造方程式モデル(標準化解)による分析を行った(初対面GFI=.99, AGFI=96:顔見知りGFI=.99, AGFI=97:親友GFI=.97, AGFI=90)。親密度ごとに分析を行ったところ,総じて,自尊心の低さは開示リスクを高めること,開示効用は開示意思を高め,開示リスクは開示意思を低めること,開示効用の方が相対的に開示意思を規定すること,親友は初対面や顔見知りより相対的に開示リスクが開示意思に影響をもつことが明らかになった。
本研究の知見から,低自尊心者は開示リスクが低まることで開示可能性が高まることが示唆されるが,今後,恋愛場面以外の様々な開示内容で検証を行う必要があろう。