日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PD

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PD039] 児童生徒の生活不安に関する国際比較研究(1)

日本とデンマークの比較

藤井義久 (岩手大学)

キーワード:生活不安, 国際比較

目 的
児童生徒は,家庭,学校,社会において,様々な不安を感じながら生活している。その生活不安の実態は,国によっても発達段階によっても大きく異なることが予想される。不安尺度については,これまでTaylor(1953)の顕現性不安尺度(Manifest Anxiety Scale,略してMAS)やSpielbergerら(1970)の状態特性不安尺度(State-Trait Anxiety Inventory,略してSTAI)など,さまざま存在しているが,児童生徒の日常生活に焦点を当てて客観的に生活不安を生み出す原因について明らかにできる不安尺度は未だ存在していない。
そこで,本研究では,日本だけではなく北欧諸国の児童生徒も対象にして,国際比較可能な児童生徒版生活不安尺度を開発し,その尺度を用いて,国によって児童生徒が抱えている生活不安の実態がどのように異なるか,児童生徒の生活不安に関する国際比較調査を実施することにした。
方 法
調査対象 日本とデンマークに住む9歳から13歳の児童生徒,計976名。国別内訳は,日本が656名(男子323名,
女子333名),デンマークが320名(男子148名,女子172名)である。調査対象者の決定に当たっては地域性を考慮した層化二段階抽出法によりまず国ごとに調査対象校を4校ずつ抽出し,それらの学校に所属している児童生徒の保護者を対象に調査実施の趣旨及び調査協力の依頼文書を送付した。そして,子どもに調査を受けさせることに保護者が同意した児童生徒に対してのみ調査を実施することにした。その結果,デンマークにおいては,子どもの人権を守る意味から調査を受けさせることに対して拒否する保護者が多く存在したことと,1クラスあたりの人数が20名程度と日本よりも小さいことから,デンマークの調査対象者数は日本の約半分となった。
調査手続 担任が,前述の調査対象者に対して,個別に以下の内容から成る質問紙を配布し,回答終了後,担任に提出する形で調査が実施された。なお,調査に当たっては,「成績には関係のないこと」,「自分の答えが他人にもれることはないこと」,「答えたくない質問に対しては答えなくてもよいこと」など,倫理的配慮の観点から口頭及び文書で伝えた。
調査内容 質問紙は,以下の調査内容から成る。
Ⅰ.フェイスシート 調査対象者の性別,年齢について調べた。
Ⅱ.生活不安に関する質問項目
藤井(2013)が開発した大学生活不安尺度(CLAS)の項目を参考にしながら,現代の児童生徒が感じていると思われる生活不安に関する35項目を作成した。なお,回答方法は,4件法(全く不安でない-とても不安である)である。
結 果
因子分析 「生活不安に関する質問紙」の各回答に対して0点(全く不安でない)から3点(とても不安である)という得点を与え,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った。その結果,固有値の変化及び解釈可能性から4因子解が妥当であると判断された。しかし,二重負荷の見られる項目があったので,それらを削除し,同様の因子分析を繰り返し行った結果,最終的に4つの下位尺度(予期不安,親子関係不安,友達関係不安,教師関係不安),計25項目から成る「児童生徒版生活不安尺度」が開発された。なお4つの下位尺度間の相関係数は.35から.54で中程度の値を示した。
信頼性の検討 「児童生徒版生活不安尺度」の信頼性について検討するために,各下位尺度ごとにクロンバックのα係数を算出したところ,「予期不安」が.84、「親子関係不安」が.86、「友達関係不安」が.86,「教師関係不安」が.88,全体でも.77という値を得たことから,本尺度には十分な信頼性が備わっていることが確認された。
生活不安水準の国際比較 日本とデンマークで児童生徒の生活不安水準に違いが見られるか検討するために,「児童生徒版生活不安尺度」の下位尺度ごとの国別生活不安得点の平均値および標準偏差を算出し,t検定を行った。その結果,表1の通り,生活不安(全体)においては国家間の有意な差は見られなかったが,下位尺度ごとに見てみると、「予期不安」においては日本の児童生徒の方が,「親子関係不安」及び「教師関係不安」においては逆にデンマークの児童生徒の方が,それぞれ有意に生活不安得点の高いことが確認された。
生活不安水準の発達的変化 国別に生活不安水準の発達的変化について検討するために,二要因分散分析(国×年齢)を行った。その結果,「友達関係不安」を除くすべての下位尺度および全体得点において有意な年齢差が確認された。そこでさらにTukeyの多重比較を行った結果,「予期不安」は13歳の方が10、11歳よりも有意に高い傾向があるのに対して,「親子関係不安」においては逆に9歳の方が13歳よりも有意に高い傾向が見られた。
考 察
国際比較可能な児童生徒版生活不安尺度の開発を目指し、本研究では,まず日本とデンマ-クの児童生徒を対象に国際比較調査を行った。因子分析の結果,児童生徒の生活不安は,大きく「予期不安」,「友達関係不安」,「親子関係不安」,「教師関係不安」という4つの因子で説明できることが確認されたことから、今後,前述の4つの観点から児童生徒の生活不安水準を多面的に分析していく必要があると考えられる。但し,今後さらに別の国々にまで調査対象を拡げた場合,同様の因子構造になるかについては検討していく必要があろう。そして,その尺度を用いて,児童生徒における生活不安の国際比較を行ったところ全体では有意差が見られなかったけれども下位尺度において有意差が見られたことは,児童生徒の生活不安を生み出しやすい原因は国によって異なっていることを意味しているので,今後,そのような違いが見られる社会的背景についてもさらに検討していく必要があろう。
付 記
本研究は,平成23-26年度科研費(基盤研究C)「青少年の生活不安と攻撃行動に関する発達臨床心理学的研究」(研究代表者:藤井義久)の助成を受けて実施された。