[PD055] キャリア教育に対する知的障害特別支援学校小・中学部教員の意識調査に関する一考察
子どもに必要な能力と教員の課題意識との関連について
キーワード:キャリア教育, 教員の課題意識, 課題解決能力
Ⅰ.問題と目的
特別支援学校高等部では,キャリア教育の一環として作業学習や現場実習を中心とした職業教育の取り組みが実施され,高等部教員の進路選択の理解は小・中学部教員よりも高いことが示されている(庄子,2013)。本研究では,高等部設置がなく,「就労」に直接結びつく進路指導の機会が少ない小・中学部からなる知的障害特別支援学校の教員を対象にキャリア教育に対する意識を質問紙により調査した。この特別支援学校では2013年4月当初,過去になかった取り組みとして年間を通した教員集団によるキャリア教育の視点を活用した授業検討や「就労」に向けた進路研修等の実施が計画されていた。特にこれらの実施前の意識調査に焦点を当て,キャリア教育において,子どもに必要な能力と教員の学校組織上の課題意識との関連及び課題について検討を行う。
Ⅱ.方 法
1.調査対象及び調査時期
W県A特別支援学校(知的障害)の過去に他校の高等部での進路指導経験のない教員28名(小学部20名,中学部8名)。2013年5月に実施。
2.手続き
木村・菊池(2011)等を参考にキャリア教育において子どもに必要と思われる能力8項目,教員の学校組織上の課題意識6項目を設定し,それぞれの項目の中で重要であると思われる順に三つずつ回答を求め,回答順に3点,2点,1点を配した。また,キャリア教育の視点における子どもへの指導の課題を自由記述により回答を求めた。
Ⅲ.結 果
小・中学部教員毎に子どもに必要な能力の平均値及び標準偏差を算出し,表1に示した。
小・中学部ともにミュニケーションの値が高く,中学部では自他の理解能力の値が高かった。一方で情報収集・探索能力,職業理解能力,計画実行能力の値が低かった。各質問項目の得点を従属変数とし,小・中学部を説明変数として1要因の分散分析を実施したところ,自他理解能力(F(1,26)=5.41,p<.05)とコミュニケーション能力(F(1,26)=4.33,p<.05)で有意な差が認められた。
次に子どもに必要な能力と教員の学校組織上の課題意識の相関係数を表2に示した。相関係数の値はいずれも低~中程度であり,負の相関を示す値が多かった。情報収集・探索能力は職員認識の違いの項目と,職業理解能力は学習内容(負の相関)と進路開拓の項目と,課題解決能力は教育課程の項目とそれぞれ有意な相関を示した。
自由記述の回答では,役割把握・認識能力の必要性から基本的なルールを知ること,守ることの指導の大切さの回答が多かった。一方で,重度の障害のある子どもへのキャリア教育の視点を活用した指導の困難さや高等部設置がないことにより,就労に直接つながる進路指導のイメージをもちにくいという回答が多かった。
Ⅳ.考 察
調査結果により,1)人との関係づくりが重視されていること,2)子どもの将来像をイメージして指導につなげる弱さがあること,3)情報収集・探索能力(例:子どもがわからない内容を調べたり,質問する力)を指導につなげる際には特に教員集団の共通理解が必要であること,4)就労に向けた指導の必要性を感じているが,子どもの発達段階に応じて就労に結びつける具体的な学習内容が明確ではないこと,5)教育課程上の明確化により,課題解決能力(例:自ら考え,わかって行動できる力)の向上が期待できることが示唆された。
以上のことから,人との関係づくりの基礎となる要因のみを大きく捉えずに,まずは「子どもの近い将来につけておきたい力」を吟味・検討し,特に子どもの課題解決能力を高める指導の在り方や校内連携等を教員集団で検討していく必要性が確認された。
特別支援学校高等部では,キャリア教育の一環として作業学習や現場実習を中心とした職業教育の取り組みが実施され,高等部教員の進路選択の理解は小・中学部教員よりも高いことが示されている(庄子,2013)。本研究では,高等部設置がなく,「就労」に直接結びつく進路指導の機会が少ない小・中学部からなる知的障害特別支援学校の教員を対象にキャリア教育に対する意識を質問紙により調査した。この特別支援学校では2013年4月当初,過去になかった取り組みとして年間を通した教員集団によるキャリア教育の視点を活用した授業検討や「就労」に向けた進路研修等の実施が計画されていた。特にこれらの実施前の意識調査に焦点を当て,キャリア教育において,子どもに必要な能力と教員の学校組織上の課題意識との関連及び課題について検討を行う。
Ⅱ.方 法
1.調査対象及び調査時期
W県A特別支援学校(知的障害)の過去に他校の高等部での進路指導経験のない教員28名(小学部20名,中学部8名)。2013年5月に実施。
2.手続き
木村・菊池(2011)等を参考にキャリア教育において子どもに必要と思われる能力8項目,教員の学校組織上の課題意識6項目を設定し,それぞれの項目の中で重要であると思われる順に三つずつ回答を求め,回答順に3点,2点,1点を配した。また,キャリア教育の視点における子どもへの指導の課題を自由記述により回答を求めた。
Ⅲ.結 果
小・中学部教員毎に子どもに必要な能力の平均値及び標準偏差を算出し,表1に示した。
小・中学部ともにミュニケーションの値が高く,中学部では自他の理解能力の値が高かった。一方で情報収集・探索能力,職業理解能力,計画実行能力の値が低かった。各質問項目の得点を従属変数とし,小・中学部を説明変数として1要因の分散分析を実施したところ,自他理解能力(F(1,26)=5.41,p<.05)とコミュニケーション能力(F(1,26)=4.33,p<.05)で有意な差が認められた。
次に子どもに必要な能力と教員の学校組織上の課題意識の相関係数を表2に示した。相関係数の値はいずれも低~中程度であり,負の相関を示す値が多かった。情報収集・探索能力は職員認識の違いの項目と,職業理解能力は学習内容(負の相関)と進路開拓の項目と,課題解決能力は教育課程の項目とそれぞれ有意な相関を示した。
自由記述の回答では,役割把握・認識能力の必要性から基本的なルールを知ること,守ることの指導の大切さの回答が多かった。一方で,重度の障害のある子どもへのキャリア教育の視点を活用した指導の困難さや高等部設置がないことにより,就労に直接つながる進路指導のイメージをもちにくいという回答が多かった。
Ⅳ.考 察
調査結果により,1)人との関係づくりが重視されていること,2)子どもの将来像をイメージして指導につなげる弱さがあること,3)情報収集・探索能力(例:子どもがわからない内容を調べたり,質問する力)を指導につなげる際には特に教員集団の共通理解が必要であること,4)就労に向けた指導の必要性を感じているが,子どもの発達段階に応じて就労に結びつける具体的な学習内容が明確ではないこと,5)教育課程上の明確化により,課題解決能力(例:自ら考え,わかって行動できる力)の向上が期待できることが示唆された。
以上のことから,人との関係づくりの基礎となる要因のみを大きく捉えずに,まずは「子どもの近い将来につけておきたい力」を吟味・検討し,特に子どもの課題解決能力を高める指導の在り方や校内連携等を教員集団で検討していく必要性が確認された。