[PD064] 教師の通常学級内の発達障害傾向の児童理解に関する研究
Keywords:通常学級, 発達障害
問題と目的
「特殊教育」から「特別支援教育」に変更され,学校現場では教育的ニーズを必要とする診断がついた障害のある児童に対し,教師によってさまざまな取り組みが行われるようになってきている。しかし,発達障害の傾向がみられるすべての児童(発達障害傾向の児童)を理解することは現状では難しいのではないだろうか。
そこで,本研究では小学校通常学級で授業経験のある教師を対象に,教師が子どものどういった特徴に着目しやすいのかについて検討した。補足的に勤続年数,診断のついた発達障害児がいる学級での授業経験年数と発達障害の知識との関連も調べた。
方法
1.調査対象者と配布方法
A県の小学校6校に在籍する教師146名を対象に,質問紙調査を実施した。
2. 調査内容
子どもの学校での生活場面を記述した仮想場面を提示し,その児童の特徴や対応について自由記述で求めた。仮想場面の設定については,予備調査を行い,教師の記述が幅広く得られた「聞くこと」,「話すこと」(場面1)及び「注意」の困難さ(場面2)の2つの場面を取り上げた。自由記述の分析については,KJ法を用いた。妥当性の確認のため,分類は筆者を含めた心理学を専攻する学生3名および心理学系の教員で検討を行った。
また,発達障害の知識量を調べるために,菊池(2011)のすべて○×解答方式の発達障害に関する知識問題16項目を使用した。教師の勤続年数,診断のついた発達障害児在籍学級での授業経験の有無,その授業経験年数,研修参加の有無と内容も尋ねた。
結果
有効回答数は47名(全回答数の32.2%,男性19名,女性28名)であった。全体の平均勤続年数は18.3±14.2年(1-40),平均発達障害診断児在籍学級経験年数は5.23±6.95年(0-32)であった。発達障害に関する知識問題の解答者の平均知識得点は12.4±1.72点(8-15)であった。
知識問題の得点と勤続年数との間のみ弱い負の相関がみられた(r=-.30,p<.05)が,他の要因との有意な相関は見られなかった。
仮想場面の記述内容を検討したところ,各場面で「話すこと」,「聞くこと」,「注意」の困難さを想定して記載していた内容については,ほぼ全員が言及していた。また,児童生徒の困難さに対して,ポジティブな内容あるいはネガティブな内容を言及していたかについて分類を行い,検討を行ったところ,困難さについて否定的にとらえた教師は,4%(場面1)と6%(場面2)にとどまり,ポジティブな内容の記述および,ネガティブな内容についても肯定的にとらえた記述がみられた。
教師が,児童のどういった困難さに着目しやすいのかを検討するために,対応のある1要因3水準の分散分析の結果,「話すこと」の困難に関する記述,「聞くこと」の困難に関する記述,「コミュニケーション」の困難に関する記述との間で有意差がみられた(p<.001)。多重比較を行った結果,「話すこと」,「聞くこと」に関する困難に比べ,「コミュニケーション」の困難に関する記述数が一番少なかった(p<.001,p<.01)。
考察
教師の勤続年数は発達障害の正確な知識を獲得することにはつながらないと考えられた。また,教師は発達障害傾向の児童に対して,児童の「できないところ」を否定的に理解するのではなく,発達障害傾向の点を適切に評価し肯定的に理解していることが示唆された。その一方で,教師は児童の「話すこと」の困難に気がつきやすいが,「聞くこと」や「コミュニケーション」の困難には気がつきにくいことが明らかになった。
「特殊教育」から「特別支援教育」に変更され,学校現場では教育的ニーズを必要とする診断がついた障害のある児童に対し,教師によってさまざまな取り組みが行われるようになってきている。しかし,発達障害の傾向がみられるすべての児童(発達障害傾向の児童)を理解することは現状では難しいのではないだろうか。
そこで,本研究では小学校通常学級で授業経験のある教師を対象に,教師が子どものどういった特徴に着目しやすいのかについて検討した。補足的に勤続年数,診断のついた発達障害児がいる学級での授業経験年数と発達障害の知識との関連も調べた。
方法
1.調査対象者と配布方法
A県の小学校6校に在籍する教師146名を対象に,質問紙調査を実施した。
2. 調査内容
子どもの学校での生活場面を記述した仮想場面を提示し,その児童の特徴や対応について自由記述で求めた。仮想場面の設定については,予備調査を行い,教師の記述が幅広く得られた「聞くこと」,「話すこと」(場面1)及び「注意」の困難さ(場面2)の2つの場面を取り上げた。自由記述の分析については,KJ法を用いた。妥当性の確認のため,分類は筆者を含めた心理学を専攻する学生3名および心理学系の教員で検討を行った。
また,発達障害の知識量を調べるために,菊池(2011)のすべて○×解答方式の発達障害に関する知識問題16項目を使用した。教師の勤続年数,診断のついた発達障害児在籍学級での授業経験の有無,その授業経験年数,研修参加の有無と内容も尋ねた。
結果
有効回答数は47名(全回答数の32.2%,男性19名,女性28名)であった。全体の平均勤続年数は18.3±14.2年(1-40),平均発達障害診断児在籍学級経験年数は5.23±6.95年(0-32)であった。発達障害に関する知識問題の解答者の平均知識得点は12.4±1.72点(8-15)であった。
知識問題の得点と勤続年数との間のみ弱い負の相関がみられた(r=-.30,p<.05)が,他の要因との有意な相関は見られなかった。
仮想場面の記述内容を検討したところ,各場面で「話すこと」,「聞くこと」,「注意」の困難さを想定して記載していた内容については,ほぼ全員が言及していた。また,児童生徒の困難さに対して,ポジティブな内容あるいはネガティブな内容を言及していたかについて分類を行い,検討を行ったところ,困難さについて否定的にとらえた教師は,4%(場面1)と6%(場面2)にとどまり,ポジティブな内容の記述および,ネガティブな内容についても肯定的にとらえた記述がみられた。
教師が,児童のどういった困難さに着目しやすいのかを検討するために,対応のある1要因3水準の分散分析の結果,「話すこと」の困難に関する記述,「聞くこと」の困難に関する記述,「コミュニケーション」の困難に関する記述との間で有意差がみられた(p<.001)。多重比較を行った結果,「話すこと」,「聞くこと」に関する困難に比べ,「コミュニケーション」の困難に関する記述数が一番少なかった(p<.001,p<.01)。
考察
教師の勤続年数は発達障害の正確な知識を獲得することにはつながらないと考えられた。また,教師は発達障害傾向の児童に対して,児童の「できないところ」を否定的に理解するのではなく,発達障害傾向の点を適切に評価し肯定的に理解していることが示唆された。その一方で,教師は児童の「話すこと」の困難に気がつきやすいが,「聞くこと」や「コミュニケーション」の困難には気がつきにくいことが明らかになった。