[PD066] 学び合う学習環境の調査(1)
小学校中学年を対象とする尺度の検討
キーワード:インクルージョン, 共同体感覚, 学びの共同体
問題と目的
本市では,今年度から「個性が輝く授業づくり」と称して,文部科学省委託「発達障害の可能性のある児童生徒に対する早期支援研究事業」を市内A小学校で実施する予定である。本事業の主旨は,「学校の教室の中で様々な個性の子どもたちが,それぞれに良さを発揮しながら学べる授業」の実現である。そのためには,多様な児童の特性を把握し,そのニーズに沿って,共感的な学習環境の中で協同的な学習指導を企図する必要がある。
そこで,本事業では,児童の精神的健康パターン,教育環境適応,共感性,共同体感覚について,すでに妥当性が検証されている4つの尺度を用いる質問紙調査を検討した。しかしながら,本事業の対象児童が小学3-4年生と比較的幼い学年である一方で,前述の各尺度の対象は,4または5年生以上の児童であった。そのため,これらの尺度が3年生でも実施可能であること,また妥当性が担保されることを,調査に先んじて検証しなければならない。
以上の問題背景に基づき,本研究は,A小学校での本調査に対する予備調査として,市内B小学校3-4年生児童を対象に,上述の4つの尺度項目について質問紙調査を実施し,実施可能性と妥当性を検証しながら,共同体感覚を構成する要素の探索を目的とした。
方法
調査時期・参加者 本研究の調査時期は,2014年5月である。本研究の参加者は,B小学校児童3-4年生140名(3年女子37名・男子39名,4年女子37名・男子37名)である。
尺度 本研究で用いた尺度は,a)児童用精神的健康パターン診断検査(西田・橋本・徳永, 2003),b)児童用共感測定尺度(桜井, 1986),c)教育環境適応尺度II(小泉, 1995),d)小学生版共同体感覚尺度(高坂, 2014)である。ただし,これら尺度の全項目の回答は,児童に困難と考えられるため,因子構造を損なわない程度に抜粋した。
手続き 学校長の許諾を得て,各担任に質問紙を配布し,各学級にて担任の判断によって適切な時間に実施した。なお,回答時間については,一律の指示ではなく,児童の実態に合わせて行った。
回収後,質問紙そのものの実施可能性を検証するために,分析対象になり得るかどうか回答内容をチェックし,その後,統計的分析を行った。
結果と考察
結果1 質問紙の回収後,共同研究者2名により,回答内容のチェックを行った。その結果,空欄があるものや,全ての項目に同じ回答をしているものなど,正確に回答できていないと推測されるものが見られたため,それらの回答を除外した。
3,4年ともに,有効回答率は90%を超えており,本質問紙が,小学校3年生の児童を対象としても有効であることが示された。
結果2 各尺度の妥当性を検証するため,全24項目のα係数を求めたところ,α= .84であり,十分な内的一貫性が確認された。
結果3 尺度の各項目間の相関を求めた。その結果,共同体感覚尺度の「貢献感」因子の項目(「こまっている人がいたら,すすんでたすけている」「だれにたいしても,やさしくしてあげられる」)得点と教育環境適応尺度の「対教師関係」因子(「先生に,なんでも話しかけたり,たずねてみたいとおもう」「先生は,自分たちの気もちをわかろうとしていると,かんじる」)および「学習意欲」因子(「いっしょうけんめい勉強することがある」「テストのための勉強をしっかりやっていく」)の項目得点に正の相関(r= .35~.50)があり,いずれも1%水準で有意であった。
つまり,教師の児童への関わりが,児童の共同体感覚の中核をなす「貢献感」の育成につながることを示唆している。さらに,「貢献感」と「学習意欲」の有意な相関は,学級共同体において支持的感情と学習意欲が共存していることを推測させる結果である。
これらの結果から,共同体感覚の涵養は,学習意欲の増進と関係しており,その実現は,共感的でインクルーシブな学級経営を基盤としていることが推定された。これは,学校現場に普及している「学びの共同体」の実践的効果について構造的に示す手がかりとなる結果でもある。
本市では,今年度から「個性が輝く授業づくり」と称して,文部科学省委託「発達障害の可能性のある児童生徒に対する早期支援研究事業」を市内A小学校で実施する予定である。本事業の主旨は,「学校の教室の中で様々な個性の子どもたちが,それぞれに良さを発揮しながら学べる授業」の実現である。そのためには,多様な児童の特性を把握し,そのニーズに沿って,共感的な学習環境の中で協同的な学習指導を企図する必要がある。
そこで,本事業では,児童の精神的健康パターン,教育環境適応,共感性,共同体感覚について,すでに妥当性が検証されている4つの尺度を用いる質問紙調査を検討した。しかしながら,本事業の対象児童が小学3-4年生と比較的幼い学年である一方で,前述の各尺度の対象は,4または5年生以上の児童であった。そのため,これらの尺度が3年生でも実施可能であること,また妥当性が担保されることを,調査に先んじて検証しなければならない。
以上の問題背景に基づき,本研究は,A小学校での本調査に対する予備調査として,市内B小学校3-4年生児童を対象に,上述の4つの尺度項目について質問紙調査を実施し,実施可能性と妥当性を検証しながら,共同体感覚を構成する要素の探索を目的とした。
方法
調査時期・参加者 本研究の調査時期は,2014年5月である。本研究の参加者は,B小学校児童3-4年生140名(3年女子37名・男子39名,4年女子37名・男子37名)である。
尺度 本研究で用いた尺度は,a)児童用精神的健康パターン診断検査(西田・橋本・徳永, 2003),b)児童用共感測定尺度(桜井, 1986),c)教育環境適応尺度II(小泉, 1995),d)小学生版共同体感覚尺度(高坂, 2014)である。ただし,これら尺度の全項目の回答は,児童に困難と考えられるため,因子構造を損なわない程度に抜粋した。
手続き 学校長の許諾を得て,各担任に質問紙を配布し,各学級にて担任の判断によって適切な時間に実施した。なお,回答時間については,一律の指示ではなく,児童の実態に合わせて行った。
回収後,質問紙そのものの実施可能性を検証するために,分析対象になり得るかどうか回答内容をチェックし,その後,統計的分析を行った。
結果と考察
結果1 質問紙の回収後,共同研究者2名により,回答内容のチェックを行った。その結果,空欄があるものや,全ての項目に同じ回答をしているものなど,正確に回答できていないと推測されるものが見られたため,それらの回答を除外した。
3,4年ともに,有効回答率は90%を超えており,本質問紙が,小学校3年生の児童を対象としても有効であることが示された。
結果2 各尺度の妥当性を検証するため,全24項目のα係数を求めたところ,α= .84であり,十分な内的一貫性が確認された。
結果3 尺度の各項目間の相関を求めた。その結果,共同体感覚尺度の「貢献感」因子の項目(「こまっている人がいたら,すすんでたすけている」「だれにたいしても,やさしくしてあげられる」)得点と教育環境適応尺度の「対教師関係」因子(「先生に,なんでも話しかけたり,たずねてみたいとおもう」「先生は,自分たちの気もちをわかろうとしていると,かんじる」)および「学習意欲」因子(「いっしょうけんめい勉強することがある」「テストのための勉強をしっかりやっていく」)の項目得点に正の相関(r= .35~.50)があり,いずれも1%水準で有意であった。
つまり,教師の児童への関わりが,児童の共同体感覚の中核をなす「貢献感」の育成につながることを示唆している。さらに,「貢献感」と「学習意欲」の有意な相関は,学級共同体において支持的感情と学習意欲が共存していることを推測させる結果である。
これらの結果から,共同体感覚の涵養は,学習意欲の増進と関係しており,その実現は,共感的でインクルーシブな学級経営を基盤としていることが推定された。これは,学校現場に普及している「学びの共同体」の実践的効果について構造的に示す手がかりとなる結果でもある。