[PD067] 重度・重複障がい児における発信行動の分化を促す試み
係り手の対応に視点を当てて
キーワード:重度・重複障がい, 発信行動, 分化
1.目的
ある一人の重度・重複障がい児(以下、K)との抱っこでの係り合いの場面において、「自分の右膝を右手で叩く行動(以下、右膝叩き行動)」、「抱えられている係わり手(以下、A)の右手を左手で掴み、Aの首方向に誘導する行動(以下、左手誘導行動)」という上肢による発信行動が発現した。しかし、その意味をAが理解できず、Kの不快情動の表出や自傷行動の発現等、係わり合いが滞る状況が見られた。そこで、その意味をさぐりながらも、それぞれに特定の揺らし方を意味付けたところ、それらを選択的に使用し、揺れの種類を伝える姿が発現するようになった。さらには、それまで発現していた「左手誘導行動」を自ら変化させ、「Aの右手を掴みながら、自分の左膝に左手をぶつけて誘導する行動(以下、左膝叩き・左手誘導行動)」を発現するに至った。
以上の係わり合いの経過から、本研究では、重度・重複障がい児における発信行動の分化を促す係わり手の対応について検討することを目的とする。
2.研究方法
(1)係わり合い:20XX+2年5月から20XX+2年10月まで、Kが在籍する特別支援学校及び入所する療育センターで90分程度実施。(2)分析方法:係わり合いの様子をVTR記録し、Kの上肢による発信行動の発現回数をカウントするとともに、発現様相をエピソード記述により分析した。(3)Kについて:係わり合い当初特別支援学校小学部1学年。MR、視覚障がい(全盲、光覚程度)。自ら周囲の事物に移動したり、リーチングしたりする姿は見られない。(4)分析対象:抱っこを開始してからの30分間とする。
3.係わり合いの方針
(1)上肢による発信行動(「右膝叩き行動」、「左手誘導行動」、「左膝叩き・左手誘導行動」)に対しては、それぞれの意味を推測しながらも、仮に一義的に意味付けし、その意味を提案・確認するというプロセス(土谷,2002;菅井,2008)を重視する。(3)提案・確認に際しては、KがAの推測した意味について分かりやすいよう、聴覚的信号、触運動的信号を用いて行う。
4.結果及び考察
「右膝叩き行動」及び「左手誘導行動」、「左膝叩き・左手誘導行動」の発現回数について図1に示すとともに、意味付けた内容について表1に示した。また、上肢による発信行動が発現した際の係わり合いの様子について表2に示した。
S5において初めて「左手誘導行動」に対し、「回転性の揺れ」を意味付けたところ、S6においてKは「右膝叩き行動」と「左手誘導行動」を交互に発現した。Kは、Aの提案・確認に対し、耳を近付けじっとする姿から、自分の発信行動とAの対応について、さぐりたしかめていたものと考える。S7においては、選択的に発信行動を発現し、その後笑顔を示したことから、KはAの提案・確認した意味について理解し、自らその意味を伝えるに至ったのではないかと考える。「左膝叩き・左手誘導行動」はS11において発現したものの、Aはその発信行動に気づくことができず、「回転性の揺れ」と読み取り対応した。S12において再び発現したことから、その変化に気づき、新たに「反復性の揺れ」と仮に意味付けし、提案・確認したところ、何度も発現するに至った。Kは、これまでの発信行動への意味付けを踏まえ、さらに自らの行動を変化させ、新たなAの対応(意味)を生み出そうとしたと考える。
以上より、発信行動の分化を促す係わり手の対応は、子どもの発信行動に対し、可能な限り一義的に意味付けすることを目指し、意味付けた内容に対して、その確認を提案の形で打診するプロセスが重要である。そして、このプロセスは、微細な発信行動に対しても重要であると言える。提案・確認のプロセスを適応することで、子どもと係り手との間で、子どもの納得が得られる行動の意味を創り出していくことが可能になるものと考える。(SATO Satoshi,SUGAI Hiroyuki)
ある一人の重度・重複障がい児(以下、K)との抱っこでの係り合いの場面において、「自分の右膝を右手で叩く行動(以下、右膝叩き行動)」、「抱えられている係わり手(以下、A)の右手を左手で掴み、Aの首方向に誘導する行動(以下、左手誘導行動)」という上肢による発信行動が発現した。しかし、その意味をAが理解できず、Kの不快情動の表出や自傷行動の発現等、係わり合いが滞る状況が見られた。そこで、その意味をさぐりながらも、それぞれに特定の揺らし方を意味付けたところ、それらを選択的に使用し、揺れの種類を伝える姿が発現するようになった。さらには、それまで発現していた「左手誘導行動」を自ら変化させ、「Aの右手を掴みながら、自分の左膝に左手をぶつけて誘導する行動(以下、左膝叩き・左手誘導行動)」を発現するに至った。
以上の係わり合いの経過から、本研究では、重度・重複障がい児における発信行動の分化を促す係わり手の対応について検討することを目的とする。
2.研究方法
(1)係わり合い:20XX+2年5月から20XX+2年10月まで、Kが在籍する特別支援学校及び入所する療育センターで90分程度実施。(2)分析方法:係わり合いの様子をVTR記録し、Kの上肢による発信行動の発現回数をカウントするとともに、発現様相をエピソード記述により分析した。(3)Kについて:係わり合い当初特別支援学校小学部1学年。MR、視覚障がい(全盲、光覚程度)。自ら周囲の事物に移動したり、リーチングしたりする姿は見られない。(4)分析対象:抱っこを開始してからの30分間とする。
3.係わり合いの方針
(1)上肢による発信行動(「右膝叩き行動」、「左手誘導行動」、「左膝叩き・左手誘導行動」)に対しては、それぞれの意味を推測しながらも、仮に一義的に意味付けし、その意味を提案・確認するというプロセス(土谷,2002;菅井,2008)を重視する。(3)提案・確認に際しては、KがAの推測した意味について分かりやすいよう、聴覚的信号、触運動的信号を用いて行う。
4.結果及び考察
「右膝叩き行動」及び「左手誘導行動」、「左膝叩き・左手誘導行動」の発現回数について図1に示すとともに、意味付けた内容について表1に示した。また、上肢による発信行動が発現した際の係わり合いの様子について表2に示した。
S5において初めて「左手誘導行動」に対し、「回転性の揺れ」を意味付けたところ、S6においてKは「右膝叩き行動」と「左手誘導行動」を交互に発現した。Kは、Aの提案・確認に対し、耳を近付けじっとする姿から、自分の発信行動とAの対応について、さぐりたしかめていたものと考える。S7においては、選択的に発信行動を発現し、その後笑顔を示したことから、KはAの提案・確認した意味について理解し、自らその意味を伝えるに至ったのではないかと考える。「左膝叩き・左手誘導行動」はS11において発現したものの、Aはその発信行動に気づくことができず、「回転性の揺れ」と読み取り対応した。S12において再び発現したことから、その変化に気づき、新たに「反復性の揺れ」と仮に意味付けし、提案・確認したところ、何度も発現するに至った。Kは、これまでの発信行動への意味付けを踏まえ、さらに自らの行動を変化させ、新たなAの対応(意味)を生み出そうとしたと考える。
以上より、発信行動の分化を促す係わり手の対応は、子どもの発信行動に対し、可能な限り一義的に意味付けすることを目指し、意味付けた内容に対して、その確認を提案の形で打診するプロセスが重要である。そして、このプロセスは、微細な発信行動に対しても重要であると言える。提案・確認のプロセスを適応することで、子どもと係り手との間で、子どもの納得が得られる行動の意味を創り出していくことが可能になるものと考える。(SATO Satoshi,SUGAI Hiroyuki)