[PD080] 小学生における他者軽視の発達的検討の試み
Keywords:他者軽視, 児童期, 横断的研究
問題と目的
仮想的有能感(速水,2006)はこれまで,青年期の生徒・学生を中心に多くの研究が行われている。一方発達的観点に立てば,青年期以前すなわち児童期に着目することも必要であるように思われる。また,小学校においても,グループ学習や話し合い活動等の他者との協力を必要とする学習活動を行う点を考慮すると,児童期における仮想的有能感(他者軽視)傾向を検討する意義があると考える。
そこで本研究は試みに,小学生児童を対象に,他者及び自分自身に対する肯定的評価を測定する尺度として仮想的有能感(他者軽視)尺度を改変し,逆説的に他者軽視傾向を検討し,併せて学年間比較を行うことを研究の目的とする。
方法
調査協力児・分析対象児 静岡県内の小学校2校に調査を依頼し,調査協力を承諾した児童のうち,回答傾向に疑義のあるもの,質問項目に欠損値のあるものを除く702名を分析対象とした。
調査時期 2013年10月31日~11月15日
調査方法 質問紙は個別自記入形式であり,各学級担任によって集合調査形式で実施した。
質問紙の構成 フェイスシート(学年・性別)の他,速水(2006)の仮想的有能感尺度第二版11項目を,否定的響きを想起させる表現を肯定的表現に変え,加えて小学生にはやや漠然としていると思われる表現を学校生活に沿った比較的具体的な内容に改変し,4件法で回答を求めた。
結果
(1)仮想的有能感(他者軽視)尺度に対する因子構造の検討
本研究に用いた尺度項目をTable1に示す。各項目表現を改変したため,改めて探索的因子分析(主因子法)を行った。1因子構造を仮定して分析を行った結果2項目を除外し,残る9項目に対し確証的因子分析およびα係数を算出し,概ね内的妥当性があると判断した(AGFI=0.971,RMSEA=0.038,α=0.780)。これらの項目を全て逆転項目とみなし,以降の分析を行った。
(2)他者軽視得点の性別および学年間比較
改変した他者軽視尺度の合計得点を従属変数とし,性別と学年を独立変数とする2要因分散分析を行った(Table2参照)。その結果,性別の主効果(F[1,690]=7.919,p=0.005)および学年の主効果(F[5,690]=4.303,p<0.001)が有意だった。学年間の比較を行うためTukey法による多重比較を行ったところ,1・3・4年生と5年生の間の得点の差が有意だった(MSe=20.575,p<0.05)。試みに,性別が未記載だった欠損データを加え,学年のみを独立変数とする1要因分散分析を行ったところ,4年生と6年生の得点の差も有意だった。
考察
本研究において他者軽視尺度に対して行った改変は,仮想的有能感(他者軽視)の定義自体に関わるものであるため,内容的妥当性に関する問題は議論の余地があるだろう。一方で,低・中学年と高学年の間に尺度得点の差があらわれたことは,小学校高学年から他者軽視傾向の萌芽がみられることを示唆すると考えられる。今後は小中接続の観点からも,小学校高学年以降の問題として他者軽視傾向を検討する必要があるだろう。
引用文献
速水敏彦 2006 他人を見下す若者たち 講談社
本研究は連名発表者の2013年度卒業研究の一部を,責任発表者が再分析したものである。
仮想的有能感(速水,2006)はこれまで,青年期の生徒・学生を中心に多くの研究が行われている。一方発達的観点に立てば,青年期以前すなわち児童期に着目することも必要であるように思われる。また,小学校においても,グループ学習や話し合い活動等の他者との協力を必要とする学習活動を行う点を考慮すると,児童期における仮想的有能感(他者軽視)傾向を検討する意義があると考える。
そこで本研究は試みに,小学生児童を対象に,他者及び自分自身に対する肯定的評価を測定する尺度として仮想的有能感(他者軽視)尺度を改変し,逆説的に他者軽視傾向を検討し,併せて学年間比較を行うことを研究の目的とする。
方法
調査協力児・分析対象児 静岡県内の小学校2校に調査を依頼し,調査協力を承諾した児童のうち,回答傾向に疑義のあるもの,質問項目に欠損値のあるものを除く702名を分析対象とした。
調査時期 2013年10月31日~11月15日
調査方法 質問紙は個別自記入形式であり,各学級担任によって集合調査形式で実施した。
質問紙の構成 フェイスシート(学年・性別)の他,速水(2006)の仮想的有能感尺度第二版11項目を,否定的響きを想起させる表現を肯定的表現に変え,加えて小学生にはやや漠然としていると思われる表現を学校生活に沿った比較的具体的な内容に改変し,4件法で回答を求めた。
結果
(1)仮想的有能感(他者軽視)尺度に対する因子構造の検討
本研究に用いた尺度項目をTable1に示す。各項目表現を改変したため,改めて探索的因子分析(主因子法)を行った。1因子構造を仮定して分析を行った結果2項目を除外し,残る9項目に対し確証的因子分析およびα係数を算出し,概ね内的妥当性があると判断した(AGFI=0.971,RMSEA=0.038,α=0.780)。これらの項目を全て逆転項目とみなし,以降の分析を行った。
(2)他者軽視得点の性別および学年間比較
改変した他者軽視尺度の合計得点を従属変数とし,性別と学年を独立変数とする2要因分散分析を行った(Table2参照)。その結果,性別の主効果(F[1,690]=7.919,p=0.005)および学年の主効果(F[5,690]=4.303,p<0.001)が有意だった。学年間の比較を行うためTukey法による多重比較を行ったところ,1・3・4年生と5年生の間の得点の差が有意だった(MSe=20.575,p<0.05)。試みに,性別が未記載だった欠損データを加え,学年のみを独立変数とする1要因分散分析を行ったところ,4年生と6年生の得点の差も有意だった。
考察
本研究において他者軽視尺度に対して行った改変は,仮想的有能感(他者軽視)の定義自体に関わるものであるため,内容的妥当性に関する問題は議論の余地があるだろう。一方で,低・中学年と高学年の間に尺度得点の差があらわれたことは,小学校高学年から他者軽視傾向の萌芽がみられることを示唆すると考えられる。今後は小中接続の観点からも,小学校高学年以降の問題として他者軽視傾向を検討する必要があるだろう。
引用文献
速水敏彦 2006 他人を見下す若者たち 講談社
本研究は連名発表者の2013年度卒業研究の一部を,責任発表者が再分析したものである。