[PD087] 親の職業による青年期の子どもの心理的経験の差異
キーワード:親, 職業, 青年期
親の職業による青年期の子どもの心理的経験の差異
佐藤有耕(筑波大学)
目 的
青少年の人格形成・進路形成には,さまざまな要因が影響すると想定されるが,親の職業が何であるかも影響をもつことが予想される。特定の職業人の子どもだというだけで,望ましい人格や能力の高さを当然のこととして期待されることがあるからである。親の職業は子どもにとっては所与の環境であり,子ども自身は与えられたその環境を受け入れていくしかないものである。
本研究では,親の職業という所与の環境によって,子どもたちの心理的な経験に差異が生じているかどうかを明らかにすることを目的とした。
方 法
質問項目の構成は,1)親の職業に関する項目(計3項目,主として記述式),2)親の職業から受ける影響の項目(計24項目),3)親の職業を継ぐことに関する社会の価値観の項目(計8項目),4)親の職業に対する評価(計12項目),5)親に対する肯定的感情(計6項目),6)進路形成および人格形成の指標の項目(計18項目:三好・大野・内島・若原・大野(2003)によるS-ESDSの「identity達成 vs identity拡散」の尺度7項目から5項目抜粋および山本・松井・山成(1982)から4項目を抜粋した項目を含む)であった。評定項目はすべて5件法を用い,得点1~5を与えた。調査時期は2014年1月~2月。調査対象者は,短期大学を含む大学8校,中等教育学校を含む高校3校と中学3校の総計1896名(男子1000,女子896),平均年齢は17.24(SD=2.61)歳であった。
結果と考察
1. 各変数からの得点の算出
方法に記載した3)の項目に対して因子分析を行い,得られた結果の得点:平均(SD)について報告する。得点は,項目数で除したものを使用した。F1親の職業を通して評価される経験:1.51(0.80),F2親の職業を継ぐことの要請:1.44(0.77),F3親の職業をほめられる経験:2.60(1.38),F4優秀であるようにとの要請:2.58(1.10),F5問題を起こさないようにとの要請:2.94(1.05),F6親の職業が身近であること:2.53(1.20)。
2. 親の職業の記述の分類
1)の項目で,仕事をして家の家計を支えている「親(もしくは親代わりの人)」を一人選んでもらい,そこに書かれた職業名を集計して,「会社員」357,「教員」126,「公務員」123,「医者」58,「銀行員」50,「自営業」49,「看護師」37名に分類した。この7職種で分類された人数は800名。職業名の情報が得られた1747名の45.8%にあたる。
3. 親の職業の7職種間での得点比較
①親の職業を通して評価される経験の得点には有意差があり(F(6,789)=130.01,p<.001),「医者:3.09(0.91)」の場合に最も高く,次いで「教員:2.67(0.92)」の場合に高く,最も得点が低いのは「会社員:1.19(0.45)」の場合であった。
②親の職業を継ぐことの要請の得点には有意差があり(F(6,790)=44.82, p<.001),「医者:2.80(1.44)」の場合に最も高く,最も得点が低いのは「会社員:1.20(0.46)」の場合であった。
③親の職業をほめられる経験の得点には有意差があり(F(6,791)=45.77, p<.001),「医者:4.39(0.98)」の場合に最も高く,次いで「教員:3.56(1.24)」の場合に高く,「教員」との差はないが「看護師:3.31(1.28)」が続き,最も得点が低いのは「会社員:2.08(1.22)」の場合であった。
以上のことより,親の職業の違いによって,子どもたちの心理的な経験には差異が生じている可能性が高く,親が会社員などの場合に比べて,親が医者や教員である場合に特徴的であることが示唆された。
[科学研究費補助金(代表者:佐藤有耕,課題番号24653175)の助成を受けて実施された。]
佐藤有耕(筑波大学)
目 的
青少年の人格形成・進路形成には,さまざまな要因が影響すると想定されるが,親の職業が何であるかも影響をもつことが予想される。特定の職業人の子どもだというだけで,望ましい人格や能力の高さを当然のこととして期待されることがあるからである。親の職業は子どもにとっては所与の環境であり,子ども自身は与えられたその環境を受け入れていくしかないものである。
本研究では,親の職業という所与の環境によって,子どもたちの心理的な経験に差異が生じているかどうかを明らかにすることを目的とした。
方 法
質問項目の構成は,1)親の職業に関する項目(計3項目,主として記述式),2)親の職業から受ける影響の項目(計24項目),3)親の職業を継ぐことに関する社会の価値観の項目(計8項目),4)親の職業に対する評価(計12項目),5)親に対する肯定的感情(計6項目),6)進路形成および人格形成の指標の項目(計18項目:三好・大野・内島・若原・大野(2003)によるS-ESDSの「identity達成 vs identity拡散」の尺度7項目から5項目抜粋および山本・松井・山成(1982)から4項目を抜粋した項目を含む)であった。評定項目はすべて5件法を用い,得点1~5を与えた。調査時期は2014年1月~2月。調査対象者は,短期大学を含む大学8校,中等教育学校を含む高校3校と中学3校の総計1896名(男子1000,女子896),平均年齢は17.24(SD=2.61)歳であった。
結果と考察
1. 各変数からの得点の算出
方法に記載した3)の項目に対して因子分析を行い,得られた結果の得点:平均(SD)について報告する。得点は,項目数で除したものを使用した。F1親の職業を通して評価される経験:1.51(0.80),F2親の職業を継ぐことの要請:1.44(0.77),F3親の職業をほめられる経験:2.60(1.38),F4優秀であるようにとの要請:2.58(1.10),F5問題を起こさないようにとの要請:2.94(1.05),F6親の職業が身近であること:2.53(1.20)。
2. 親の職業の記述の分類
1)の項目で,仕事をして家の家計を支えている「親(もしくは親代わりの人)」を一人選んでもらい,そこに書かれた職業名を集計して,「会社員」357,「教員」126,「公務員」123,「医者」58,「銀行員」50,「自営業」49,「看護師」37名に分類した。この7職種で分類された人数は800名。職業名の情報が得られた1747名の45.8%にあたる。
3. 親の職業の7職種間での得点比較
①親の職業を通して評価される経験の得点には有意差があり(F(6,789)=130.01,p<.001),「医者:3.09(0.91)」の場合に最も高く,次いで「教員:2.67(0.92)」の場合に高く,最も得点が低いのは「会社員:1.19(0.45)」の場合であった。
②親の職業を継ぐことの要請の得点には有意差があり(F(6,790)=44.82, p<.001),「医者:2.80(1.44)」の場合に最も高く,最も得点が低いのは「会社員:1.20(0.46)」の場合であった。
③親の職業をほめられる経験の得点には有意差があり(F(6,791)=45.77, p<.001),「医者:4.39(0.98)」の場合に最も高く,次いで「教員:3.56(1.24)」の場合に高く,「教員」との差はないが「看護師:3.31(1.28)」が続き,最も得点が低いのは「会社員:2.08(1.22)」の場合であった。
以上のことより,親の職業の違いによって,子どもたちの心理的な経験には差異が生じている可能性が高く,親が会社員などの場合に比べて,親が医者や教員である場合に特徴的であることが示唆された。
[科学研究費補助金(代表者:佐藤有耕,課題番号24653175)の助成を受けて実施された。]