日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PD

(501)

2014年11月8日(土) 10:00 〜 12:00 501 (5階)

[PD095] 生涯発達におけるクオリティ・オブ・ライフと精神的健康(1)

家庭の社会経済的状況と子どもの発達との関連

菅原ますみ1, 松本聡子2 (1.お茶の水女子大学大学院, 2.お茶の水女子大学)

キーワード:家庭の社会経済的状況, Family Stress Model, Family Investment Model

目 的
本プロジェクト(“生涯発達におけるクオリティ・オブ・ライフと精神的健康”)では,妊娠・出産期あるいは幼少期から親子の発達を追跡してきている長期縦断サンプル(1,151世帯父母子合計3,863名)を対象とし,2014年2月から2016年2月まで年1回3波にわたる縦断的調査によって,児童期から成人前期までの子どもと,成人前期から初老期までの両親のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)と精神的健康との関連について検討をおこなうことを目的としている。今回の報告では,サンプルのうち小学生の子どもを持つ世帯を対象とし,対象児童が0歳時点から小学校5年生に至るまでの家庭の社会経済的状況の変遷と子どもの精神的健康および学業成績との関連について,親子のQOLを媒介としたモデルによって検討する。
近年,貧困を含む家庭の経済的な困難が人間発達に及ぼす影響について科学的な関心が向けられるようになり,格差社会が進行し子どもの貧困防止法が2013年に制定された日本においても検証の必要性が認識されるようになってきた(阿部2008; 山野, 2008, 菅原, 2014, Huston & Bentley, 2010)。Congerらの研究グループでは,家庭のSESの影響について,社会原因論(家族ストレスモデル(Family Stress Model)と家族投資モデル (Family Investment Model))と社会的選択論(親の個人的特徴の影響を重視)を組み合わせ、図のような多世代にわたる相互作用モデル (The Interactionist Model of Socioeconomic Influence on Child Development: IMSI, Martin et al., 2010; Schofield et al, 2011) を提唱している。今回の報告では,このIMSIの枠組みに準拠しておこなった分析結果について報告する。
方 法
研究参加者 子どもの養育環境に関する縦断サンプル(“子どもに良い環境プロジェクト”)の対象世帯のうち、0歳から小学校5年生までの追跡が可能であった328世帯(父親・母親・対象児童)を解析の対象とした。
測定尺度 家庭の社会経済的状況については,両親および両親の父母(祖父母)の学歴,世帯の可処分所得,現在の経済的困窮感,両親が15歳時の実家の経済的状況等の指標によって測定をおこなった。家族ストレスに関しては,両親の抑うつ・不安傾向,夫婦間葛藤,両親のQOL(WHOQOL-26)等によって測定し,また家族の物質的および情緒的投資については各種教育財の有無や習い事,養育態度,子どもの教育に対するサポート行動等によって測定をおこなった。両親の個人的特徴は5因子性格検査(NEO-FFI)を用いた。子どもの結果変数は,情緒社会的な問題行動傾向(Strengths and Difficulties Questionnaire)と学業成績,また子ども自身のQOL(KINDL)をそれぞれモデルに投入した。
仮説モデルに沿って共分散構造分析によって解析した結果について発表する。

<引用文献>
阿部 彩 2008 子どもの貧困-日本の不公平を考える. 岩波新書1157
Huston, A.C., & Bentley, A.C. 2010 Human development in social context. Annual Review of Psychology, 61, 411-437.
Martin, M.J., Conger, R.D., Schofield, T.J. & Family Research Group. 2010 Evaluation of the interactionist model of socioeconomic status and problem behavior: A developmental cascade across generations. Development and Psychopathology, 22, 695-713.
Schofield, T.J., Martin, M.J., Conger, R.D. et al. 2011 Intergenerational transmission of adaptive functioning: A test of the Interactionist Model of SES and human development. Child Development, 82, 33-47.
菅原ますみ 2014 貧困と子どものQOL. 児童心理学の進歩, 印刷中.
山野良一 2008 子どもの最貧国・日本-学力・心身・社会におよぶ諸影響. 光文社新書367.