[PE024] やる気がない他者に課題を取り組ませる方略の分類
Keywords:動機づけ方略, 一緒に, 協同効用
問題と目的
他者と協力し諸問題を解決していく能力はいつの時代も求められる汎用的なものである。その能力は集団遊びの中で活用されたり,小学校からの学校生活におけるグループ活動で活用されたり育成されたりする。例えば,集団内での役割を分担して集団の目標を達成したり,リーダーシップを発揮して問題解決を進めたりなどがある。
いわゆるグループ活動は常に円滑に進むものではなく,その活動の遂行には多くの問題が生じるのが一般的である。特に,グループの成員が目標を共有せず,グループで協力することの価値や方法を知らない場合,グループの成果にただ乗りしようと試みる成員が現れたり,声や力の大きい成員だけが決定し活動したりといったことが生じやすくなる。このようなグループ活動を学校生活の中で繰り返し経験すると,他者と協同することに価値を見いだす協同効用の認識が低下することが予想される。つまり,学校でグループ活動をさせることで他者と協力することに価値を見いだせなくなる可能性があるといえる。
このような状況に対して,近年,学校生活での他者と協力して学習する方法が注目されており(e.g., 杉江,2011),より適切な方法による集団での学習の実践が試みやすくなっている。多くの方法に共通するのは成員の協同作業に対する認識(長濱・安永・関田・甲原,2009)が高いこと,その認識を維持する仕組みがあることである。また,グループ活動に積極的にコミットしない他者を自らの学びの不可欠な環境として見放さずグループ活動に関与させ続けることは少人数での協同学習を遂行する上で大切な要因となる。
そこで本研究では,やればできるのにやる気を失っている他者にどのようにアプローチするのか,その方略を収集し分類することを目的とした質問紙調査を行う。アプローチの分類は,伊藤・神藤(2003)の自己動機づけ方略項目に基づいて行う。やる気を失っている状況は内発的動機づけによって行動できないことを示唆しており,そのような他者に対しては報酬方略や負担軽減方略によるアプローチが試みられると予想した。
方法
対象者:大学生127名(男性21名,女性106名),1年生を対象とする教育心理学の受講者。質問項目:「ある課題をする能力はあるのに,「やる気がない」と言って取り組まず,そのために低い評価を受けている人がいます。この人に課題をするやる気を持たせるためには,どのようにしますか」という質問に自由記述で回答した。手続き:授業中にFDの一貫としてその他の実施項目と一緒に回答させた。回答時間は約5分であった。
結果と考察
対象者が回答した方略数は延べ144個(複数回答あり)であった。この144個を伊藤・神藤(2003)の8つの自己動機づけ方略(1:整理方略,2:想像方略,3:ながら方略,4:負担軽減方略,5:めりはり方略,6:内容方略,7:社会的方略,8:報酬方略)と7つの動機づけ方略(9:励まし方略,10:褒め方略,11:説得(認知変容)方略,12:皮肉方略,13:叱責方略,14:状況説明方略,15:他)の計15方略に分類した。その結果,最も回答数が多い方略は,「7:社会的方略(47個:32.6%)」であった。以降,「11:説得(認知変容)方略(18個:12.5%)」,「8:報酬方略(14個:9.7%)」,「9:励まし方略(13個:9.0%)」,「6:内容方略(9個:6.3%)」,「10:褒め方略(9個:6.3%)」と続いた。
「7:社会的方略」の具体的な内訳は「一緒にする」「一緒に頑張る」「一緒に勉強する」「一緒に頑張ろうと声を掛ける」「一緒にやろうと誘う」「やる気のない集団を作り,その中で活動させる」「競争し合う」「一緒に頑張って負けてたまるかという意欲を出させる」「まわりがやる気を出して焦らせる」等であった。47個中42個が共に課題に取り組もうとするもので,競争場面や危機的状況を作ってやる気を引き出そうとするものは少なかった。
この結果は報酬方略や負担軽減方略が多く試みられるとする予想に反しており,他者のやる気を引き出す方略として協同的な社会的関係を利用することが見い出された。但し,本研究の対象者は教職志望者であり,その特性が相手と共に活動するという方略を選ばせた可能性は否定できない。今後は,調査対象者の特性を統制し,自己動機づけ方略や協同作業に対する認識との関係を検討することが求められよう。
他者と協力し諸問題を解決していく能力はいつの時代も求められる汎用的なものである。その能力は集団遊びの中で活用されたり,小学校からの学校生活におけるグループ活動で活用されたり育成されたりする。例えば,集団内での役割を分担して集団の目標を達成したり,リーダーシップを発揮して問題解決を進めたりなどがある。
いわゆるグループ活動は常に円滑に進むものではなく,その活動の遂行には多くの問題が生じるのが一般的である。特に,グループの成員が目標を共有せず,グループで協力することの価値や方法を知らない場合,グループの成果にただ乗りしようと試みる成員が現れたり,声や力の大きい成員だけが決定し活動したりといったことが生じやすくなる。このようなグループ活動を学校生活の中で繰り返し経験すると,他者と協同することに価値を見いだす協同効用の認識が低下することが予想される。つまり,学校でグループ活動をさせることで他者と協力することに価値を見いだせなくなる可能性があるといえる。
このような状況に対して,近年,学校生活での他者と協力して学習する方法が注目されており(e.g., 杉江,2011),より適切な方法による集団での学習の実践が試みやすくなっている。多くの方法に共通するのは成員の協同作業に対する認識(長濱・安永・関田・甲原,2009)が高いこと,その認識を維持する仕組みがあることである。また,グループ活動に積極的にコミットしない他者を自らの学びの不可欠な環境として見放さずグループ活動に関与させ続けることは少人数での協同学習を遂行する上で大切な要因となる。
そこで本研究では,やればできるのにやる気を失っている他者にどのようにアプローチするのか,その方略を収集し分類することを目的とした質問紙調査を行う。アプローチの分類は,伊藤・神藤(2003)の自己動機づけ方略項目に基づいて行う。やる気を失っている状況は内発的動機づけによって行動できないことを示唆しており,そのような他者に対しては報酬方略や負担軽減方略によるアプローチが試みられると予想した。
方法
対象者:大学生127名(男性21名,女性106名),1年生を対象とする教育心理学の受講者。質問項目:「ある課題をする能力はあるのに,「やる気がない」と言って取り組まず,そのために低い評価を受けている人がいます。この人に課題をするやる気を持たせるためには,どのようにしますか」という質問に自由記述で回答した。手続き:授業中にFDの一貫としてその他の実施項目と一緒に回答させた。回答時間は約5分であった。
結果と考察
対象者が回答した方略数は延べ144個(複数回答あり)であった。この144個を伊藤・神藤(2003)の8つの自己動機づけ方略(1:整理方略,2:想像方略,3:ながら方略,4:負担軽減方略,5:めりはり方略,6:内容方略,7:社会的方略,8:報酬方略)と7つの動機づけ方略(9:励まし方略,10:褒め方略,11:説得(認知変容)方略,12:皮肉方略,13:叱責方略,14:状況説明方略,15:他)の計15方略に分類した。その結果,最も回答数が多い方略は,「7:社会的方略(47個:32.6%)」であった。以降,「11:説得(認知変容)方略(18個:12.5%)」,「8:報酬方略(14個:9.7%)」,「9:励まし方略(13個:9.0%)」,「6:内容方略(9個:6.3%)」,「10:褒め方略(9個:6.3%)」と続いた。
「7:社会的方略」の具体的な内訳は「一緒にする」「一緒に頑張る」「一緒に勉強する」「一緒に頑張ろうと声を掛ける」「一緒にやろうと誘う」「やる気のない集団を作り,その中で活動させる」「競争し合う」「一緒に頑張って負けてたまるかという意欲を出させる」「まわりがやる気を出して焦らせる」等であった。47個中42個が共に課題に取り組もうとするもので,競争場面や危機的状況を作ってやる気を引き出そうとするものは少なかった。
この結果は報酬方略や負担軽減方略が多く試みられるとする予想に反しており,他者のやる気を引き出す方略として協同的な社会的関係を利用することが見い出された。但し,本研究の対象者は教職志望者であり,その特性が相手と共に活動するという方略を選ばせた可能性は否定できない。今後は,調査対象者の特性を統制し,自己動機づけ方略や協同作業に対する認識との関係を検討することが求められよう。