[PE049] 情動的標識化による読み手の理解促進に関する検討
医療場面における注意喚起文章の効果とは
キーワード:説明文章, 読み手意識, 標識化
【はじめに】
わかりやすい説明文章の産出に際して「読み手意識(audience awareness)」の重要性が指摘されている(岸・辻・籾山,2014)。読み手意識とは「読み手に関する情報を抽出し,その情報をふまえて書く内容や文章表現を選択する活動(崎濱,2003)」である。岸らは,読み手意識の指導観点の検討に際して,構成概念の検討を行った。その結果より,「説明意識」「書き手意識」「メタ理解」「工夫実践」の4因子からなることが示された。
ここで「工夫実践」因子とは,例示などを行うことや,聞き手の興味や関心を引き出す取組みである。この具体的な手法の一つに,標識化が挙げられる。標識化とは,主に見出しや視覚的符号を用いて文章の上位構造を強調することによって,文章理解や記憶の促進,および記憶の体制化を促すものである(山本・島田,2008)。
本研究では,読み手の理解を促す「工夫実践」の手法として,標識化の効果に注目する。これまで,標識化に関する検討は,情報伝達の枠組みの側面から検討されてきた。ここでは,情動的な側面に注目する。説明文章の産出に際して,情動的標識化を行った場合,文章理解や記憶の促進は見られるのだろうか。本研究では,医療場面における説明文章(投薬指導文章)に注目し,情動的な注意喚起文章の呈示による文章理解の成績の検討を行う。この検討に際して,リスク強調要因(あり・なし),服用者要因(本人・他者),調査時期要因(直後・遅延),これらの要因に注目した。
【方法】
[被験者]非医療系の大学生41名であった。
[実験材料]慢性疾患に関する架空の治療薬の説明文章を作成した。リスク強調要因に関して,2種類の資料を用意した。強調あり群においては「身体に重篤な影響を引き起こす危険性」を赤字で強調した。強調なし群においては「用法・用量を守る大切さ」を記述した。理解度の測定に際して,キンチュの文章理解モデルに基づき,テキストベースの理解度を問う穴埋め問題,状況モデルの理解度を問う記述問題を設定した。また,理解度に関する自己評価を行わせた。
[実験手続き]被験者の背景要因をフェイスシートに記入させた。その後,投薬指導文書を読ませ(15分),直後に理解度テストを実施した。また,一週間後に同一テスト(遅延)を行った。
【結果と考察】
それぞれの分析結果を以下に示す。
(1)情動的標識化とテキストベースの理解:調査時期要因に主効果が見られた(直後>遅延:p<.01)。その他の主効果,交互作用(一次,二次)は見られなかった。
(2)情動的標識化と状況モデルの理解度:要因間の主効果,交互作用(一次,二次)は見られなかった。
(3)情動的標識化と理解度自己評定の関連:調査時期要因(直後>遅延:p<.01),および服用者要因(本人>他者:p<.01)に主効果が見られた。その他の主効果,交互作用(一次,二次)は見られなかった。
(4)時間経過による理解度の低下:状況モデルの理解度に低下が見られた(p<.05)。テキストベースの理解度に,主効果は見られなかった。
(5)フェイスシートとの関連:医療行為に親しみを感じない群において,テキストベースの理解度得点の低下が見られた(p<.01)。
これら(1)~(5)の結果より,時間の経過によって医薬品に対する理解度の低下が確認された。また,服用者が自分自身の場合に,理解度自己評定が高い結果が見られた。この理由として,医薬品の使用に対して他者に対する責任を負わないためと考えられる。その一方,リスク強調要因に関する理解度の違いは見られなかった。この結果は,「用法・用量を誤った場合,身体に重篤な影響を及ぼす可能性があります」などの,情動的な注意喚起文は,読み手の記憶や理解を促進していない可能性を示している。この理由として,日常的に投薬指導文書が読み飛ばされている可能性,また,実際には医薬品を服用しない実験条件の設定も影響を及ぼした可能性が考えられる。今後,これらの点に配慮した追試が必要と考えられる。
【結論】
・情動的標識化の有無によって,文章理解度(テキストベース・状況モデル)に違いは見られない。
・他の要因(時間経過,医療の親しみなど)が,医療文章の理解度に影響している可能性が示された。
わかりやすい説明文章の産出に際して「読み手意識(audience awareness)」の重要性が指摘されている(岸・辻・籾山,2014)。読み手意識とは「読み手に関する情報を抽出し,その情報をふまえて書く内容や文章表現を選択する活動(崎濱,2003)」である。岸らは,読み手意識の指導観点の検討に際して,構成概念の検討を行った。その結果より,「説明意識」「書き手意識」「メタ理解」「工夫実践」の4因子からなることが示された。
ここで「工夫実践」因子とは,例示などを行うことや,聞き手の興味や関心を引き出す取組みである。この具体的な手法の一つに,標識化が挙げられる。標識化とは,主に見出しや視覚的符号を用いて文章の上位構造を強調することによって,文章理解や記憶の促進,および記憶の体制化を促すものである(山本・島田,2008)。
本研究では,読み手の理解を促す「工夫実践」の手法として,標識化の効果に注目する。これまで,標識化に関する検討は,情報伝達の枠組みの側面から検討されてきた。ここでは,情動的な側面に注目する。説明文章の産出に際して,情動的標識化を行った場合,文章理解や記憶の促進は見られるのだろうか。本研究では,医療場面における説明文章(投薬指導文章)に注目し,情動的な注意喚起文章の呈示による文章理解の成績の検討を行う。この検討に際して,リスク強調要因(あり・なし),服用者要因(本人・他者),調査時期要因(直後・遅延),これらの要因に注目した。
【方法】
[被験者]非医療系の大学生41名であった。
[実験材料]慢性疾患に関する架空の治療薬の説明文章を作成した。リスク強調要因に関して,2種類の資料を用意した。強調あり群においては「身体に重篤な影響を引き起こす危険性」を赤字で強調した。強調なし群においては「用法・用量を守る大切さ」を記述した。理解度の測定に際して,キンチュの文章理解モデルに基づき,テキストベースの理解度を問う穴埋め問題,状況モデルの理解度を問う記述問題を設定した。また,理解度に関する自己評価を行わせた。
[実験手続き]被験者の背景要因をフェイスシートに記入させた。その後,投薬指導文書を読ませ(15分),直後に理解度テストを実施した。また,一週間後に同一テスト(遅延)を行った。
【結果と考察】
それぞれの分析結果を以下に示す。
(1)情動的標識化とテキストベースの理解:調査時期要因に主効果が見られた(直後>遅延:p<.01)。その他の主効果,交互作用(一次,二次)は見られなかった。
(2)情動的標識化と状況モデルの理解度:要因間の主効果,交互作用(一次,二次)は見られなかった。
(3)情動的標識化と理解度自己評定の関連:調査時期要因(直後>遅延:p<.01),および服用者要因(本人>他者:p<.01)に主効果が見られた。その他の主効果,交互作用(一次,二次)は見られなかった。
(4)時間経過による理解度の低下:状況モデルの理解度に低下が見られた(p<.05)。テキストベースの理解度に,主効果は見られなかった。
(5)フェイスシートとの関連:医療行為に親しみを感じない群において,テキストベースの理解度得点の低下が見られた(p<.01)。
これら(1)~(5)の結果より,時間の経過によって医薬品に対する理解度の低下が確認された。また,服用者が自分自身の場合に,理解度自己評定が高い結果が見られた。この理由として,医薬品の使用に対して他者に対する責任を負わないためと考えられる。その一方,リスク強調要因に関する理解度の違いは見られなかった。この結果は,「用法・用量を誤った場合,身体に重篤な影響を及ぼす可能性があります」などの,情動的な注意喚起文は,読み手の記憶や理解を促進していない可能性を示している。この理由として,日常的に投薬指導文書が読み飛ばされている可能性,また,実際には医薬品を服用しない実験条件の設定も影響を及ぼした可能性が考えられる。今後,これらの点に配慮した追試が必要と考えられる。
【結論】
・情動的標識化の有無によって,文章理解度(テキストベース・状況モデル)に違いは見られない。
・他の要因(時間経過,医療の親しみなど)が,医療文章の理解度に影響している可能性が示された。