[PE063] 葛藤抑制の発達とその機能
“思いやり的嘘”に着目して
Keywords:葛藤抑制, “思いやり的嘘”
【目的】
幼児期の認知発達と社会性の発達は密接に関連する。本研究では,適切な反応をするために優勢な反応を抑制する能力である葛藤抑制と,他者のためにつく“思いやり的嘘”の関連を検討する。幼児期を通して葛藤抑制能力が発達し,それにともなって“思いやり的嘘”をつくことができるようになると考えられる。
【方法】
実験参加者:A県内の幼稚園に通う年少児19名,年中児20名,年長児20名を対象とした。
赤/青課題:葛藤抑制を測定する課題として実施した。実験参加者の前に赤と青のカードを1枚ずつ置き,実験者が赤/青と言ったら青/赤のカードを選択するように教示した。赤5試行,青5試行の計10試行をランダムに実施し,正反応数を得点とした。
アンパンマン/バイキンマン課題:瓜生(2007)を参考に,困っているアンパンマンを助ける課題(アンパンマン課題)と,困っているアンパンマンを助けるためにバイキンマンに真実とは異なることを教える課題(バイキンマン課題)を実施した。アンパンマン課題では正しい位置を,バイキンマン課題では正しくない位置を教えることができた場合を正答とした。
【結果と考察】
赤/青課題 (Table 1):Fisherの直接確率検定の結果,年少児は5点,6点の者が有意に多く(ps < .01),10点の者が有意に少なかった(p < .05)。年中児は8点の者が有意に多く,年長児では10点の者が有意に多かった(ps < .05)。学年が上がるにつれて葛藤抑制能力が向上することが示された。
アンパンマン/バイキンマン課題:アンパンマン課題には全員が正答し,バイキンマン課題には年少児4名,年中児16名,年長児19名が正答した。Fisherの直接確率検定の結果,年少児は誤答者が,年長児では正答者が有意に多かった(ps < .001)。アンパンマンを助けるために,バイキンマンに真実とは異なることを教える“思いやり的嘘”をつく力も葛藤抑制と同様,学年が上がるにつれて向上することが示された。
赤/青課題とバイキンマン課題の関連 (Table 2):赤/青課題が6点未満でバイキンマン課題に正答した参加者はおらず,赤/青課題が9点だった参加者の76%(13人),10点だった参加者の84%(21人)がバイキンマン課題に正答した。Fisherの直接確率検定の結果,赤/青課題が2点,5点,6点の場合にバイキンマン課題の正答者が有意に少なく,赤/青課題が10点の場合にはバイキンマン課題の正答者が有意に多かった(ps < .05)。
続いて,葛藤抑制が“思いやり的嘘”に与える影響を検討するため,アンパンマン/バイキンマン課題を目的変数,学年と赤/青課題の得点を説明変数とする階層的重回帰分析を行った結果,赤/青課題得点からアンパンマン/バイキンマン課題への影響が有意であった (β = .37, R2 = .51, ΔR2 = .11, ps < .001)。学年が上がるにつれて“思いやり的嘘”をつくことができるようになるが,学年の影響を統制しても赤/青課題からの有意な影響が認められ,葛藤抑制能力は“思いやり的嘘”を可能にする幼児個人の認知的基盤として働いている可能性が示唆された。
幼児期の認知発達と社会性の発達は密接に関連する。本研究では,適切な反応をするために優勢な反応を抑制する能力である葛藤抑制と,他者のためにつく“思いやり的嘘”の関連を検討する。幼児期を通して葛藤抑制能力が発達し,それにともなって“思いやり的嘘”をつくことができるようになると考えられる。
【方法】
実験参加者:A県内の幼稚園に通う年少児19名,年中児20名,年長児20名を対象とした。
赤/青課題:葛藤抑制を測定する課題として実施した。実験参加者の前に赤と青のカードを1枚ずつ置き,実験者が赤/青と言ったら青/赤のカードを選択するように教示した。赤5試行,青5試行の計10試行をランダムに実施し,正反応数を得点とした。
アンパンマン/バイキンマン課題:瓜生(2007)を参考に,困っているアンパンマンを助ける課題(アンパンマン課題)と,困っているアンパンマンを助けるためにバイキンマンに真実とは異なることを教える課題(バイキンマン課題)を実施した。アンパンマン課題では正しい位置を,バイキンマン課題では正しくない位置を教えることができた場合を正答とした。
【結果と考察】
赤/青課題 (Table 1):Fisherの直接確率検定の結果,年少児は5点,6点の者が有意に多く(ps < .01),10点の者が有意に少なかった(p < .05)。年中児は8点の者が有意に多く,年長児では10点の者が有意に多かった(ps < .05)。学年が上がるにつれて葛藤抑制能力が向上することが示された。
アンパンマン/バイキンマン課題:アンパンマン課題には全員が正答し,バイキンマン課題には年少児4名,年中児16名,年長児19名が正答した。Fisherの直接確率検定の結果,年少児は誤答者が,年長児では正答者が有意に多かった(ps < .001)。アンパンマンを助けるために,バイキンマンに真実とは異なることを教える“思いやり的嘘”をつく力も葛藤抑制と同様,学年が上がるにつれて向上することが示された。
赤/青課題とバイキンマン課題の関連 (Table 2):赤/青課題が6点未満でバイキンマン課題に正答した参加者はおらず,赤/青課題が9点だった参加者の76%(13人),10点だった参加者の84%(21人)がバイキンマン課題に正答した。Fisherの直接確率検定の結果,赤/青課題が2点,5点,6点の場合にバイキンマン課題の正答者が有意に少なく,赤/青課題が10点の場合にはバイキンマン課題の正答者が有意に多かった(ps < .05)。
続いて,葛藤抑制が“思いやり的嘘”に与える影響を検討するため,アンパンマン/バイキンマン課題を目的変数,学年と赤/青課題の得点を説明変数とする階層的重回帰分析を行った結果,赤/青課題得点からアンパンマン/バイキンマン課題への影響が有意であった (β = .37, R2 = .51, ΔR2 = .11, ps < .001)。学年が上がるにつれて“思いやり的嘘”をつくことができるようになるが,学年の影響を統制しても赤/青課題からの有意な影響が認められ,葛藤抑制能力は“思いやり的嘘”を可能にする幼児個人の認知的基盤として働いている可能性が示唆された。