[PE062] 青年期のかわいそう感と共感性
「かわいそう」はよくないのか
Keywords:青年, かわいそう感, 共感性
問題と目的
援助の必要な状況でも,かわいそう,気の毒と感じたり表現することに抵抗感を示す青年がいる。「かわいそう」は共感ではなく,言ってはいけないと感じているようである。このような傾向は,他者への配慮や若い養育者の子どもへの敏感さ,適切な応答性を妨げる要因となり得る。そこで「かわいそう」と表現することにどの程度抵抗感があり,その抵抗感が何に由来するのか,具体的には共感的反応の姿や青年自身によって認知された親の特徴との関連について探索的な検討を試みる。
方法
調査対象・時期:25歳未満の大学生,短大生および専門学校生574名(平均年齢18.9歳,男73,女501,うち保育系373名)。2013年11月実施。
調査内容:(1)「かわいそう」と表明することの「言ってもよい」「言わない方がよい」「どちらでもよい」の選択。(2)かわいそう感 学生の自由記述を参考に,かわいそう表明の是非の判断理由を以下の5側面を考慮して作成。「人間の尊厳(相手を傷つけてしまう等)」「言い方の問題(見下しているよう等)」「情緒的態度(相手の気持ちに寄り添うのはよいこと等)」の認知的側面と「もし自分であったら(そのように言われたら嫌だ等)」という傾向,「他者の視線を気にする」傾向。計25項目(4件法)。(3)多次元共感性尺度(鈴木・木野,2008)「被影響性」「他者指向的反応」「想像性」「視点取得」「自己指向的反応」の5側面,計24項目(5件法)。(4)親の特徴の認知 親の他者への共感的態度(積極的な行動・消極的行動・感情表現の苦手さ)や自分への共感的働きかけの認知を問う18項目(5件法)。
結果と考察
1.「かわいそう」と言うことへの是非
言ってもよい81名(14.1%),言わない方がよい226名(39.4%),どちらでもよい264名(45.9%)。多くが「かわいそう」表現に何らかの抵抗を感じている。上位学年で「どちらでもよい」が多い。
2.回答の得点化
(1)かわいそう感(判断理由)の因子分析により,相手を見下す,人格を傷つける,に抵抗を示す「失礼な態度」,「かわいそう」を肯定する「哀れみ大切」,人の事は関心がない,負担をかけられたくない「関心のなさ」の3因子を得た。(2)多次元共感性尺度は各下位尺度ごとに尺度得点を算出し共感性の得点とした。(3)認知された親の特徴では因子分析により,他者が困っていても親の関心が低いと感じた「親の無関心さ」,親の愛他的行動が積極的と感じた「親の愛他性」,自分に共感や理解を示したと感じた「私への共感」の3因子を得た。
3.「かわいそう」の是非による比較
「言わない方がよい」者は,相手に失礼だと考え人に対しての哀れみは大切と考えない。人に関心がなく負担はいやという者は「言ってもよい」と回答。共感性因子,認知された親の特徴因子について差はない。(1元配置分散分析)
4.相互の関係
他者に配慮し他者の立場にたって共感することと,かわいそうは大切,他者に関心があることの間には関連がある(Table1)。「関心のなさ」は他者のかわいそうな様子を気にせず,それを見た時に感じる苦痛を避けようとする傾向との関係が示唆される。「失礼な態度」となるから抵抗があると考える傾向と共感性には関連が見られない。「親の愛他性」とは弱い関連が見られる。親の共感的行動は子どもの他者の苦痛への態度や感受性と関連する(Table2)。「親の無関心さ」は子どもの他者の気持ちにはあまり寄り添わない傾向と関連する。
5.保育系学生の特徴
他者指向で自己指向的傾向は低い(p<.01)が、相手の立場にたって理解しようという傾向はない。
人の気持ちに寄り添うことを大切と考えない者,親がよくかわいそうと言っていたという者は,「言わない方がよい」としていた。「どちらでもよい」は多いが,判断理由はやや複雑で,思いやりの低さや不快感情の回避を反映している可能性もある。
援助の必要な状況でも,かわいそう,気の毒と感じたり表現することに抵抗感を示す青年がいる。「かわいそう」は共感ではなく,言ってはいけないと感じているようである。このような傾向は,他者への配慮や若い養育者の子どもへの敏感さ,適切な応答性を妨げる要因となり得る。そこで「かわいそう」と表現することにどの程度抵抗感があり,その抵抗感が何に由来するのか,具体的には共感的反応の姿や青年自身によって認知された親の特徴との関連について探索的な検討を試みる。
方法
調査対象・時期:25歳未満の大学生,短大生および専門学校生574名(平均年齢18.9歳,男73,女501,うち保育系373名)。2013年11月実施。
調査内容:(1)「かわいそう」と表明することの「言ってもよい」「言わない方がよい」「どちらでもよい」の選択。(2)かわいそう感 学生の自由記述を参考に,かわいそう表明の是非の判断理由を以下の5側面を考慮して作成。「人間の尊厳(相手を傷つけてしまう等)」「言い方の問題(見下しているよう等)」「情緒的態度(相手の気持ちに寄り添うのはよいこと等)」の認知的側面と「もし自分であったら(そのように言われたら嫌だ等)」という傾向,「他者の視線を気にする」傾向。計25項目(4件法)。(3)多次元共感性尺度(鈴木・木野,2008)「被影響性」「他者指向的反応」「想像性」「視点取得」「自己指向的反応」の5側面,計24項目(5件法)。(4)親の特徴の認知 親の他者への共感的態度(積極的な行動・消極的行動・感情表現の苦手さ)や自分への共感的働きかけの認知を問う18項目(5件法)。
結果と考察
1.「かわいそう」と言うことへの是非
言ってもよい81名(14.1%),言わない方がよい226名(39.4%),どちらでもよい264名(45.9%)。多くが「かわいそう」表現に何らかの抵抗を感じている。上位学年で「どちらでもよい」が多い。
2.回答の得点化
(1)かわいそう感(判断理由)の因子分析により,相手を見下す,人格を傷つける,に抵抗を示す「失礼な態度」,「かわいそう」を肯定する「哀れみ大切」,人の事は関心がない,負担をかけられたくない「関心のなさ」の3因子を得た。(2)多次元共感性尺度は各下位尺度ごとに尺度得点を算出し共感性の得点とした。(3)認知された親の特徴では因子分析により,他者が困っていても親の関心が低いと感じた「親の無関心さ」,親の愛他的行動が積極的と感じた「親の愛他性」,自分に共感や理解を示したと感じた「私への共感」の3因子を得た。
3.「かわいそう」の是非による比較
「言わない方がよい」者は,相手に失礼だと考え人に対しての哀れみは大切と考えない。人に関心がなく負担はいやという者は「言ってもよい」と回答。共感性因子,認知された親の特徴因子について差はない。(1元配置分散分析)
4.相互の関係
他者に配慮し他者の立場にたって共感することと,かわいそうは大切,他者に関心があることの間には関連がある(Table1)。「関心のなさ」は他者のかわいそうな様子を気にせず,それを見た時に感じる苦痛を避けようとする傾向との関係が示唆される。「失礼な態度」となるから抵抗があると考える傾向と共感性には関連が見られない。「親の愛他性」とは弱い関連が見られる。親の共感的行動は子どもの他者の苦痛への態度や感受性と関連する(Table2)。「親の無関心さ」は子どもの他者の気持ちにはあまり寄り添わない傾向と関連する。
5.保育系学生の特徴
他者指向で自己指向的傾向は低い(p<.01)が、相手の立場にたって理解しようという傾向はない。
人の気持ちに寄り添うことを大切と考えない者,親がよくかわいそうと言っていたという者は,「言わない方がよい」としていた。「どちらでもよい」は多いが,判断理由はやや複雑で,思いやりの低さや不快感情の回避を反映している可能性もある。