[PE067] 菱形および五角形の一筆描き課題における描線動作の発達
日本の幼児・児童を対象とした分析
キーワード:描線動作, 幼児, 児童
問 題
田口(2013)は,日本の4~5歳児を対象に菱形などの図形の一筆描き課題を実施し,その描線動作を分析した。その結果,5歳児は4歳児と比べて描き始めの位置が図形の上側の頂点に集中すること,他方,図形を描くときの手の動きについては4~5歳児で差がみられず,両群とも時計回りと反時計回りの描き方が半数ずつみられることが示された。5歳児頃では,描画開始位置が成人に類似することが示されたといえる。ところで,書字教育が本格的に開始される小学生では,幼児期の子どもとは異なる描画反応がみられると予想される。そこで,本研究では小学1年生を対象に図形の一筆描き課題を実施し,その結果について4~5歳児の結果と比較し,幼児期から児童期にかけての描線動作の発達的変化を明らかにする。
方 法
被験児 実験に協力してくれたのは埼玉県内の保育園の園児で年中児20名(平均年齢4歳5ヶ月),年長児19名(平均年齢5歳6ヶ月),さらに埼玉県内の小学1年生13名(平均年齢6歳5ヶ月)であった。いずれも右手で描画をおこなった。
手続き 実験は実験者と被験児の一対一による個別法でおこなわれた。事前に菱形や五角形などの図形が点線で描かれた実験用紙を用意し,各図形について任意の位置から一筆でなぞり描きするように教示した。実験者は被験児の右斜め後ろに座り,各図形の描き始めの位置と描画中の手の動きを記録した。描画開始位置については各図形の頂点に分類し,描画中の手の動きに関しては時計回りと反時計回りに分類した。
結 果
描画開始位置 各描画開始位置の反応頻度を群ごとにTable1に示した。描画開始位置に群間で違いがみられるかを検討するためFisherの直接法により分析をおこなった。その結果,菱形では有意差がみられ(p=.044),小学1年生や年長児では上の頂点から描き始めことが多く,いっぽう年中児では描き始めの位置が分散する傾向にあった。また,有意差はないが五角形では,とくに小学1年生で上の頂点から描き始める傾向が強かった(Table1)。
描画方向 各図形における時計回り,反時計回りの描き方の頻度を描画開始位置ごとにTable2に示した。描画中の手の動きに違いがあるかを検討するため,各図形とも年齢群ごとにFisherの直接法により分析をおこなった。その結果,小学1年の五角形の描画で有意な結果が得られた(p=.035)。小学1年生では五角形を上の頂点から描き始める場合,反時計回りの描画が多いことが示された。
考 察
小学1年生になると,菱形や五角形を上の頂点から描き始める傾向がいっそう強まることが示唆された。さらに,上の頂点から図形を描き始めた場合,小学1年生では反時計回りの描画が増加することも示された。こうした描線動作は日本人大学生にも多くみられる(田口,2013)。書字教育の開始に伴い,日本人に特有の描線動作が現れるようになることが本研究結果から示唆された。
引用文献
田口雅徳(2013)図形の一筆描き課題における幼児の描線動作の発達的特徴:日本の右利き4-5歳児と大学生の比較による検討 日本心理学会第77回大会発表論文集,p.939.
田口(2013)は,日本の4~5歳児を対象に菱形などの図形の一筆描き課題を実施し,その描線動作を分析した。その結果,5歳児は4歳児と比べて描き始めの位置が図形の上側の頂点に集中すること,他方,図形を描くときの手の動きについては4~5歳児で差がみられず,両群とも時計回りと反時計回りの描き方が半数ずつみられることが示された。5歳児頃では,描画開始位置が成人に類似することが示されたといえる。ところで,書字教育が本格的に開始される小学生では,幼児期の子どもとは異なる描画反応がみられると予想される。そこで,本研究では小学1年生を対象に図形の一筆描き課題を実施し,その結果について4~5歳児の結果と比較し,幼児期から児童期にかけての描線動作の発達的変化を明らかにする。
方 法
被験児 実験に協力してくれたのは埼玉県内の保育園の園児で年中児20名(平均年齢4歳5ヶ月),年長児19名(平均年齢5歳6ヶ月),さらに埼玉県内の小学1年生13名(平均年齢6歳5ヶ月)であった。いずれも右手で描画をおこなった。
手続き 実験は実験者と被験児の一対一による個別法でおこなわれた。事前に菱形や五角形などの図形が点線で描かれた実験用紙を用意し,各図形について任意の位置から一筆でなぞり描きするように教示した。実験者は被験児の右斜め後ろに座り,各図形の描き始めの位置と描画中の手の動きを記録した。描画開始位置については各図形の頂点に分類し,描画中の手の動きに関しては時計回りと反時計回りに分類した。
結 果
描画開始位置 各描画開始位置の反応頻度を群ごとにTable1に示した。描画開始位置に群間で違いがみられるかを検討するためFisherの直接法により分析をおこなった。その結果,菱形では有意差がみられ(p=.044),小学1年生や年長児では上の頂点から描き始めことが多く,いっぽう年中児では描き始めの位置が分散する傾向にあった。また,有意差はないが五角形では,とくに小学1年生で上の頂点から描き始める傾向が強かった(Table1)。
描画方向 各図形における時計回り,反時計回りの描き方の頻度を描画開始位置ごとにTable2に示した。描画中の手の動きに違いがあるかを検討するため,各図形とも年齢群ごとにFisherの直接法により分析をおこなった。その結果,小学1年の五角形の描画で有意な結果が得られた(p=.035)。小学1年生では五角形を上の頂点から描き始める場合,反時計回りの描画が多いことが示された。
考 察
小学1年生になると,菱形や五角形を上の頂点から描き始める傾向がいっそう強まることが示唆された。さらに,上の頂点から図形を描き始めた場合,小学1年生では反時計回りの描画が増加することも示された。こうした描線動作は日本人大学生にも多くみられる(田口,2013)。書字教育の開始に伴い,日本人に特有の描線動作が現れるようになることが本研究結果から示唆された。
引用文献
田口雅徳(2013)図形の一筆描き課題における幼児の描線動作の発達的特徴:日本の右利き4-5歳児と大学生の比較による検討 日本心理学会第77回大会発表論文集,p.939.