[PE069] 対人援助職における共感性(7)
保育者養成課程卒業時WEB調査における自己評価と理想像
キーワード:共感性, 保育者養成, 共感疲労
■問題と目的
共感性は保育者に欠かせない資質の一つとして重視されている(e.g., 秋政ら, 2009)。また,保育者養成においては,共感的かかわりを扱う教育活動が行われることが多い。しかし,他者の窮地に共感しすぎることが,共感疲労を招く恐れもある。そこで筆者らは保育者志望学生の共感性を多次元的にとらえ,共感疲労に陥りにくい共感性のあり方をレジリエンスを考慮しながら検討してきた(e.g., 木野他, 2011)。そして,主に,他者指向的反応(OR)の高さは共感疲労につながりにくいこと,被影響性(SE)が高い者ほど共感疲労を経験しやすいことを示し,被影響性(SE)を低減させる必要性を提案してきた。
本報告では保育者養成課程を修了した直後の保育者を対象に,多次元共感性尺度を用いて,自己評価と保育者の理想像をたずねた結果について報告する。
■方法
【調査対象・手続き】 2013年度末に4年制保育者養成課程を卒業した女性保育者を対象にWEB調査への協力を求めた。協力依頼は,2010年度から1年次生として質問紙による縦断調査(1年次,3年次前期・後期の計3回)への参加経験がある84名に対して計画され,このうち第三著者が連絡可能であった核となる者2名を介して,メールにより行われた。回答者は32名で,このうち28名が以下の質問への回答を完了した(保育園勤務20名,幼稚園勤務8名)。回答期間は2014年4月末から5月中旬であった。
【調査内容】 (a) 多次元共感性尺度(鈴木・木野, 2008):他者指向的反応(OR),自己指向的反応(SR),被影響性(SE),視点取得(PT),想像性(FS)の5下位尺度について,第一・第二著者で協議し各側面を代表すると考えられる項目を2項目ずつ(計10項目)選択した。(b) 理想的な保育者としての共感性:(a) の10項目について理想的な保育者像をたずねる形式に修正して用いた。全て5件法。この他,レジリエンスや養成課程在学中の現地実習のうち影響を与えたものに関する質問も行ったが,本報告では分析対象外とした。
■結果と考察
WEB回答完了者とWEBアクセスに至らなかった者の,1年次から3年次の縦断調査データには有意な差は認められなかった(t検定; p>.05)。
想定された下位概念構成に従い,各2項目の合計得点を自己評価および理想の保育者像ごとに算出した(下位尺度得点)。共感性の各側面の理想と現実の差を検討するために,共感性の下位尺度得点について評価対象(自分自身/理想像)×下位尺度(5)の分散分析およびその後の下位検定を行ったところ,自己指向的反応(SR)において自己評価の方が理想像より有意に高く,視点取得(PT)において理想像の方が自己評価より有意に高いことが示された(p<.001; 図1参照)。
この理想像の平均は,筆者らが想定する理想像と遠くないものである。本報告の対象者は養成課程の2~3年次に5回の現地実習を経験し,3年次には複数の演習で共感や共生について学ぶ機会が与えられている。比較対象がないため,今後のさらなる検討が必要ではあるが,養成課程でのこれらの活動により共感性のあり方についての理解を深めている可能性が考えられる。
なお,個々人に対して,望ましい共感性の状態に近づけるための支援方針を提案するにあたっては,各々が抱く理想像の確認が重要となろう。共感疲労という観点からは高すぎる被影響性(SE)が問題視されることを考えると,例えばこの得点が高い個人が理想像では低い評価をしているかを確認することが,介入ステップを判断するのに有効と考えられる。また,有効な介入プログラムを検討するためには,在学中の縦断調査データを用いた共感性の変化の様相と影響力の大きかった実習との関連を検討する必要もある。本報告の対象者28名についてさらなる分析が必要である。
共感性は保育者に欠かせない資質の一つとして重視されている(e.g., 秋政ら, 2009)。また,保育者養成においては,共感的かかわりを扱う教育活動が行われることが多い。しかし,他者の窮地に共感しすぎることが,共感疲労を招く恐れもある。そこで筆者らは保育者志望学生の共感性を多次元的にとらえ,共感疲労に陥りにくい共感性のあり方をレジリエンスを考慮しながら検討してきた(e.g., 木野他, 2011)。そして,主に,他者指向的反応(OR)の高さは共感疲労につながりにくいこと,被影響性(SE)が高い者ほど共感疲労を経験しやすいことを示し,被影響性(SE)を低減させる必要性を提案してきた。
本報告では保育者養成課程を修了した直後の保育者を対象に,多次元共感性尺度を用いて,自己評価と保育者の理想像をたずねた結果について報告する。
■方法
【調査対象・手続き】 2013年度末に4年制保育者養成課程を卒業した女性保育者を対象にWEB調査への協力を求めた。協力依頼は,2010年度から1年次生として質問紙による縦断調査(1年次,3年次前期・後期の計3回)への参加経験がある84名に対して計画され,このうち第三著者が連絡可能であった核となる者2名を介して,メールにより行われた。回答者は32名で,このうち28名が以下の質問への回答を完了した(保育園勤務20名,幼稚園勤務8名)。回答期間は2014年4月末から5月中旬であった。
【調査内容】 (a) 多次元共感性尺度(鈴木・木野, 2008):他者指向的反応(OR),自己指向的反応(SR),被影響性(SE),視点取得(PT),想像性(FS)の5下位尺度について,第一・第二著者で協議し各側面を代表すると考えられる項目を2項目ずつ(計10項目)選択した。(b) 理想的な保育者としての共感性:(a) の10項目について理想的な保育者像をたずねる形式に修正して用いた。全て5件法。この他,レジリエンスや養成課程在学中の現地実習のうち影響を与えたものに関する質問も行ったが,本報告では分析対象外とした。
■結果と考察
WEB回答完了者とWEBアクセスに至らなかった者の,1年次から3年次の縦断調査データには有意な差は認められなかった(t検定; p>.05)。
想定された下位概念構成に従い,各2項目の合計得点を自己評価および理想の保育者像ごとに算出した(下位尺度得点)。共感性の各側面の理想と現実の差を検討するために,共感性の下位尺度得点について評価対象(自分自身/理想像)×下位尺度(5)の分散分析およびその後の下位検定を行ったところ,自己指向的反応(SR)において自己評価の方が理想像より有意に高く,視点取得(PT)において理想像の方が自己評価より有意に高いことが示された(p<.001; 図1参照)。
この理想像の平均は,筆者らが想定する理想像と遠くないものである。本報告の対象者は養成課程の2~3年次に5回の現地実習を経験し,3年次には複数の演習で共感や共生について学ぶ機会が与えられている。比較対象がないため,今後のさらなる検討が必要ではあるが,養成課程でのこれらの活動により共感性のあり方についての理解を深めている可能性が考えられる。
なお,個々人に対して,望ましい共感性の状態に近づけるための支援方針を提案するにあたっては,各々が抱く理想像の確認が重要となろう。共感疲労という観点からは高すぎる被影響性(SE)が問題視されることを考えると,例えばこの得点が高い個人が理想像では低い評価をしているかを確認することが,介入ステップを判断するのに有効と考えられる。また,有効な介入プログラムを検討するためには,在学中の縦断調査データを用いた共感性の変化の様相と影響力の大きかった実習との関連を検討する必要もある。本報告の対象者28名についてさらなる分析が必要である。