[PE075] E-S理論からみた大学生の愛着スタイルとその関連要因(1)
E-S5類型による愛着スタイルと共感性の差異
キーワード:E-S理論, 愛着スタイル, 認知的共感性
I目的
昨年の発表では,青年期の自閉症スペクトラム指数(AQ)の高さが資質的および獲得的レジリエンスの低さと関連していることを報告した(田中・西田,2013)。特に軽度の自閉症スペクトラムを有する大学生においては,むしろ後天的に体験する愛着や対人関係の要因が累積的に二次的な不適応を引き起こしていると考えられる。そこで,自閉症スペクトラム傾向の個人差を説明できる「E-S(共感化‐システム化:Empathizing‐Systemizing)理論」(Baron-Cohen et.al,2003)から,大学生の発達の特徴をとらえ,同時に発達障害との境界が不明瞭とされる愛着障害(岡田,2012)に至る要因についても明確にしていく。E-S理論では,他者の行動の意味を理解し,情動的に適切に反応することを可能とする能力である「共感化」と,意図をもたない存在のはたらきを理解し予測するためのシステムを分析し構築する能力である「システム化」との2次元座標から,発達の特徴を「男性脳」,「バランス脳」,「女性脳」等の脳のタイプとして分類し明確化している。とりわけ,自閉症スペクトラム障害は主に「超男性脳」に分類され考察されている。
本研究では,生得的な発達の問題である自閉症スペクトラムと後天的に生じる愛着の問題との関連や重なり合いを検討するために,E-S理論による5類型間における愛着スタイルおよび認知的共感性の差異を比較検討する。
II方法
1,対象:首都圏にある大学に在学する大学生142名(男性93名,女性49名,平均年齢:20.08,SD:0.91)
2,期間:2013年11月中旬
3,質問紙の構成:(1)対象者の属性:性別,学年,年齢等からなる。
(2)共感指数(Empathy Quotient以下EQ;Baron-Cohen,2002)とシステム化指数(Systemizing Quotient以下SQ;Baron-Cohen,2002): E-S理論を基に作成された2つの尺度は,他者の感情や行動に注目しそれを予測する動因を測定する「共感指数」と物的な規則性や構造・動きへの興味と傾倒する傾向を測定する「システム化指数」であり,いずれもそれぞれの内容を示す40項目から成る。得点化については,Wakabayashi(2007)を参考に40項目の合計得点を算出した後,それぞれTscoreを算出し,SQのTscoreからEQのTscoreを減じた差の数値をDscoreとして,表1のように分類している。「超男性脳」「男性脳」「バランス脳」「女性脳」「超女性脳」の5類型となる。
(4)認知的共感性尺度(田中ほか,2007)
Davis(1983)が作成した他者視点取得についての項目から構成されるパースペクティブ・テイキング尺度を清水・丸山(1990)が邦訳した7項目をより平易な語句へと改変している。
(5)愛着スタイル診断テスト(岡田,2011):本尺度は,愛着スタイルを問う45項目への回答から「安定型愛着スコア」,「不安型愛着スコア」,「回避型愛着スコア」の3つの得点を算出し,それぞれの得点差によって愛着スタイルを類型化する。
III結果・考察
まず,Wakabayashi(2007)に従ってEQ,SQをそれぞれ5類型化した。この5類型を独立変数,愛着の「安定型愛着スコア」,「不安型愛着スコア」,「回避型愛着スコア」のそれぞれの得点と認知的共感性の得点を従属変数として,分散分析を行った(表2)。
主要な結果として,認知的共感性の得点は,超女性脳(Extreme Type E)が男性脳(Type S)と超男性脳(Extreme Type S)よりも有意に高かった。また,愛着スタイルにおいては,「安定型愛着スコア」,「不安型愛着スコア」では有意差はみられなかったが,「回避型愛着スコア」では男性脳(Type S)が女性脳(Type E)よりも有意に高かった。回避型愛着スタイルの者はストレス下での対人希求は減少して孤立する傾向があるために,不適応が深刻化する状況が読み取れ,これは自閉症スペクトラム傾向をもつ者のコミュニケーションの障害をより一層重篤な状態にする可能性があるということを示唆するものとも考えられ,今後より詳細に検討する必要があるだろう。
昨年の発表では,青年期の自閉症スペクトラム指数(AQ)の高さが資質的および獲得的レジリエンスの低さと関連していることを報告した(田中・西田,2013)。特に軽度の自閉症スペクトラムを有する大学生においては,むしろ後天的に体験する愛着や対人関係の要因が累積的に二次的な不適応を引き起こしていると考えられる。そこで,自閉症スペクトラム傾向の個人差を説明できる「E-S(共感化‐システム化:Empathizing‐Systemizing)理論」(Baron-Cohen et.al,2003)から,大学生の発達の特徴をとらえ,同時に発達障害との境界が不明瞭とされる愛着障害(岡田,2012)に至る要因についても明確にしていく。E-S理論では,他者の行動の意味を理解し,情動的に適切に反応することを可能とする能力である「共感化」と,意図をもたない存在のはたらきを理解し予測するためのシステムを分析し構築する能力である「システム化」との2次元座標から,発達の特徴を「男性脳」,「バランス脳」,「女性脳」等の脳のタイプとして分類し明確化している。とりわけ,自閉症スペクトラム障害は主に「超男性脳」に分類され考察されている。
本研究では,生得的な発達の問題である自閉症スペクトラムと後天的に生じる愛着の問題との関連や重なり合いを検討するために,E-S理論による5類型間における愛着スタイルおよび認知的共感性の差異を比較検討する。
II方法
1,対象:首都圏にある大学に在学する大学生142名(男性93名,女性49名,平均年齢:20.08,SD:0.91)
2,期間:2013年11月中旬
3,質問紙の構成:(1)対象者の属性:性別,学年,年齢等からなる。
(2)共感指数(Empathy Quotient以下EQ;Baron-Cohen,2002)とシステム化指数(Systemizing Quotient以下SQ;Baron-Cohen,2002): E-S理論を基に作成された2つの尺度は,他者の感情や行動に注目しそれを予測する動因を測定する「共感指数」と物的な規則性や構造・動きへの興味と傾倒する傾向を測定する「システム化指数」であり,いずれもそれぞれの内容を示す40項目から成る。得点化については,Wakabayashi(2007)を参考に40項目の合計得点を算出した後,それぞれTscoreを算出し,SQのTscoreからEQのTscoreを減じた差の数値をDscoreとして,表1のように分類している。「超男性脳」「男性脳」「バランス脳」「女性脳」「超女性脳」の5類型となる。
(4)認知的共感性尺度(田中ほか,2007)
Davis(1983)が作成した他者視点取得についての項目から構成されるパースペクティブ・テイキング尺度を清水・丸山(1990)が邦訳した7項目をより平易な語句へと改変している。
(5)愛着スタイル診断テスト(岡田,2011):本尺度は,愛着スタイルを問う45項目への回答から「安定型愛着スコア」,「不安型愛着スコア」,「回避型愛着スコア」の3つの得点を算出し,それぞれの得点差によって愛着スタイルを類型化する。
III結果・考察
まず,Wakabayashi(2007)に従ってEQ,SQをそれぞれ5類型化した。この5類型を独立変数,愛着の「安定型愛着スコア」,「不安型愛着スコア」,「回避型愛着スコア」のそれぞれの得点と認知的共感性の得点を従属変数として,分散分析を行った(表2)。
主要な結果として,認知的共感性の得点は,超女性脳(Extreme Type E)が男性脳(Type S)と超男性脳(Extreme Type S)よりも有意に高かった。また,愛着スタイルにおいては,「安定型愛着スコア」,「不安型愛着スコア」では有意差はみられなかったが,「回避型愛着スコア」では男性脳(Type S)が女性脳(Type E)よりも有意に高かった。回避型愛着スタイルの者はストレス下での対人希求は減少して孤立する傾向があるために,不適応が深刻化する状況が読み取れ,これは自閉症スペクトラム傾向をもつ者のコミュニケーションの障害をより一層重篤な状態にする可能性があるということを示唆するものとも考えられ,今後より詳細に検討する必要があるだろう。