[PE079] コスタリカにおける「人生紙芝居」の実践可能性
ストリートチルドレンの事例から
キーワード:ナラティブ, グリーフケア, 手作り紙芝居
問題と目的
本研究は,20代で亡くなった元ストリートチルドレンの男性の人生について,中米・コスタリカにおいて紙芝居を制作した実践について報告する。個人の生活史を主題とした手作り紙芝居を「人生紙芝居」という(奥田, 2006)。人生紙芝居は日本の福祉施設で生み出された技法であるが,筆者は,人生紙芝居の制作と上演が心理的支援になると考え,コスタリカにおいて活用してきた(Kasuya, 2012)。本研究の目的は,故人の人生紙芝居を制作・上演することが遺族にとってどのような意義を持つのか,事例を通して検討することである。
方 法
人生紙芝居の制作と上演は以下のように行われた。
(1) 面接調査を実施し,生活史を聞き取る:本研究の人生紙芝居は故人の妻(以下,調査協力者)の希望で制作された。調査協力者は,故人がどのような経緯でストリートチルドレンになり,若くして亡くなるに至ったのかを子供に理解させ,父親のような人生を子供に歩ませないようにしたい,と考えていた。調査協力者は20代のコスタリカ人である。20XX年にコスタリカで,調査協力者に非構造化面接を実施し,故人の生活史について聞き取った。調査協力者には自分が語りたいと思うことのみを話すように教示した。面接は2度実施し,合計時間は約60分間であった。
(2) 生活史を文章に書き起こす:面接調査から得られた資料に加えて,故人が刑務所から調査協力者に宛てて書いた手記も用いた。
(3) 書き起こした文章をもとに作画する:紙は八つ切り画用紙を用いた。画材にはクレヨンと黒サインペンを使用した(Figure 1)。
(4) 紙芝居の上演会:調査協力者とその友人3名の前で紙芝居上演会を実施した。調査協力者には,上演会終了後に自由記述式の質問紙へ回答するよう依頼した。質問項目は,紙芝居のどのページを気に入ったか,紙芝居上演を通して何を感じたか,である。なお,制作した紙芝居は調査協力者に贈呈した。
調査については,まず面接に先立って説明を行い,紙芝居が完成して内容を確認してもらった後で,結果の公表について調査協力者の了承を得た。また公表に当たっては,個人情報保護のため紙芝居の内容(脚本と絵)に変更を加えて再制作している。生活史の聞き取りおよび紙芝居の制作・上演は筆者が行った。
結果と考察
紙芝居上演会の後の質問紙では以下の回答が得られた。調査協力者が気に入ったのは,故人を天使のように描いたページと,故人の手記が読まれるページであった。また,紙芝居の上演を通しての感想としては,「紙芝居の話が現実だと知っているので悲しかったです。でも将来,孫が生まれたら,夫の人生について孫たちにも見せられますから,満足です」という趣旨の回答であった。
人生紙芝居が備えている心理的支援の効果には大きく2つの側面があると考えられる。1つは経験を他者に語ることの効果であり,もう1つは上演会を通して語られたストーリーが語り手以外の人々の間で共有されることの効果である。前者については,経験を他者に語ることを通して出来事の生起した順番が確認され,個々の出来事が人生にどのように影響しているのか理解が深まっていく点を指摘できる。後者については,ストーリーというものは他者と共有されることによってリアリティを増す点を指摘できる(McNamee & Gergen, 1992)。人生紙芝居は文章だけでなく絵からも構成されているので,多くの人々とストーリーを共有しやすいという利点を備えている。
本研究は,20代で亡くなった元ストリートチルドレンの男性の人生について,中米・コスタリカにおいて紙芝居を制作した実践について報告する。個人の生活史を主題とした手作り紙芝居を「人生紙芝居」という(奥田, 2006)。人生紙芝居は日本の福祉施設で生み出された技法であるが,筆者は,人生紙芝居の制作と上演が心理的支援になると考え,コスタリカにおいて活用してきた(Kasuya, 2012)。本研究の目的は,故人の人生紙芝居を制作・上演することが遺族にとってどのような意義を持つのか,事例を通して検討することである。
方 法
人生紙芝居の制作と上演は以下のように行われた。
(1) 面接調査を実施し,生活史を聞き取る:本研究の人生紙芝居は故人の妻(以下,調査協力者)の希望で制作された。調査協力者は,故人がどのような経緯でストリートチルドレンになり,若くして亡くなるに至ったのかを子供に理解させ,父親のような人生を子供に歩ませないようにしたい,と考えていた。調査協力者は20代のコスタリカ人である。20XX年にコスタリカで,調査協力者に非構造化面接を実施し,故人の生活史について聞き取った。調査協力者には自分が語りたいと思うことのみを話すように教示した。面接は2度実施し,合計時間は約60分間であった。
(2) 生活史を文章に書き起こす:面接調査から得られた資料に加えて,故人が刑務所から調査協力者に宛てて書いた手記も用いた。
(3) 書き起こした文章をもとに作画する:紙は八つ切り画用紙を用いた。画材にはクレヨンと黒サインペンを使用した(Figure 1)。
(4) 紙芝居の上演会:調査協力者とその友人3名の前で紙芝居上演会を実施した。調査協力者には,上演会終了後に自由記述式の質問紙へ回答するよう依頼した。質問項目は,紙芝居のどのページを気に入ったか,紙芝居上演を通して何を感じたか,である。なお,制作した紙芝居は調査協力者に贈呈した。
調査については,まず面接に先立って説明を行い,紙芝居が完成して内容を確認してもらった後で,結果の公表について調査協力者の了承を得た。また公表に当たっては,個人情報保護のため紙芝居の内容(脚本と絵)に変更を加えて再制作している。生活史の聞き取りおよび紙芝居の制作・上演は筆者が行った。
結果と考察
紙芝居上演会の後の質問紙では以下の回答が得られた。調査協力者が気に入ったのは,故人を天使のように描いたページと,故人の手記が読まれるページであった。また,紙芝居の上演を通しての感想としては,「紙芝居の話が現実だと知っているので悲しかったです。でも将来,孫が生まれたら,夫の人生について孫たちにも見せられますから,満足です」という趣旨の回答であった。
人生紙芝居が備えている心理的支援の効果には大きく2つの側面があると考えられる。1つは経験を他者に語ることの効果であり,もう1つは上演会を通して語られたストーリーが語り手以外の人々の間で共有されることの効果である。前者については,経験を他者に語ることを通して出来事の生起した順番が確認され,個々の出来事が人生にどのように影響しているのか理解が深まっていく点を指摘できる。後者については,ストーリーというものは他者と共有されることによってリアリティを増す点を指摘できる(McNamee & Gergen, 1992)。人生紙芝居は文章だけでなく絵からも構成されているので,多くの人々とストーリーを共有しやすいという利点を備えている。