The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE

(501)

Sat. Nov 8, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 501 (5階)

[PE090] 「クロスロード 教育相談編」開発の試み

教育相談における教師の葛藤の分析

網谷綾香 (佐賀大学)

Keywords:教育相談, クロスロード, 教師

問題と目的
本研究では,教師が教育相談上で陥る困難な葛藤状況を“教師の成長を促すポジティブな岐路”として位置づけ,これを活用した教師研修用教材「クロスロード 教育相談編」を開発する。「クロスロード」※は矢守・吉川・網代(2005)が防災対応シュミレーションゲームとして開発した手法であるが,その後広がりを見せ様々な領域で幅広く活用されている。このゲームは5名程度のグループで行う。まず,苦渋の選択を伴うような葛藤状況がシナリオとして提示され,参加者はは“Yes”か“No”の2者択一の判断を行う。その後グループ内での対話を通して参加者は己と異なる意見に遭遇し,“多様な視点・多様な解に触れることによる「問題の構造」の理解”(矢守ら,2005)が得られる。「クロスロード 教育相談編」は教育相談上の問題に対峙する教師のアセスメント力を育て,他者との相互作用を通して自らの価値観への気づきを促進する効果が期待される。ここでは,本教材のシナリオを作成するため,教師が教育相談で出会いうる葛藤状況を明らかにし,考察する。
方法
教師を対象とした質問紙調査を実施(持ち帰り回答,回収率19.0%)。不登校やいじめなどの項目を提示し,教育相談を行う上で判断や行動に迷い葛藤した具体的な経験について自由記述で回答を求めた。85名(小36,中29,高14,不明6)の回答を分析対象とした。
結果と考察
表に示したように,全体で149件の葛藤状況が抽出された。「不登校の子に登校刺激をすべきか否か」や,「発達障害の子への配慮も大事だが,集団の規律も守りたい」など,不登校や発達障害に関する回答が多く,この領域での葛藤は誰しもが出会いうる問題であることがわかる。非行や進路問題の領域でも,本人の気持ちの尊重との狭間で揺れる教師の葛藤が多く抽出された。同様に,保護者の思いとの狭間での葛藤,連携の在り方に関する葛藤も数多く見られ,これらはシナリオに積極的に取り入れていく必要がある。一方,少数もしくは単一エピソードでも教師の新たな気づきを促しうるものについては,シナリオ化を検討していくこととした。なお,自由記述の中には,葛藤まで至らないより混沌とした悩みも多く書かれていた(95件)。“葛藤した上で適切な判断ができる教師”になるためには,問題をより丁寧に見立て構造化する力が必要であり,「クロスロード 教育相談編」はその力を育むツールとなりうるであろう。

※「クロスロード」は商標登録されたゲームであり,「教育相談編」開発にあたっては,チームクロスロードと覚書を交わした。