日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PE

(501)

2014年11月8日(土) 13:30 〜 15:30 501 (5階)

[PE091] 思春期の物質使用,抑うつ,パーソナリティ特性との関連

相関因子モデルによる行動遺伝学的検討

田中麻未1, 藤澤啓子2, 出野美那子3 (1.千葉大学, 2.慶應義塾大学, 3.東京大学大学院)

キーワード:物質使用, 抑うつ, パーソナリティ特性

問 題
思春期の問題行動の一つである物質使用(喫煙・飲酒行動,違法薬物など)のリスクは,12~16歳の時期に高まることが指摘されている。とくに思春期の飲酒行動は抑うつとの関連が高いことが示されている。たとえば,児童期の抑うつレベルが高いと飲酒行動の開始時期を早めたり,思春期での飲酒に関する問題や,成人期以降のアルコール依存症との関連が高いことも報告されている(Crum et al., 2008)。これらの結果から,思春期は,飲酒行動を含む物質使用と抑うつとの関連やそれらの発達を理解する上で,重要な時期であると言えよう。また,物質使用と抑うつとの関連には,個人的要因であるパーソナリティ特性が深く関与していると考えられる。近年,物質使用とパーソナリティ特性との関連は注目されており,パーソナリティ特性が物質使用の脆弱性になったり(Conrod et al., 2000),動機づけになったりする(Comeau et al., 2001)ことが明らかになってきている。そこで本研究では,思春期の物質使用(喫煙行動・飲酒行動),抑うつおよびパーソナリティ特性との関連を明らかにするために,まず,(1)物質使用と抑うつとの関連に関わるパーソナリティ特性を特定し,(2)それらの関連性に遺伝要因と環境要因がどのように影響しているのかについて検討することを目的とした。
方 法
調査対象者 本研究は,首都圏ふたごプロジェクト双生児レジストリ(慶應義塾ふたご行動発達研究センター)に含まれる双生児とその保護者を対象とした調査から得られた12~17歳(平均年齢14.68歳, SD = 1.48)の双生児 422ペア(一卵性双生児297ペア; 二卵性双生児125ペア)を対象とした。
パーソナリティ特性 The Substance use Risk Profile Scale(SURPS: Conrod & Woicik, 2002)の日本語版(SURPS-J: 大宮ら, 2011)を使用した。具体的には,不安感受性(Anxiety Sensitivity),絶望感(Hopelessness),刺激志向性(Impulsivity),衝動性(Sensation Seeking)の4つの下位尺度から構成されている。
物質使用 喫煙行動および飲酒行動については「タバコを吸う」,「親にかくれて酒やビールを飲む」の2項目を尋ねた。
抑うつ Birleson自己記入式抑うつ評価尺度(Birleson, 1981)のDSRS-C日本語版(村田ら, 1996)を使用した。
結果・考察
まず,抑うつと物質使用との間に正の相関関係(r = .17, p < .01)と,(1)絶望感が高いと抑うつ(r = .67, p < .01)および物質使用(r = .19, p < .01)が高いことが示された。次に,多変量遺伝分析の結果,(2)これらの関連性に共有環境要因の影響は見られず,絶望感を高めるような遺伝要因と非共有環境要因が,同時に抑うつと物質使用のリスクを高めるような働きをすることが確認された(Figure 1)。とくに抑うつについては,抑うつに固有の遺伝要因よりも絶望感と共通の遺伝要因のほうが大きな影響を与えていた。また,物質使用と抑うつとの関連については,何らかの遺伝要因と非共有環境要因が,両者を同時に高めるような影響を持っていることが示された。本研究の結果から,思春期の物質使用と抑うつとの関連を考えるうえで,子ども自身の特徴やそれらの関連性に関与している遺伝要因と,子どもたちが独自に経験している環境要因(非共有環境要因)の影響を考慮した対応が必要であることが示唆された。