[PE093] 児童自立支援施設収容児童の加害性への対応
Keywords:児童自立支援施設, 加害性, 被害体験
Ⅰ.問題と目的
加害者が被害者意識をもつということは,非行臨床をはじめとする加害者臨床においてしばしば指摘されており(村尾,2012ほか),児童自立支援施設での処遇において,収容児童の被害性と加害性にバランスよく目を向けて対応していくことは重要な実践的課題である。成人の場合では,体験を分かち合う「治療共同体」のもとで加害行為の背景にある被虐待体験を扱うことの意義と留意点が報告されている(毛利・藤岡・下郷,2014)。未成年の場合,被害も加害の体験も成長のなかで自己に組み込まれ,渾然たる状態となって言葉では捉えにくい。一方現場では,日常生活における指導場面でも,問題行動への関わりにおいても,背景にある被害と加害体験を暗黙のうちに想定しながらそれぞれの専門員が対応をしている。つまり実践を通して培った方略により,被害体験をもつ収容児童に対して,彼らが引き起こした問題(加害性)の背景にある弱さを自身が引き受けるようにと働きかけている。橋本(2012)の「一旦は加害者性と被害者性を分けてアプローチをすることが必要」だとする指摘をふまえ,専門員の認識と働きかけを顕在化させて取り出し,整理検討することを本研究の目的とする。
Ⅱ.方法
1.調査対象者
児童自立支援施設(地域・設置主体・規模・運営形態の異なる3園)の児童自立支援専門員11名。経験年数は5~16年,30~40代の男性8名・女性3名である。
2.調査方法
調査時期は2012年8月~2013年10月,調査趣旨の説明と同意書による確認の後50~115分(1回または2回,平均78分)の半構造化面接を行った。
調査内容は,「加害性と被害性のいずれが気になるか」「それを意識させられるとき」を聴取し,収容児童1名との関わりの詳細をインタビューガイドに沿って質問,ICレコーダーに面接を録音した。
3.分析方法
面接調査に参加していない臨床心理士1名と,以下の手順で結果を整理した。調査対象者ごとの認識-対応-結果という一連のエピソードに着目するため,①ⅰ)加害性の認識,ⅱ)加害性にどう働きかけたか,ⅲ)その結果,ⅳ)被害性の認識,ⅴ)被害性にどう働きかけたか,ⅵ)その結果,を逐語から抜き出して二次資料を作成し,②抽出された一連のエピソードのコード化,③類似したコードを集めてカテゴリーを生成・分類,④カテゴリー間の比較と関連性の検討にもとづいて分類の再編を繰り返し,仮説的知見を生成した。
Ⅲ.結果と考察
整理の結果、認識-対応-結果の一部が語られていないものを含めて,加害にまつわるエピソードが135,被害にまつわるエピソードが36みいだされた(両方が含まれている場合は加害として整理)。
加害行為の背景には被害体験があるという認識が共通してみられ,専門員自身の体験の開示がきっかけとなることや,個別の話し込みを通して被害体験が自ら語られることの重要さについての強調があった。その一方で,被害が加害に関連するという見方をしない,両体験を併せもつ収容児童は少ないとする認識の専門員もみられた。
被害性については被害体験がどのような契機で語られるかや,養育環境を非難しない,被害体験の取り扱いには留意が必要とする認識などが抽出されたが,加害性についての認識には隔たりがみられた。厳しい生活や集団のルールを学び,自分を律して乗り越えていくことの強調,職員間の対応の齟齬や収容児童のヒエラルキーへの着目,部活や作業あるいは内省日課を入口にした指導など各専門員固有の認識と対応が明らかとなり,いずれも施設の運営形態との関連が考察された。さらには,振り返り作業や施設収容経験の効果への疑問についても報告され検討を加えた。
本研究は,科研費学術研究助成基金助成金基盤研究(C) (課題番号:23530926)による研究助成を受けた。
加害者が被害者意識をもつということは,非行臨床をはじめとする加害者臨床においてしばしば指摘されており(村尾,2012ほか),児童自立支援施設での処遇において,収容児童の被害性と加害性にバランスよく目を向けて対応していくことは重要な実践的課題である。成人の場合では,体験を分かち合う「治療共同体」のもとで加害行為の背景にある被虐待体験を扱うことの意義と留意点が報告されている(毛利・藤岡・下郷,2014)。未成年の場合,被害も加害の体験も成長のなかで自己に組み込まれ,渾然たる状態となって言葉では捉えにくい。一方現場では,日常生活における指導場面でも,問題行動への関わりにおいても,背景にある被害と加害体験を暗黙のうちに想定しながらそれぞれの専門員が対応をしている。つまり実践を通して培った方略により,被害体験をもつ収容児童に対して,彼らが引き起こした問題(加害性)の背景にある弱さを自身が引き受けるようにと働きかけている。橋本(2012)の「一旦は加害者性と被害者性を分けてアプローチをすることが必要」だとする指摘をふまえ,専門員の認識と働きかけを顕在化させて取り出し,整理検討することを本研究の目的とする。
Ⅱ.方法
1.調査対象者
児童自立支援施設(地域・設置主体・規模・運営形態の異なる3園)の児童自立支援専門員11名。経験年数は5~16年,30~40代の男性8名・女性3名である。
2.調査方法
調査時期は2012年8月~2013年10月,調査趣旨の説明と同意書による確認の後50~115分(1回または2回,平均78分)の半構造化面接を行った。
調査内容は,「加害性と被害性のいずれが気になるか」「それを意識させられるとき」を聴取し,収容児童1名との関わりの詳細をインタビューガイドに沿って質問,ICレコーダーに面接を録音した。
3.分析方法
面接調査に参加していない臨床心理士1名と,以下の手順で結果を整理した。調査対象者ごとの認識-対応-結果という一連のエピソードに着目するため,①ⅰ)加害性の認識,ⅱ)加害性にどう働きかけたか,ⅲ)その結果,ⅳ)被害性の認識,ⅴ)被害性にどう働きかけたか,ⅵ)その結果,を逐語から抜き出して二次資料を作成し,②抽出された一連のエピソードのコード化,③類似したコードを集めてカテゴリーを生成・分類,④カテゴリー間の比較と関連性の検討にもとづいて分類の再編を繰り返し,仮説的知見を生成した。
Ⅲ.結果と考察
整理の結果、認識-対応-結果の一部が語られていないものを含めて,加害にまつわるエピソードが135,被害にまつわるエピソードが36みいだされた(両方が含まれている場合は加害として整理)。
加害行為の背景には被害体験があるという認識が共通してみられ,専門員自身の体験の開示がきっかけとなることや,個別の話し込みを通して被害体験が自ら語られることの重要さについての強調があった。その一方で,被害が加害に関連するという見方をしない,両体験を併せもつ収容児童は少ないとする認識の専門員もみられた。
被害性については被害体験がどのような契機で語られるかや,養育環境を非難しない,被害体験の取り扱いには留意が必要とする認識などが抽出されたが,加害性についての認識には隔たりがみられた。厳しい生活や集団のルールを学び,自分を律して乗り越えていくことの強調,職員間の対応の齟齬や収容児童のヒエラルキーへの着目,部活や作業あるいは内省日課を入口にした指導など各専門員固有の認識と対応が明らかとなり,いずれも施設の運営形態との関連が考察された。さらには,振り返り作業や施設収容経験の効果への疑問についても報告され検討を加えた。
本研究は,科研費学術研究助成基金助成金基盤研究(C) (課題番号:23530926)による研究助成を受けた。