日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF002] 「違和感の喚起」が割合の加法操作の修正に及ぼす影響

蛯名正司 (仙台白百合女子大学)

キーワード:違和感の喚起, 割合の加法性, 誤判断の修正

問題と目的
進藤・麻柄(2011)では,学習者が違和感を抱くような課題場面の提示によって,新情報と衝突の恐れのある誤概念が抑制され,新情報の受け入れや課題解決への適用が促進されたことが示唆された。しかし進藤らの結果は,知覚的な題材を用いたものであったことから,より抽象的な課題場面でも違和感の喚起が有効であることが示されれば,教授要因としての一般化可能性が高まると考えられる。そこで本稿では,割合の問題で見られる不適切な加法操作を取り上げ,違和感の喚起の有効性を検証する。
割合に関する誤りに,不適切な加法操作がある。例えば, 5%の食塩水と5%の食塩水を混ぜると,「10%」になるという誤った判断は,割合を既習の高校生にも見られる場合がある。そこで本稿では,この種の誤判断を修正するために,加法操作を行うと違和感が喚起される事態を提示する。
割合は,部分/全体関係にある場合,その最大値は100%である。これは,部分の量が全体の量を超えることがないためである。「果汁80%と果汁80%を合わせたらどうなるか」と問われた場合,加法操作を行うと「160%」と判断することになる。しかし,果汁160%が存在しないことは明白であるため,学習者は加法操作の結果に違和感を抱き,「160%」が誤りであることに気づきやすくなると予想される。その結果,その後の解説文の受け入れが促進され,正しい問題解決が可能になると考えられる。本稿では,事前の標的課題で加法操作を行った対象者に焦点を当て,違和感の喚起場面,及び事後標的課題での判断の変容を検討する。
方法
(1)対象 公立高校1年生106名を対象とした。
(2)調査課題 事前事後テストの標的課題として食塩水課題(濃度7%の食塩水100gと,濃度7%の食塩水100gを混ぜ合わせたときの濃度は,□%になります。)を出題した。解答は多肢選択式(ア. 3.5%,イ. 7%,ウ. 14%,エ. その他)であった。
(3)教示文 導入部:弟が兄に「果汁80%と果汁80%のオレンジジュースを合わせると果汁160%になるか?」と質問する場面を提示し,対象者に兄の立場に立って,弟の質問に答えるように求めた。
解説文:割合の意味として,「全体の量のうち部分の量がどのくらい占めているか」を提示した。次に果汁160%は,果汁の量がジュース全体の量よりも多い状態を表していること,現実的に部分の量が全体の量よりも多くなることはありえず,果汁160%というジュースは作れないことを説明した。最後に,2つのジュースを混ぜたときの果汁の濃さを,公式を提示しながら説明した。
結果と考察
分析対象は,事前標的課題で加法操作を行った35名であった(Figure1)。導入部における「兄の立場」での回答において,「わからない」が22名(63%),「濃さは変わらないから」が12名(34%)であった。一方,「100%以上にならないから」は1名にとどまり,「160%」という濃度そのものに,明確に違和感を示した対象者はほとんどいなかったといえる。また,「兄の立場」で,「濃さは変わらない」と回答した対象者(12名)の42%(5名)が,事後標的課題で不適切な判断に変容していた。これは,オレンジジュースの濃さと食塩水の濃さに対する理解の仕方が異なっていることを示唆するものといえる。すなわち,ジュースの濃さは,食塩水よりも加法操作が喚起されにくい題材であった可能性がある。今後は,違和感を喚起する場面での事例効果も検討する必要があるだろう。