日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF011] 異種の量への変換を促す教示が力のモデル図理解に及ぼす効果

宮田佳緒里 (東北大学大学院)

キーワード:図の理解, 大学生

問題と目的
力学ルールの学習場面では,力を矢印で表したモデル図が使用される。しかし,力学の初心者に対しては,モデル図の提示が十分な効果を持たないとの指摘がある(進藤,2000;宮田,2011a)。
その一因として,宮田(2011b)は,力学の初心者が,「矢印の長さが力の大きさを表す」との読み替え規則に違和感を覚えるために,読み取りが困難となる可能性を示唆した。力の大きさと矢印の長さのように,ある種類の量を他の種類の量で表す表現方法は,v-tグラフのような,力学のモデル図以外でもしばしば使われている。グラフの読み取りに関する研究では,初心者がグラフを読み取る際に,異種の量への変換を困難とすることが報告されている(Janvier, 1981;Leinhardt, Zaslavsk, & Stein, 1990)。このことから,宮田(2011b)で見られた,読み替え規則への違和感は,矢印の長さを,異種の量である力の大きさへと変換することの困難さから生じた可能性がある。
そこで本研究では,異種の量への変換の困難さを低減させる働きかけとして,モデル図の読み替え規則を教示する際に,力の大きさと長さとの関連の強い「ばねののび」を介在させる教授方法を開発した。この教授方法が,力の矢印を初めから教示する従来の教授方法よりも,力の分解のモデル図の読み取りの促進において優れるか否かを検討することを目的とする。
方法
対象 大学生47名。23名を実験群に,24名を統制群に割り当てた。
評価課題 1.比例関係課題(2問):矢印の長さと力の大きさの比例関係の理解状況を測定した。
2.モデル図読み取り課題(10問):力のモデル図の読み取りがどの程度可能かを測定した。
教材 統制群には,解説の冒頭から力の矢印を提示し,「力の大きさを矢印の長さで表す」と教示して,力学ルールを矢印に即して教示した。
実験群には,初めにばねばかりの図を提示し,「ばねの伸びが力の大きさ表す」と教示した。また,ばねの伸びに即して力学ルールを教示した。続いて,「矢印は,ばねの代わりに力を表すもの」であると教示し,矢印の読み方を説明した。それ以降の解説及び図は統制群と同様であった。
手続き 心理学関係の授業中に実施した。実験者が,評価課題と解説の書かれた冊子をランダムに配布し,各自のペースで取り組むよう求めた。
結果と考察
冊子への回答を途中で放棄した4名を除外し,実験群19名,統制群24名を分析対象とした。
1. 比例関係理解:比例関係課題の平均得点の差が有意傾向であった(t(41)=1.85, p<.10;Figure1)。ばねを介在させた教授方法が,従来の教授方法よりも優れる傾向にあることが示唆された。
2. モデル図の読み取り:比例関係課題での誤答の有無により,参加者を比例関係理解あり・なしに分類した。群ごとに比例関係理解の有無と,モデル図読み取り課題の各問の正誤の関係を検討したところ,有意な連関が見られたのは,10問中1問のみであった。
比例関係理解の有無によらず,特に多かった誤りは,a. 物を滑車で吊上げる状況で,矢印の向きから力の働く向きを読み取れない,b. 犬がそりを引く状況で,矢印の長さがひもの長さと一致していなければその矢印を正しいと見なさないというものであった。これらの反応から,参加者が矢印を読まずに,問題の状況に働く力そのものを考えようとしたことが伺える。よって,読み替え規則を理解していても,学習者がモデル図ではなくその指示対象の方に注意を向けると,規則に基づく読み取りができなくなる可能性が示唆された。