[PF012] 学習事例の提示順序が素朴概念の修正に及ぼす効果
属性間の関数関係を扱う科学的概念(浮力,大気圧)の場合
Keywords:素朴概念, 提示順序, 科学的概念
素朴概念の修正に関する研究で,複数の学習事例の提示順序が問題になることがある。例えば,伏見(1992)は金属概念を題材として,誤知事例と正知事例の配列順序を操作することによる学習効果の違いを検討している。正知事例とは学習者が既に正しく理解している事例であり,誤知事例とは学習者が日常経験などから誤って理解してしまっている事例である。この研究では,概念の内包に関しては,「正知事例→誤知事例」の順で提示することの有効性が示されている。
これまで,このような提示事例の配列順序に関する研究では,概念の内包と外延を扱う概念が題材とされることが多かったが,概念には属性間の関数関係を扱うものもあることが指摘されている。そこで,本研究では,後者のタイプの概念を題材として,事例の提示順序の違いによる学習効果の検討を行うこととする。具体的には浮力概念と大気圧概念を題材とする。
ところで素朴概念の修正に関しては,山縣(2004)が電流概念を題材として,既有知識の堅固性(既有知識がどの程度強固か)が高いほど素朴概念が修正されやすいことを示唆している。そこで本研究では,提示順序の効果と合わせて素朴概念の堅固性の影響についても検討することとする。
方法
対象者 北海道教育大学の学生 68 名であった。
材料 1.事前テスト:浮力に関する設問5問(進藤(1995)を参考に作成)と大気圧に関する設問6問(藤田(2005),進藤ら(2006)を参考に作成,2問は記述問題)である。各問題に対して,解答とともに「どの程度自信があるか」を7段階で評定させた。この値を堅固性の指標として用いた。2.浮力と大気圧の概念についての説明文:共通事項,正知事例,誤知事例の説明からなる。「正知事例→誤知事例」の順で提示する群(正誤群),その逆順で提示する群(誤正群),正知事例のみ提示する群(正群),誤知事例のみを提示する群(誤群)によって提示する内容と順序が異なる。なお正知事例と誤知事例は,予備調査で選定した。浮力概念の場合を例示すると,正知事例は物体が水上に浮いている状況,誤知事例は同じ物体が水中で異なる向きで沈んでいる状況でかかる浮力の大きさについての説明文(いずれも約350字)である。3.事後テスト:事前テストと同一の問題である。
手続き 1.事前テスト、2.説明文、3.事後テストの順に構成した冊子を実験参加者に配布し,複数名同時に実施した。前のページに戻ることは許されなかった。
結果
事前テストで正答率が8割以上の被験者は分析対象外としたところ,各群の人数は正誤群15名,誤正群16名,正群16名,誤群14名となった。対象者ごとに正答数の差(事後テスト-事前テスト)を求め,群(提示順序)の要因の分散分析を行った。その結果,主効果が有意であり(F(3,60)=4.13, p< .05),下位検定の結果,正誤群と正群(p<.01), 正誤群と誤群(p<.05),誤正群と正群(p<.05) の間に有意差が認められた(図1)。一方,既有知識の堅固性については,学習効果を示すような結果は得られなかった。
考察
素朴概念の修正には,単一事例よりは複数事例を提示すること,複数事例を提示する場合は正知事例→誤知事例の順に行うこと,単一事例の場合は誤知事例を提示することがより効果的であった。浮力・大気圧のような属性間の関数関係を扱う概念学習においても,先行研究とほぼ一致する結果が得られたと言える。しかし,伏見(1992)の異種定式仮説(正知事例は内包を,誤知事例は外延の把握を促す)は本研究には適用できない。本研究の場合,正知事例について学習者は現象の結果(どうなるか)は知っていても原理の理解は曖昧であったと考えられる。正誤群の学習者は,正知事例の提示により現象の原理の理解に意識が向く,さらに誤知事例が提示されると,概念の基本原理については前事例で理解が進んでいるため,誤知事例の現象の結果を受け入れることに意識が向く,というようなスムーズな思考が可能になったのかもしれない。
これまで,このような提示事例の配列順序に関する研究では,概念の内包と外延を扱う概念が題材とされることが多かったが,概念には属性間の関数関係を扱うものもあることが指摘されている。そこで,本研究では,後者のタイプの概念を題材として,事例の提示順序の違いによる学習効果の検討を行うこととする。具体的には浮力概念と大気圧概念を題材とする。
ところで素朴概念の修正に関しては,山縣(2004)が電流概念を題材として,既有知識の堅固性(既有知識がどの程度強固か)が高いほど素朴概念が修正されやすいことを示唆している。そこで本研究では,提示順序の効果と合わせて素朴概念の堅固性の影響についても検討することとする。
方法
対象者 北海道教育大学の学生 68 名であった。
材料 1.事前テスト:浮力に関する設問5問(進藤(1995)を参考に作成)と大気圧に関する設問6問(藤田(2005),進藤ら(2006)を参考に作成,2問は記述問題)である。各問題に対して,解答とともに「どの程度自信があるか」を7段階で評定させた。この値を堅固性の指標として用いた。2.浮力と大気圧の概念についての説明文:共通事項,正知事例,誤知事例の説明からなる。「正知事例→誤知事例」の順で提示する群(正誤群),その逆順で提示する群(誤正群),正知事例のみ提示する群(正群),誤知事例のみを提示する群(誤群)によって提示する内容と順序が異なる。なお正知事例と誤知事例は,予備調査で選定した。浮力概念の場合を例示すると,正知事例は物体が水上に浮いている状況,誤知事例は同じ物体が水中で異なる向きで沈んでいる状況でかかる浮力の大きさについての説明文(いずれも約350字)である。3.事後テスト:事前テストと同一の問題である。
手続き 1.事前テスト、2.説明文、3.事後テストの順に構成した冊子を実験参加者に配布し,複数名同時に実施した。前のページに戻ることは許されなかった。
結果
事前テストで正答率が8割以上の被験者は分析対象外としたところ,各群の人数は正誤群15名,誤正群16名,正群16名,誤群14名となった。対象者ごとに正答数の差(事後テスト-事前テスト)を求め,群(提示順序)の要因の分散分析を行った。その結果,主効果が有意であり(F(3,60)=4.13, p< .05),下位検定の結果,正誤群と正群(p<.01), 正誤群と誤群(p<.05),誤正群と正群(p<.05) の間に有意差が認められた(図1)。一方,既有知識の堅固性については,学習効果を示すような結果は得られなかった。
考察
素朴概念の修正には,単一事例よりは複数事例を提示すること,複数事例を提示する場合は正知事例→誤知事例の順に行うこと,単一事例の場合は誤知事例を提示することがより効果的であった。浮力・大気圧のような属性間の関数関係を扱う概念学習においても,先行研究とほぼ一致する結果が得られたと言える。しかし,伏見(1992)の異種定式仮説(正知事例は内包を,誤知事例は外延の把握を促す)は本研究には適用できない。本研究の場合,正知事例について学習者は現象の結果(どうなるか)は知っていても原理の理解は曖昧であったと考えられる。正誤群の学習者は,正知事例の提示により現象の原理の理解に意識が向く,さらに誤知事例が提示されると,概念の基本原理については前事例で理解が進んでいるため,誤知事例の現象の結果を受け入れることに意識が向く,というようなスムーズな思考が可能になったのかもしれない。