日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF021] 自閉症への働きかけ

折り紙の分解・統合を中継ぎにした関係づけ操作の促進

向井敦子 (大妻女子大学)

キーワード:自閉症, 分解と統合, 関係づけ操作


目 的
高機能自閉症と想定される対象児は,物事を関係づけて処理することが不適切である。折り紙の場合でも見本図を見て折り線を自律的に抽出することや,それを折り紙の部位に対応づけて折るところで混乱することが多い。ここを解決するためには,見本図が示す情報と折りあげた結果を照合する行動を随伴させて,ひとまとまりの「折るということ」を構成しなければならない。そこで本研究ではこの中継ぎ行動を形成するために以下の2つのルールを使用する。ルール1:見本図に示される折り線の両端に白丸をつけ,白丸のついているところで折る。ルール2:折り重なる両端に黒丸をつけ,黒丸を合わせて折る。これにより見本図を読み取って形成する表象と,折ることで形成される表象が相互連関的に対応づけられることを促進する。
教育実践は学習者本人が意図的に関係づけの操作が行えるようにすることが目的である。そのために以下の3段階を設けて学習者の自立的調整を促す。段階1:教授者がすべての印を見本図につけて,学習者に折り紙にマークさせる。対応する行動を行うごとにルールを言語化して教示する。段階2:教授者は見本にマークをつけるが,マークの取り扱い方は学習者に考えさせる。段階3:教授者はマークも言語教示も控えて,学習者自身が意図的にルールを使用し,ルールを中継ぎにして折る。
また,実践中に学習者の座標軸が機能していないことが判明したので,座標の言語化を促進する。「角」と「真ん中」とそれらを統合した「縁」という言葉と対応づける。縁への統合と,角,真ん中への分化を促進する。これらの心理学的工作により,対象児は獲得した言葉を中継ぎとして結果に至る過程を自身で関係づける自立的調整ができるようになることを目的とする。
実践の 方法と 経過
対象児: BOとBI(中学2年~3年,男児)
実践時期: 2014年2月~5月(計8回)
実践場所: 知覚・言語障害教育研究所
I 折り方のルール化
【方法】折り数の少ない単純な題材を用いて,上述の段階ごとに,見本図に2つのルールを適用させた。
【結果】段階1では,BOは折り線が1本の場合はルールに合致したマークをつけて折ることができたが,斜めの折り線のマークをつける箇所がルールと合致しなくなり,折る場所もマークと一致していなかった。途中からはマークの色の混同が見られルールが曖昧になった。ルールに戻ってそのつど確認させたがなかなか進まなかった。手に持っている折り紙を回してしまうので見本と対応づけられないことが頻発した。座標を表す言葉が機能していないことを作業仮説として,座標と言語の対応づけをはかることを次の課題とした。
BIは段階1から2まで見本通りにマークをつけたが,斜めに折るところでマークとずれて折り紙の垂直線に沿って折ろうとした。言語教示によりルールに基づいて再考させることを繰り返した。段階3になると次の手順を言語化したり,自発的にマークをつけその機能を言語化する様子を見せた。最終的にはマークなしで見本図を見て折ることができた。
II 座標の言語化を促進する工作
【方法】縁を枠づけ十字に線を引いた折り紙を使用して,教授者が言語化したところを学習者が指すことと,教授者が指したところを学習者が言語化することを適宜繰り返した。指示する場所は,上下左右の「縁」,上下左右の縁の「真ん中」,右上の「角」,左上の「角」,右下の「角」,左下の「角」,折り紙の中央である「真ん中」として,それぞれの用語と対応づけた。
【結果】座標の言語化については,BOは左右は答えられても上下との組み合わせると混乱していた。そのつど,回答しやすい「縁」を同定させてから,「縁には角が2つある」ことを教示していくことによって,次第に分化した表現になった。座標としての縁と角が上下左右において分化してくると,折り紙の方向を見本と合わせる行動を自発するようになった。「縁に合わせて折る」「角との関係で折り線を位置づけ直す」ことが少しずつ対応づけられるようになった。
考 察
座標を表す言葉が使用できるようになると,見本図を見てどちらの方向に折るかを自発的に対応づけたり自分の折り紙の方向を合わせるなど,折り紙という固有の特殊座標を折り紙と見本図を含めた一般座標へと変換する様子を見せてきた。さらに他の課題においてもBOは出来事を時系列的に関連づけて文章化した。BIはタングラム課題で影絵の全体像に近い形に、大きさや形の異なる片を組み合わせた。このように問題が発生する条件の仮説を立てて手続きで確定していく教育実践の手法は,その課題固有の正誤だけではなくて,仮定された条件関係が他の課題へと汎化してはじめてその仮説と手続きを成果から意義づけることができる。