[PF026] 社会的プレッシャーが日中大学生の学習方略に与える影響
Keywords:社会的プレッシャー, 日中比較, 学習方略
【目的】 大学生は,それまでの義務教育や高校と比べて教師による支援が少なく,より自律的な学習を要求され,学習方略の重要性が強調されている。また,大学生はそれまでと違って就職や親の期待などの社会的プレッシャーに影響されている。それが学習動機や学習観にも影響し,さらに学習方略に影響すると予想される。ただし,社会的プレッシャーは文化によって異なると考えられる。そこで本研究では日中の大学生を比較し,社会的プレッシャーが学習方略に及ぼす影響を,学習動機・学習観との関連を踏まえながら明らかにすることを目的とする。
【方法】 協力者:日本の地方国立大学生110名。中国の地方師範大学生114名。
時期:日中共に2013年10月に実施した。
手続き:先行研究で小中高校生向けに作成された質問項目を大学生向けに一部修正の上,学習方略(31項目),学習動機(36項目),学習観(18項目),社会的プレッシャー(6項目)を測定する質問項目(いずれも7件法)を作成した。
【結果】 因子分析の結果,社会的プレッシャーとして日中共に「社会的成功」因子が得られた。しかし,日本人大学生は「自己実現」因子が得られたのに対して,中国人大学生は「親の期待」因子が得られた。また,学習観について,日中共に「学習量志向」,「環境志向」の因子が得られた。くわえて日本人大学生では「方略志向」因子が,中国人大学生では「環境志向」因子が得られた。
続いて,構造方程式によるモデル化を行った。その結果,日本人大学生の学習行動モデル(Figure 1)では,まず社会的プレッシャーのうち「社会的成功」と「自己実現」の間に相関があった。「社会的成功」は,学習動機の「訓練志向」を,「自己実現」は学習観の「学習量志向」をそれぞれ経由し,「学習方略」へとつながることが明らかになった。それに対して中国人大学生の学習行動モデル(Figure 2)では,まず社会的プレッシャーのうちの「社会的成功」と「親の期待」の間に相関があった。「社会的成功」は,学習動機の「実用訓練志向」を,「親の期待」は学習観の「環境志向」をそれぞれ経由し,「学習方略」へとつながることが明らかになった。
【考察】 二つのモデルについて,日中共に「社会的成功」は「(実用)訓練志向」を経由し,「学習方略」へとつながっていた。市川(1998)によれば,「訓練志向」と「実用志向」は学習の功利性を重視する学習動機であるため,「社会的成功」とつながる傾向があると考えられる。
日本人大学生において「自己実現」という社会的プレッシャーが得られたのは,日本人大学生が進路選択時に,過度に自己実現を重視するという玄田(2004)の指摘を支持するものであると言える。「自己実現」は「学習量志向」という学習観を経由し,本研究では,先行研究とは異なり「学習量志向」が「学習方略」に有意なパスが得られた。学習者は暗記や大量の練習問題をすることで成績が上がると信じていて,そしてこのような学習観がさらに学習方略を影響すると考えられる。
また,中国人大学生において「親の期待」という社会的プレッシャーが得られたのは,中国で改革開放政策から始まった一人っ子政策により,子どもは両親から全ての期待を託されたためであると考えられる。さらに,「親の期待」は「環境志向」という学習観を経由し,「学習方略」へとつながっていた。それは,両親から影響を受けると学習者が自身の学習能力を環境に委ねる傾向を持っていて,さらに学習方略を影響すると考えられる。
【方法】 協力者:日本の地方国立大学生110名。中国の地方師範大学生114名。
時期:日中共に2013年10月に実施した。
手続き:先行研究で小中高校生向けに作成された質問項目を大学生向けに一部修正の上,学習方略(31項目),学習動機(36項目),学習観(18項目),社会的プレッシャー(6項目)を測定する質問項目(いずれも7件法)を作成した。
【結果】 因子分析の結果,社会的プレッシャーとして日中共に「社会的成功」因子が得られた。しかし,日本人大学生は「自己実現」因子が得られたのに対して,中国人大学生は「親の期待」因子が得られた。また,学習観について,日中共に「学習量志向」,「環境志向」の因子が得られた。くわえて日本人大学生では「方略志向」因子が,中国人大学生では「環境志向」因子が得られた。
続いて,構造方程式によるモデル化を行った。その結果,日本人大学生の学習行動モデル(Figure 1)では,まず社会的プレッシャーのうち「社会的成功」と「自己実現」の間に相関があった。「社会的成功」は,学習動機の「訓練志向」を,「自己実現」は学習観の「学習量志向」をそれぞれ経由し,「学習方略」へとつながることが明らかになった。それに対して中国人大学生の学習行動モデル(Figure 2)では,まず社会的プレッシャーのうちの「社会的成功」と「親の期待」の間に相関があった。「社会的成功」は,学習動機の「実用訓練志向」を,「親の期待」は学習観の「環境志向」をそれぞれ経由し,「学習方略」へとつながることが明らかになった。
【考察】 二つのモデルについて,日中共に「社会的成功」は「(実用)訓練志向」を経由し,「学習方略」へとつながっていた。市川(1998)によれば,「訓練志向」と「実用志向」は学習の功利性を重視する学習動機であるため,「社会的成功」とつながる傾向があると考えられる。
日本人大学生において「自己実現」という社会的プレッシャーが得られたのは,日本人大学生が進路選択時に,過度に自己実現を重視するという玄田(2004)の指摘を支持するものであると言える。「自己実現」は「学習量志向」という学習観を経由し,本研究では,先行研究とは異なり「学習量志向」が「学習方略」に有意なパスが得られた。学習者は暗記や大量の練習問題をすることで成績が上がると信じていて,そしてこのような学習観がさらに学習方略を影響すると考えられる。
また,中国人大学生において「親の期待」という社会的プレッシャーが得られたのは,中国で改革開放政策から始まった一人っ子政策により,子どもは両親から全ての期待を託されたためであると考えられる。さらに,「親の期待」は「環境志向」という学習観を経由し,「学習方略」へとつながっていた。それは,両親から影響を受けると学習者が自身の学習能力を環境に委ねる傾向を持っていて,さらに学習方略を影響すると考えられる。