日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF039] 状況説明文の記述における影響要因の検討

読み手意識の観点から

古屋由貴子1, 岸学2 (1.東京学芸大学大学院, 2.東京学芸大学)

キーワード:文章産出, 状況説明文, 読み手意識

■問題と目的
日常生活において、状況や出来事を記述する場面は数多く見られる。本研究ではこうした文章を「状況説明文」と呼ぶが、これを扱った研究はほとんど見当たらない。
状況説明文の数少ない研究として滝口(2010)があるが、これは読解のみを扱っており記述に関する検証はされていない。一方、文章をわかりやすく書くための要因として、Alamargotら(2011)、大浦・安永(2007)などから読み手意識(audience awareness)が挙げられる。手続き的説明文における読み手意識は「読み手の知識量」と配慮することであったが,状況説明文は普遍的な情報から構成されるため、「読み手の知識量」よりもむしろ「読み手の目的」の明確さが影響すると予測される。
以上より、本研究では、状況説明文の記述における読み手意識の影響について検討し、これが「読み手の知識量」のみに依存しないことを検証すると共に、読み手意識の規定要因として「読み手の目的」を取り上げ、これが状況説明文のわかりやすさに与える影響についても検討する。
■実験
対象:大学生40名
要因:読み手情報(多群・少群)の参加者間要因,目的(明瞭群・不明瞭群) の参加者内要因
材料:記述用資料(交通事故の状況について描写したもの)、質問紙(岸ら(2014)の26項目)
手続き:まず、記述用資料の内容を文章で記述してもらった。その際,読み手情報多群には読み手に関する情報を具体的に教示し、少群には多群よりも少ない教示を与えた。次に,「読み手の目的」に関する教示を具体的に与えた上で文章の書き直しをしてもらい,これを目的明瞭群とした。尚,不明瞭群は読み手情報少群の文章を使用した。その後,質問紙に解答してもらった。
■文章の評価
対象:大学生25名(上記の実験とは同一でない)
材料:アンカー文(評価の基準となる文章),評価用文章(前述の実験で産出された文章)
手続き:まず、実験参加者にアンカー文(文章A ,B)を読んでもらい、10段階評価中、文章Aが3、文章Bが8とし、これらと比較したとき評価用文章がどこにあてはまるかを回答してもらった。その後、読み手を特定する教示を加えて新たに評価を行ってもらった。
■結果と考察
岸ら(2014)の読み手意識尺度に因子分析(promax回転)を行い,工夫説明因子,配慮因子,評価因子,状態確認因子の4因子を抽出した。各因子と文章の評価得点の相関を検証した結果、配慮因子(p<.05),状態確認因子(p<.01)に有意な相関がみられたことから,状況説明文のわかりやすさと読み手意識には関連性があることが示された。
次に、評価得点について読み手情報多群・少群でt検定を行った結果、有意な差は見られなかった。一方、目的明瞭群・不明瞭群でt検定を行った結果、有意な差が見られた( p<.01)。(図1参照)
さらに、文章中から①車の被害に関する単語(8単語),②人体への被害に関する単語(4単語),③事故とは直接関係のない単語(4単語)を抽出し,これらの数について両群でχ?検定を行った結果、目的明瞭群の方が不明瞭群よりも①では6単語、②では3単語が有意に多く、③は3単語が有意に少なかった。①~③の単語の数と評価得点との間には,①②で有意な正の相関がみられ(①: p<.01 ②: p<.01)、③で有意な負の相関がみられた( p<.05)。
以上より,「読み手の目的」を配慮することでわかりやすい状況説明文の作成が可能になることが示された。また、目的明瞭群・不明瞭群は同一参加者であったことから,個人の能力や説明経験に左右されず,誰もが「読み手の目的」を配慮することで文章の内容を変化させることができ,こうした文章は,上記同様書き手個人の要因にあまり影響を受けずに読み手から「わかりやすい」と評価されることが考えられた。