日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF043] 森・川・海と人とのつながりを重視した魚食普及プログラム開発における地域協働取組の意義と課題

佐々木剛 (東京海洋大学)

キーワード:魚食普及プログラム, 地域協働取組, 水圏環境教育

目的
近年,我が国において森・川・海のつながりを重視した住民・市民活動が数多く展開されるようになった。森・川・海のつながりに係る分野は多岐にわたっており,より広範な分野の行政・研究に係る関係機関の密接な連携体制の構築とともに,共通認識に立った目標等を掲げた上で,調査研究・解析等を進め,さらには漁業者,林業従事者,地域住民,NPO等の多様な主体の参加・参画を推進することが必要となっている(水産庁・林野庁・国交省,2004)。
また,海洋基本法では,森・川・海の問題に国,自治体,関係者がそれぞれの役割を担い,総合的な視点で参画,協力して取り組む沿岸域総合管理の必要性が示された(海洋基本法,2007)。
しかしながら,森・川・海のつながりを重視したプログラムの開発・実践・評価に関して,住民・行政・生産者・研究者等による地域協働取組がどのように展開され,どのような成果を生み出したのかについての報告は決して多くはない。
そこで,本研究では,森・川・海と人のつながりを重視した「魚食普及プログラム」において,地域協働取組によってどのようなプロセスで魚食普及プログラムが開発されたのか,参画者の発話に着目し解析を行った。

方法
本研究では,平成25年5月岩手県閉伊川流域で開催された森・川・海と人とのつながりを重視した魚食普及プログラム「世界サクラマスサミットin IWATE」(以下サミット)を分析の対象とした。サクラマスは有史以前より重要な食料タンパク源として利用されてきた。サクラマスは海と川を行き来する通し回遊魚であり,清冽な河川環境のもとで産卵,ふ化後はヤマメとして成長し,その一部は2年目の春に川を下り,サクラマスとして海で1年生活した後,春に再び遡上し半年後産卵し一生を終える。森を構成する生き物やその周辺に住む人々に海からの恵みをもたらす,森・川・海のつながりの象徴である。しかし,近年河川環境の変化により激減し環境省準絶滅危惧種にも指定されている。本サミットはProject Design and Evaluationモデル(以下PDEモデル)に基づき開発されたが,地域協働取組としてどのように提案され,展開されたのか,平成25年1月から開始された複数回のミーティングにおける参画者の発話からその特徴を記述した。

結果と考察
参画したプロジェクトチームメンバーの発話から,カギとなる話題A,カギとなる話題B,そしてA,Bの発話者による認識の共有C,Cに対する反論D,反論Dへの内省Eと創造F,創造Fを裏付ける専門家の意見G,Gに対する専門家の意見H,意見の集約Iが確認された。
学習者は対話を通じ言語使用の有様を学び,自らの中に内化していく。自己とは異なった意味や指向性,文化や歴史を持つ他者が存在することによってはじめてその溝を埋めるべく対話が可能となる(吉田 2001)。
森・川・海のつながりについて自己とは異なる意味や指向性,文化や歴史を持つ他者が存在することを前提にした地域協働取組によるプログラム開発において,異なる立場から提案されたカギとなる話題A,Bが内化され,認識Cとして共有され,認識Cによって紆余曲折がありながらも内省E・創造Fにより意見集約I,プログラム開発へと展開した。このような地域協働取組による開発プロセスが森・川・海のつながりの認識の深化にどのような意味を持ち,どのような成果をもたらすのか今後更なる検証が必要である。

引用文献
水産庁・林野庁・国交省(2004). 森・川・海のつなか?りを重視した豊かな漁場海域環境創出方策検討調査報告書.
海洋基本法(2007).
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H19/H19HO033.html
吉田達弘.(2001). 社会文化的アプローチによる英語教育研究の再検討--「獲得」 から 「アプロプリエーション」 へ. 言語表現研究, (17), 41-51.