日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PF046] 説明文産出における振り返りの効果III

自己・他者評価における気づきが説明文産出に及ぼす影響

藤田哲也1, 深谷達史2 (1.法政大学, 2.群馬大学)

キーワード:説明文産出, 自己評価, 他者評価

問 題 と 目 的
本研究では,学習者の産出する説明文の質を高めるために,産出した文章に対して自己評価(推敲)する場合と他者の文章を評価(添削)する場合とを直接比較する。藤田・深谷(2014,日心)は,特定の読み手を想定させずに学習者に説明文を書くよう求めた。その後,読み手を想定すると説明文がよいものになるという情報を与えた上で,1度目の文章を対象に自己評価あるいは他者評価をするよう求めた。それらの評価において,改善点を多く挙げたのは自己評価群であり,よい点を多く挙げたのは他者評価群であった。ただし単純な反転関係にあるわけではなく,全体の文章構成に関する側面では自己評価での気づきが多く,一文の長短などの側面では他者評価での気づきが多いなど,着目する側面が評価対象によって異なることも示された。
本研究は,そのような評価対象による気づきの違いが,その後に産出される2回目の説明文の質にどのように影響するのかを検討することを目的とする。
方 法
・参加者とデザイン 評価対象2(自己/他者;被験者間)×気づき2(有/無;被験者間)×作成時期2(1回目/2回目;被験者内)の3要因混合計画。基礎ゼミという初年次教育の2012,2013年度の受講生であった学部1年生を,自己評価条件59人と他者評価条件58人に割り当てた。
・材料と手続き 全参加者に対し,1回目の説明文作成時には,前期の基礎ゼミがどんな授業だったのかを200字程度,10分で説明するように教示した。次に両群に対して“説明文を書く際には,伝えようとしている情報についてよく知らない人でも理解しやすいように気をつける必要があり,そのためには,具体的な読み手を想定するとよい”とアドバイスを行った。そして基礎ゼミの授業を知らない人として,オープンキャンパスに来た高校生を想定し,改善するべき点や,工夫されているよい点を,5分間でできるだけたくさん書き出すよう指示をした。その際に,自己評価条件では自分の書いた説明文に対して,他者評価条件には他の受講生の書いた説明文に対して,改善すべき点・よい点を書き出すよう求めた。5分経過後,ここまでのすべての記入物を回収した。最後に,全参加者に再度説明文を書くよう求めた。その際,改善すべき点・よい点を踏まえて,オープンキャンパスに来ている高校生に,前期の基礎ゼミがどんな授業だったのかを説明する文章を10分で書くように,と教示した。以上は基本的に藤田・深谷(2014)と同一であった。
結 果 と 考 察
岸他(2012)の文章産出困難感尺度を参考に,説明文のわかりやすさ・読み手への配慮についての四つの評価項目“具体的な内容が書かれている(具体)”“難しい表現は用いていない(平易表現)”“自分(評価者)自身が内容に興味を持てる(興味)”“何を伝えたいのかが明確である(明確)”を作成した。大学院生2人に,全説明文に対して“6=非常に当てはまる~1=全くあてはまらない”の6段階で各4項目の評定を求めた。2者の評定値間の相関係数はr=.35~.50ですべて1%水準で有意だったので,2者の評定値の平均を分析対象とした。独立変数は,評価対象(自己/他者)及び,1回目の説明文に対する“改善点・よい点”の各カテゴリ(表現面,内容面)における気づきの有無(藤田・深谷,2014)であった。
まず予備的な分析として,四つの評価項目の評定値が1回目と2回目の説明文とで有意に異なるかどうかを,評価対象(自己/他者)ごとに検定したところ,“平易表現”以外の評定値はすべて2回目が有意に高かった。
次に,2回目と1回目の評定値の差を従属変数として,改善点・よい点のカテゴリごとに,評価対象×気づきの有無の2要因分散分析を行ったところ,“興味”得点における,改善点としての“内容面:授業基本情報(例: 高校と大学の違いに言及すべき)”の気づきの有無の主効果及び,“明確”得点における,改善点としての“表現面:文章・構成(例:具体例を入れるべき)”の気づきの有無の主効果(図1)が有意傾向だった。その他の主効果・交互作用は有意にならなかった。これらの気づきは他者評価より自己評価で多い(藤田・深谷,2014)ことから,自己評価の方が改善点に気づきやすく,結果として2回目の説明文が改善されやすい可能性が示唆される。