[PF048] 高校における教えあい講座の実践(4)
教えあいのタイプとその変化
キーワード:学習方略, コミュニケーション場面, 教えあい
問題と目的
効果的な学び方に関する研究は,学習方略研究を中心に盛んに行われてきている。こうした研究の多くは,学習者が一人で学習する場合を想定し,そこでの学習方略を取り上げている。その一方で,人間の学習活動を考えてみると,他者とコミュニケーションをとりながら学習を進めるといったことも存在する。すなわち,コミュニケーション場面での学習方略も,身につけておく必要がある。この視点は,文部科学省において議論されている,将来育成すべき資質・能力として議論されている内容とも軌を一にしている(文部科学省,2014)
こうした問題意識をふまえ,高校において効果的な教えあいのあり方を促すような実践を,2年間にわたって実施した(概要については教心発表「高校における教えあい講座の実践(1)~(3)」を参照されたい)。本発表では,2年目の実践における生徒の教えあいの様子に着目する。生徒の1回目と2回目の教えあいをコーディングしたデータを用いてクラスタ分析を行い,教えあいのタイプを検討するとともに,1年目で見られた,①教えあいにおける問いの質が低い,②理解状態に対する関心が薄い,という2つの問題が解消されているのかを検討する。また,1回目から2回目にかけての教えあいの質の変化を検討する。
分析方法と結果
データのコーディング 生徒の教えあいを以下の9つの観点に基づいて2名の院生が独立に1,0でコーディングした。全体の一致率は78%だった。
教え手の行動に関する観点 1)説明主題:単なるルールや手続きの説明ではなく,「なぜそのようになるのか」や「そもそもそれはどのようなものか」といった内容が含まれている。2)具体例①:既出の具体例を挙げている。3)具体例②:新たな具体例を挙げている。4)自己診断の要請:説明の前に,分からないことをはっきりさせるように問いかけている。5)理解確認:説明後に,理解した内容を説明するように聞き手に求めている。
聞き手の行動に関する観点 1)自己診断:説明前に自分の分からない点をはっきりさせている。2)確認的質問:「なぜ」や「そもそも」に関する説明に対して質問を行っている。3)発展的質問:「なぜ」や「そもそも」に関する発展的な質問(例:別の状況にあてはめられるか)を行っている。4)自己説明:説明を聞いたあとに,聞き手自身が理解を確認するような説明を行っている。
分析方法 1回目の教えあいは80件,2回目の教えあいは33件のやり取りを対象とした。それぞれ独立にward法を用いたクラスタ分析を実施した。
1回目の話しあい 4つのクラスタを抽出した。クラスタごとに9つの観点の平均値を算出したところ,クラスタ4(n=25)のみ,説明主題の質が低く,教え手の自己診断の要請や聞き手の質問も総じて低かった。その他3つのクラスタでは,概ね説明主題の質は高かったがそれぞれ異なる特徴が見られた。クラスタ1(n=9)は聞き手からの発展的質問が多い群,クラスタ2(n=18)は教え手の具体例利用が多い群,クラスタ3(n=28)は教え手が理解確認のための説明を促すことが多い群と考えらえた。
2回目の話しあい 3つのクラスタを抽出した。クラスタ1(n=12)のみ,説明主題の質が低かったものの,教え手の具体例や自己診断の要請,聞き手の発展的質問などは行われていた。クラスタ2 (n=10)とクラスタ3 (n=11)では,どちらも説明主題の質が高く,概ねどちらも効果的な方略を一定程度,利用していた。ただし,クラスタ2はクラスタ3に比べて教え手の具体例と聞き手の自己説明が高いという点で異なっていた。なお,理解確認はいずれの群でもあまり利用されていなかった
考察
1回目の教えあいにおけるクラスタ4では,「なぜ」ではなく「なに」に注目した教えあいが多く,かつ理解状態にあまり気を配っていない傾向がみられた。これは1年目に見られた問題と同様の傾向であった。その他のクラスタでは,より効果的な教えあいが行われていたが,期待された方略を全般的に活用した群はなく,部分的に取り入れた状態であった。一方,2回目の教えあいでは,効果的な様々な方略を用いて教えあう群がみられるようになっている。また,「なに」に注目した説明が多い群でも,具体例や発展的質問がみられるなど,改善が認められた。1回目と2回目はグループの参加人数が異なるなど単純な比較はできないものの,介入の進行にともなって教えあいの質が変化している様子が確認できた。また,介入を行っても取り入れられにくい方略も明らかとなった。
効果的な学び方に関する研究は,学習方略研究を中心に盛んに行われてきている。こうした研究の多くは,学習者が一人で学習する場合を想定し,そこでの学習方略を取り上げている。その一方で,人間の学習活動を考えてみると,他者とコミュニケーションをとりながら学習を進めるといったことも存在する。すなわち,コミュニケーション場面での学習方略も,身につけておく必要がある。この視点は,文部科学省において議論されている,将来育成すべき資質・能力として議論されている内容とも軌を一にしている(文部科学省,2014)
こうした問題意識をふまえ,高校において効果的な教えあいのあり方を促すような実践を,2年間にわたって実施した(概要については教心発表「高校における教えあい講座の実践(1)~(3)」を参照されたい)。本発表では,2年目の実践における生徒の教えあいの様子に着目する。生徒の1回目と2回目の教えあいをコーディングしたデータを用いてクラスタ分析を行い,教えあいのタイプを検討するとともに,1年目で見られた,①教えあいにおける問いの質が低い,②理解状態に対する関心が薄い,という2つの問題が解消されているのかを検討する。また,1回目から2回目にかけての教えあいの質の変化を検討する。
分析方法と結果
データのコーディング 生徒の教えあいを以下の9つの観点に基づいて2名の院生が独立に1,0でコーディングした。全体の一致率は78%だった。
教え手の行動に関する観点 1)説明主題:単なるルールや手続きの説明ではなく,「なぜそのようになるのか」や「そもそもそれはどのようなものか」といった内容が含まれている。2)具体例①:既出の具体例を挙げている。3)具体例②:新たな具体例を挙げている。4)自己診断の要請:説明の前に,分からないことをはっきりさせるように問いかけている。5)理解確認:説明後に,理解した内容を説明するように聞き手に求めている。
聞き手の行動に関する観点 1)自己診断:説明前に自分の分からない点をはっきりさせている。2)確認的質問:「なぜ」や「そもそも」に関する説明に対して質問を行っている。3)発展的質問:「なぜ」や「そもそも」に関する発展的な質問(例:別の状況にあてはめられるか)を行っている。4)自己説明:説明を聞いたあとに,聞き手自身が理解を確認するような説明を行っている。
分析方法 1回目の教えあいは80件,2回目の教えあいは33件のやり取りを対象とした。それぞれ独立にward法を用いたクラスタ分析を実施した。
1回目の話しあい 4つのクラスタを抽出した。クラスタごとに9つの観点の平均値を算出したところ,クラスタ4(n=25)のみ,説明主題の質が低く,教え手の自己診断の要請や聞き手の質問も総じて低かった。その他3つのクラスタでは,概ね説明主題の質は高かったがそれぞれ異なる特徴が見られた。クラスタ1(n=9)は聞き手からの発展的質問が多い群,クラスタ2(n=18)は教え手の具体例利用が多い群,クラスタ3(n=28)は教え手が理解確認のための説明を促すことが多い群と考えらえた。
2回目の話しあい 3つのクラスタを抽出した。クラスタ1(n=12)のみ,説明主題の質が低かったものの,教え手の具体例や自己診断の要請,聞き手の発展的質問などは行われていた。クラスタ2 (n=10)とクラスタ3 (n=11)では,どちらも説明主題の質が高く,概ねどちらも効果的な方略を一定程度,利用していた。ただし,クラスタ2はクラスタ3に比べて教え手の具体例と聞き手の自己説明が高いという点で異なっていた。なお,理解確認はいずれの群でもあまり利用されていなかった
考察
1回目の教えあいにおけるクラスタ4では,「なぜ」ではなく「なに」に注目した教えあいが多く,かつ理解状態にあまり気を配っていない傾向がみられた。これは1年目に見られた問題と同様の傾向であった。その他のクラスタでは,より効果的な教えあいが行われていたが,期待された方略を全般的に活用した群はなく,部分的に取り入れた状態であった。一方,2回目の教えあいでは,効果的な様々な方略を用いて教えあう群がみられるようになっている。また,「なに」に注目した説明が多い群でも,具体例や発展的質問がみられるなど,改善が認められた。1回目と2回目はグループの参加人数が異なるなど単純な比較はできないものの,介入の進行にともなって教えあいの質が変化している様子が確認できた。また,介入を行っても取り入れられにくい方略も明らかとなった。