[PF062] 大学における導入教育を学生はどう見ているのか(1)
Keywords:初年次教育, 授業評価
問題
大学入学者のアカデミックな能力の多様化(低下),大学教育の成果の可視化の流れなどを背景にして,大学における初年次教育の重要性が認識され,その肯定的効果が示されている(黒沢, 2010)。しかし,そのカリキュラムは大学ごとに多様であり,組織的に検証されたというよりは大学の実情や必要にあわせて決められていると考えられる。そこで本研究は,大学での学ぶ心構えとアカデミックスキルを涵養するタイプの初年次教育を対象に,学生による内容の認知を検証し,以後のカリキュラムへの指針とすることを目的とする。
対象とする授業は,大学で学ぶ上での心構えや準備(時間管理・健康管理・心の健康・アサーション)と基本的学習スキル(講義の聞き方・ノートテイキングの方法・情報の検索・論理的思考法・文章の作成法・レポートの書き方)の習得を目標としている。この授業内容を,講義終了時に履修者がどのように評価(重要/不要)していたのか,その評価にはどのような特徴があるのかを,授業評価票の分析によって検討する。
方法
参加者:東京電機大学神田キャンパスの1年生で,初年次科目「フレッシュマンセミナー」を履修した573名のうち,統一授業評価票による評価に参加し,評価票の自動読み取りに成功した384名。
手続:最終回の授業中に授業評価票を配布し,その場で記入を求め回収した。評価票はマークシート処理ソフトでデジタルデータ化された。
質問項目:(a)デモグラフィックな情報:学部・学科・担当教員・出席率・難易度・進度の6項目。(2)授業評価:シラバス適合度・話の聞き取りやすさ・資料の見やすさ・専門知識のわかりやすさ・教科書使用の適切さ・学習方法の提示・教員の意欲・学習環境の整備・授業への興味関心の深まりの9項目(それぞれ5件法)。(3)授業内容の評価:授業で扱った各内容がこの授業で学べてよかったか,あるいは扱わなくてもよかったかに関する評定(自校の歴史・時間管理・健康管理・心の健康・アサーション・ノートテイキング・拡散的思考・調べ方・レポートとは何か・パラグラフライティング・書くために考える・レポートのルールという12の内容からそれぞれ3つまでの多肢選択),からなっている。
結果
内容の評価:授業内容の評価については,よかった/不要だと選択した数を,それぞれの中で昇順に順位づけし,中央の6位までと7位以下で分け,それぞれの高低の組み合わせで4群を作った。すなわち,(a) よかったのみ高く多くが重要だと考えられている内容=時間管理・レポートとは・レポートのルール,(b) 不要のみ高く多くが不要と考えられている内容=健康管理・心の健康・アサーション,(c) 両方低く全般に関心が低い項目=拡散的思考・パラグラフライティング・書くために考える,(d) 両方高く評価が分かれる項目=自校の歴史・ノートテイキング・調べる,である。
興味関心と内容の評価:授業評価項目のうち興味関心の深まりを最終的評価と考え,その中央値(3.3)によって学生を高/低群に分け,学べてよかった/不要だったという評価の有無との関係をFisherの直接法によって検定した。すると,学べてよかったという選択は「ノートテイキング」で高群が多く(p<.01),不要だったという選択は「自校の歴史」「ノートテイキング」で低群が多かった(順にp<.001, p<.05)。
考察
評価についての分析からは,学生がレポートやその書き方について知りたがっていること,一方で健康管理・アサーションなど大学学習準備への意識が薄いことが明らかとなった。この内容とニーズのミスマッチをどう防ぐかが課題となろう。
評価が二極に分かれた自校の歴史・ノートテイキング・調べる,のうち前2者は,興味関心の高低で選択率に差が出た。関心をもった学生ほど歴史とノートテイキングの重要性を認識しているということは,この重要性をきちんと伝えることが今後必要になると可能性を示唆している。また,導入科目の肯定的効果は,ノートを考えながら取る能力と,大学生としての誇りを持って学ぶことが関係している可能性が考えられる。今後この視点からの検討が求められよう。
引用文献
黒沢学 2010 東京電機大学神田キャンパスにおける初年次教育. リメディアル教育研究, 5(2), pp. 42-49.
大学入学者のアカデミックな能力の多様化(低下),大学教育の成果の可視化の流れなどを背景にして,大学における初年次教育の重要性が認識され,その肯定的効果が示されている(黒沢, 2010)。しかし,そのカリキュラムは大学ごとに多様であり,組織的に検証されたというよりは大学の実情や必要にあわせて決められていると考えられる。そこで本研究は,大学での学ぶ心構えとアカデミックスキルを涵養するタイプの初年次教育を対象に,学生による内容の認知を検証し,以後のカリキュラムへの指針とすることを目的とする。
対象とする授業は,大学で学ぶ上での心構えや準備(時間管理・健康管理・心の健康・アサーション)と基本的学習スキル(講義の聞き方・ノートテイキングの方法・情報の検索・論理的思考法・文章の作成法・レポートの書き方)の習得を目標としている。この授業内容を,講義終了時に履修者がどのように評価(重要/不要)していたのか,その評価にはどのような特徴があるのかを,授業評価票の分析によって検討する。
方法
参加者:東京電機大学神田キャンパスの1年生で,初年次科目「フレッシュマンセミナー」を履修した573名のうち,統一授業評価票による評価に参加し,評価票の自動読み取りに成功した384名。
手続:最終回の授業中に授業評価票を配布し,その場で記入を求め回収した。評価票はマークシート処理ソフトでデジタルデータ化された。
質問項目:(a)デモグラフィックな情報:学部・学科・担当教員・出席率・難易度・進度の6項目。(2)授業評価:シラバス適合度・話の聞き取りやすさ・資料の見やすさ・専門知識のわかりやすさ・教科書使用の適切さ・学習方法の提示・教員の意欲・学習環境の整備・授業への興味関心の深まりの9項目(それぞれ5件法)。(3)授業内容の評価:授業で扱った各内容がこの授業で学べてよかったか,あるいは扱わなくてもよかったかに関する評定(自校の歴史・時間管理・健康管理・心の健康・アサーション・ノートテイキング・拡散的思考・調べ方・レポートとは何か・パラグラフライティング・書くために考える・レポートのルールという12の内容からそれぞれ3つまでの多肢選択),からなっている。
結果
内容の評価:授業内容の評価については,よかった/不要だと選択した数を,それぞれの中で昇順に順位づけし,中央の6位までと7位以下で分け,それぞれの高低の組み合わせで4群を作った。すなわち,(a) よかったのみ高く多くが重要だと考えられている内容=時間管理・レポートとは・レポートのルール,(b) 不要のみ高く多くが不要と考えられている内容=健康管理・心の健康・アサーション,(c) 両方低く全般に関心が低い項目=拡散的思考・パラグラフライティング・書くために考える,(d) 両方高く評価が分かれる項目=自校の歴史・ノートテイキング・調べる,である。
興味関心と内容の評価:授業評価項目のうち興味関心の深まりを最終的評価と考え,その中央値(3.3)によって学生を高/低群に分け,学べてよかった/不要だったという評価の有無との関係をFisherの直接法によって検定した。すると,学べてよかったという選択は「ノートテイキング」で高群が多く(p<.01),不要だったという選択は「自校の歴史」「ノートテイキング」で低群が多かった(順にp<.001, p<.05)。
考察
評価についての分析からは,学生がレポートやその書き方について知りたがっていること,一方で健康管理・アサーションなど大学学習準備への意識が薄いことが明らかとなった。この内容とニーズのミスマッチをどう防ぐかが課題となろう。
評価が二極に分かれた自校の歴史・ノートテイキング・調べる,のうち前2者は,興味関心の高低で選択率に差が出た。関心をもった学生ほど歴史とノートテイキングの重要性を認識しているということは,この重要性をきちんと伝えることが今後必要になると可能性を示唆している。また,導入科目の肯定的効果は,ノートを考えながら取る能力と,大学生としての誇りを持って学ぶことが関係している可能性が考えられる。今後この視点からの検討が求められよう。
引用文献
黒沢学 2010 東京電機大学神田キャンパスにおける初年次教育. リメディアル教育研究, 5(2), pp. 42-49.