[PF064] 大学教育の研究意欲に影響を及ぼす要因(I)
地方小規模私立大学における調査を対象として
Keywords:大学教育, 研究意欲, 動機づけ
【問題と目的】
これまで先行研究において,大学教員の研究意欲にどのような要因が影響するのかについて検討しているものは非常に少ない。林ら(2008)は,研究促進には研究意欲や自らの研究に対する学術的意義といった教員の内発的動機づけ,学内外での研究交流が重要であることを報告している。また有本(2008・2011)は,教育活動も重視する傾向が増加し,教育と研究のバランスに配慮しつつも管理運営活動等に時間を取られている大学教員の現状を報告している。これらを踏まえ,本研究では,大学教員の研究意欲と,大学の制度的な要因、研究時間の確保、教育との関係等の要因がどのように影響し合っているかを検討した。そして,これらを通して,「研究意欲の構造」を明らかにすることを目的とした。
【方 法】
1.調査対象:東北地方の小規模私立A大学に所属している教員70名,回収数56名,有効回答数48名であった。教員の専門分野は理系・文系・その他の領域と多岐にわたる。
2.質問項目:質問紙は性別,年齢,所属機関,研究領域,職階の5項目と,(1)所属組織における研究促進のための方策や資源について,林ら(2008)より研究組織の柔軟性10項目,物理的・制度的バックアップ9項目に新たに1項目を加えた10項目の計20項目,(2)自研究意欲等について,林ら(2008)より研究意欲・学術的意義7項目,教員の自由・独立2項目,葛城(2011)より研究についての大学からの期待6項目,そして新たに研究時間の確保8項目,教育が研究に役立つか5項目の計28項目,合計53項目により構成されている。回答は当てはまらない(1)~当てはまる(5)の5件法により評定を求めた。それぞれα係数は,「研究組織の柔軟性」(.761),「物理的・制度的バックアップ」(.827),「研究意欲・学術的意義」(.707),「教員の自由・独立」(.081),「研究についての大学からの期待」(.006),「研究時間の確保」(.618),「教育が研究に役立つか」(.822)であったが,教員の自由・独立,研究についての大学からの期待はα係数が十分な値に達しなかったために今回の分析では除いた。
【結果と考察】
1.記述統計と分散分析:男女(男性30名女性18名)について対応のないt検定を,年齢(40歳以下6名,40代11名,50代17名,60代以上14名)・職階(教授29名,准教授10名,講師9名)・研究領域(理系9名,文系27名,その他の領域12名)についてそれぞれ対応のない一元配置分散分析を行った。その結果,研究についての大学からの期待(F(2,45)=4.34,P<.05)について理系・文系よりもその他の評定値が有意に高く,また教育が研究に役立つか(F(2,45)=3.83,P<.05)について理系よりもその他が有意に高かった。
2.共分散構造分析
上述の4つの変数が研究意欲・学術的意義にどのように影響しているかについて,パス解析を行った(図1)。その結果,大学からのバックアップや組織の柔軟性といった外的要因は研究意欲・学術的意義には影響を及ぼさず,教育が研究に役立つと感じられることのみが,教員の研究意欲及び教員が自己の研究に学術的意義があると感じることを促進していた。ここから,教員の研究意欲等には,外的な援助や環境よりも、教育内容と研究内容が乖離していないことが重要であることが示された。
(付記:本研究は,2013-2014年度尚絅学院大学共同研究費の助成による研究の一部である。)
これまで先行研究において,大学教員の研究意欲にどのような要因が影響するのかについて検討しているものは非常に少ない。林ら(2008)は,研究促進には研究意欲や自らの研究に対する学術的意義といった教員の内発的動機づけ,学内外での研究交流が重要であることを報告している。また有本(2008・2011)は,教育活動も重視する傾向が増加し,教育と研究のバランスに配慮しつつも管理運営活動等に時間を取られている大学教員の現状を報告している。これらを踏まえ,本研究では,大学教員の研究意欲と,大学の制度的な要因、研究時間の確保、教育との関係等の要因がどのように影響し合っているかを検討した。そして,これらを通して,「研究意欲の構造」を明らかにすることを目的とした。
【方 法】
1.調査対象:東北地方の小規模私立A大学に所属している教員70名,回収数56名,有効回答数48名であった。教員の専門分野は理系・文系・その他の領域と多岐にわたる。
2.質問項目:質問紙は性別,年齢,所属機関,研究領域,職階の5項目と,(1)所属組織における研究促進のための方策や資源について,林ら(2008)より研究組織の柔軟性10項目,物理的・制度的バックアップ9項目に新たに1項目を加えた10項目の計20項目,(2)自研究意欲等について,林ら(2008)より研究意欲・学術的意義7項目,教員の自由・独立2項目,葛城(2011)より研究についての大学からの期待6項目,そして新たに研究時間の確保8項目,教育が研究に役立つか5項目の計28項目,合計53項目により構成されている。回答は当てはまらない(1)~当てはまる(5)の5件法により評定を求めた。それぞれα係数は,「研究組織の柔軟性」(.761),「物理的・制度的バックアップ」(.827),「研究意欲・学術的意義」(.707),「教員の自由・独立」(.081),「研究についての大学からの期待」(.006),「研究時間の確保」(.618),「教育が研究に役立つか」(.822)であったが,教員の自由・独立,研究についての大学からの期待はα係数が十分な値に達しなかったために今回の分析では除いた。
【結果と考察】
1.記述統計と分散分析:男女(男性30名女性18名)について対応のないt検定を,年齢(40歳以下6名,40代11名,50代17名,60代以上14名)・職階(教授29名,准教授10名,講師9名)・研究領域(理系9名,文系27名,その他の領域12名)についてそれぞれ対応のない一元配置分散分析を行った。その結果,研究についての大学からの期待(F(2,45)=4.34,P<.05)について理系・文系よりもその他の評定値が有意に高く,また教育が研究に役立つか(F(2,45)=3.83,P<.05)について理系よりもその他が有意に高かった。
2.共分散構造分析
上述の4つの変数が研究意欲・学術的意義にどのように影響しているかについて,パス解析を行った(図1)。その結果,大学からのバックアップや組織の柔軟性といった外的要因は研究意欲・学術的意義には影響を及ぼさず,教育が研究に役立つと感じられることのみが,教員の研究意欲及び教員が自己の研究に学術的意義があると感じることを促進していた。ここから,教員の研究意欲等には,外的な援助や環境よりも、教育内容と研究内容が乖離していないことが重要であることが示された。
(付記:本研究は,2013-2014年度尚絅学院大学共同研究費の助成による研究の一部である。)