[PF068] 中学生の自己調整学習力を育てる教育プログラムの開発
記憶の精緻化方略と教訓帰納方略の自発的利用の促進
キーワード:自己調整学習, メタ認知, 中学生
問題と目的
中学生の自己調整学習力を育成する教育プログラムを開発し,その効果を検証した。プログラムは基本的に,学習方略の教授と練習を行う研究者提供の「学習法講座」と,教師による「授業・家庭学習における方略活用支援」から構成した。学習法講座の基本デザインは,「学習方略の有効性を実感するための心理学実験の導入」,「有効性の理論的説明」,「学習方略の使用練習機会の設定」である。本プログラムの特徴は,学校教師と研究者が協同しつつ役割を分担して生徒の学習方略利用の促進を図る点である。今回は,自己調整学習方略としてメタ認知的方略である「教訓帰納方略」と,認知的方略である「記憶の精緻化方略」を取り上げた。心理学的実験の素材は,教訓帰納方略については「Tパズル」,精緻化方略については「Bransford et al.(1982)を改変した記憶課題」を用いた。
方法
研究協力者及び研究デザイン 中学校2年生5クラス163名が参加した。2013年5月に3クラスに対して「教訓帰納方略」,別の2クラスに「精緻化方略」の第1回学習法講座(50分間)を実施した。2014年2月に,もう一方の方略について第2回学習法講座を実施した。授業・家庭学習における方略活用支援については,数学科担当教師が教訓帰納方略について,前年度より行ってきた取り組みを継続し実施した。
認知的測度 「学習方略に対する有効性の認知」と「今後の学習における方略の自発的利用に対する動機づけ」を自己評定による質問紙(4件法)によって学習法講座の実施直後に測定した。
行動的測度 「学習方略の自発的利用行動」について,方略利用測定課題と授業ノートへの書き込みによって測定した。測定課題は学習法講座から約1カ月~1カ月半後および7か月半後に実施した。授業ノートは,講座実施1カ月前と1カ月半後にデータ収集した。
結果と考察
学習方略の有効性と利用動機づけに対する認知
精緻化方略,教訓帰納方略について,ともに9割を超える生徒が「学習場面で方略を利用することは有効である」と回答した。利用の動機づけについても同様の結果を示した。学習法講座は,学習方略の有効性認知や利用に対する動機づけを高める効果があることが示唆された。
記憶の精緻化方略 方略利用測定課題において生徒の精緻化方略利用率に対する群間差(受講群,非受講群)を検討するカイ二乗検定と,時期による利用率の変化(1カ月半後,7カ月半後)を検討するMcNemarの検定を行った(Table 1)。2013年7月時点での群間差が有意であったことと,2014年2月に精緻化方略の学習法講座を受講したLI-EL群の利用率が有意に増加していることから,学習法講座は精緻化方略の自発的利用促進に効果があったと考えられる。また,2013年5月に受講したEL-LI群の利用率は1カ月半後と7カ月半後に有意差が見られなかったことから,方略の自発的利用が維持されたと考えられる。
教訓帰納方略 方略利用測定課題については,いずれの時点でも群間差は見られなかった。一方,LI-EL群,EL-LI群ともに教訓帰納方略の利用率が2013年7月から2014年3月にかけて有意に増加した(Table 2)。数学授業ノートにおける教訓帰納方略の利用率について,2(受講群,非受講群)×2(受講前,受講後)のノンパラメトリック検定を行った結果,有意な交互作用が見られた(z=2.34, p < .05)。教訓帰納方略は,教師による方略活用支援が生徒の方略の自発的利用に対してより大きな役割を果たすことが示唆された。
中学生の自己調整学習力を育成する教育プログラムを開発し,その効果を検証した。プログラムは基本的に,学習方略の教授と練習を行う研究者提供の「学習法講座」と,教師による「授業・家庭学習における方略活用支援」から構成した。学習法講座の基本デザインは,「学習方略の有効性を実感するための心理学実験の導入」,「有効性の理論的説明」,「学習方略の使用練習機会の設定」である。本プログラムの特徴は,学校教師と研究者が協同しつつ役割を分担して生徒の学習方略利用の促進を図る点である。今回は,自己調整学習方略としてメタ認知的方略である「教訓帰納方略」と,認知的方略である「記憶の精緻化方略」を取り上げた。心理学的実験の素材は,教訓帰納方略については「Tパズル」,精緻化方略については「Bransford et al.(1982)を改変した記憶課題」を用いた。
方法
研究協力者及び研究デザイン 中学校2年生5クラス163名が参加した。2013年5月に3クラスに対して「教訓帰納方略」,別の2クラスに「精緻化方略」の第1回学習法講座(50分間)を実施した。2014年2月に,もう一方の方略について第2回学習法講座を実施した。授業・家庭学習における方略活用支援については,数学科担当教師が教訓帰納方略について,前年度より行ってきた取り組みを継続し実施した。
認知的測度 「学習方略に対する有効性の認知」と「今後の学習における方略の自発的利用に対する動機づけ」を自己評定による質問紙(4件法)によって学習法講座の実施直後に測定した。
行動的測度 「学習方略の自発的利用行動」について,方略利用測定課題と授業ノートへの書き込みによって測定した。測定課題は学習法講座から約1カ月~1カ月半後および7か月半後に実施した。授業ノートは,講座実施1カ月前と1カ月半後にデータ収集した。
結果と考察
学習方略の有効性と利用動機づけに対する認知
精緻化方略,教訓帰納方略について,ともに9割を超える生徒が「学習場面で方略を利用することは有効である」と回答した。利用の動機づけについても同様の結果を示した。学習法講座は,学習方略の有効性認知や利用に対する動機づけを高める効果があることが示唆された。
記憶の精緻化方略 方略利用測定課題において生徒の精緻化方略利用率に対する群間差(受講群,非受講群)を検討するカイ二乗検定と,時期による利用率の変化(1カ月半後,7カ月半後)を検討するMcNemarの検定を行った(Table 1)。2013年7月時点での群間差が有意であったことと,2014年2月に精緻化方略の学習法講座を受講したLI-EL群の利用率が有意に増加していることから,学習法講座は精緻化方略の自発的利用促進に効果があったと考えられる。また,2013年5月に受講したEL-LI群の利用率は1カ月半後と7カ月半後に有意差が見られなかったことから,方略の自発的利用が維持されたと考えられる。
教訓帰納方略 方略利用測定課題については,いずれの時点でも群間差は見られなかった。一方,LI-EL群,EL-LI群ともに教訓帰納方略の利用率が2013年7月から2014年3月にかけて有意に増加した(Table 2)。数学授業ノートにおける教訓帰納方略の利用率について,2(受講群,非受講群)×2(受講前,受講後)のノンパラメトリック検定を行った結果,有意な交互作用が見られた(z=2.34, p < .05)。教訓帰納方略は,教師による方略活用支援が生徒の方略の自発的利用に対してより大きな役割を果たすことが示唆された。