[PF077] 中学生・高校生の自己評価のあり方とキャリア意識との関連
特別支援教育からのアプローチ
キーワード:特別支援教育, 自己評価, キャリア意識
【問題と目的】
キャリア発達やキャリア意識の評価測定に関する研究は多いが特別支援教育の視点からは検討されている研究が少ない。糸賀・田中(1956)は内的適応と職場定着との関連を指摘し,同時に糸賀は知的障害のある中学生の教育目標に「職業的陶冶・社会性の涵養・健康管理」を掲げた。現在でも特別支援教育領域では,基本的な社会生活習慣や健康・心理面に配慮した自己管理の確立を大切にしている。木村・米谷・小野(1992)は東京都の定時制高校生における生活習慣と健康意識の関連を明らかにし,個人差への配慮を指摘した。特別支援教育のキャリア教育の枠組みは4領域とされているが,障害の有無に関わらず中高生のキャリア意識構造には健康意識が存在し,自己評価のあり方がキャリア意識を創り出しているのではないだろうか。
そこで,本研究では,個人差や生徒の意識に着目してキャリア教育を進めるための基礎資料として健康意識を取り入れた質問紙調査を実施し,現在の中学生・高校生の自己評価のあり方とキャリア意識との関連を検討することを目的とした。
【方法】
(1)調査協力者 関東圏の中学生・高校生1035名
(2)調査手続き 2012年7月~11月に学級担任を通して調査を依頼した。学校生活を振り返って自己評価してもらうよう教示し,答えられない問題には回答しなくてもよいことを伝えた。
(3)調査内容 国立特別支援教育総合研究所(2011)による特別支援教育のためのキャリア教育の4領域(「人間関係形成能力」「将来設計能力」「情報活用能力」「意思決定能力」)の枠組みに合わせて,特別支援学校学習指導要領自立活動の「健康の保持・心理的安定」の視点から「健康意識」として1領域を追加し,新しく項目を作成した。5因子構造を想定し,各項目数を8項目ずつとして40項目について5件法により尋ねた。
(4)分析対象と分析方法 中学生532名(1年288名,2年66名,3年178名)高校生330名(全日制1年72名,2年74名,3年69名,定時制1年50,2年31名,3年34名)を分析対象とし,因子分析と分散分析を実施した。
データ解析にはSPSS.Statistics22を用いた。
【結果】
分析1 最尤法プロマックス回転による探索的因子分析の結果,5因子28項目から15項目(3項目×5因子(人間関係形成α=.711・意思決定α=.764・職業意識α=.744・社会生活α=.635・健康意識α=.782))に精選し,5因子モデルと2因子モデル(4領域・健康意識)に対し確認的因子分析を実施したところ,5因子モデルの適合度が良好であり,因子不変性が成立した(Table1)。因子間相関はTable2に示した。よって, 5因子の得点(15点満点×5因子)をキャリア意識に対する自己評価と定義し,以後の分析を5因子で行うこととした。
分析2 健康意識と社会生活の2因子における自己評価が職業意識,意思決定,人間関係形成に影響を与えていると考え,健康意識と社会生活の得点のバランスに着目し,自己管理スタイルとして,2因子間の得点差が3点以下をバランス群,4点以上をアンバランス群とし,学校間と自己管理スタイルによる 2要因2水準の分散分析を実施した。学校間と自己管理スタイルの組み合わせによる交互作用は見られなかった。学校間では職業意識のみに主効果が見られ,中学生が有意に高かった。自己管理スタイルでは職業意識,意思決定,人間関係形成に主効果が見られ,バランス群が有意に高かった。自己管理スタイルは,意思決定や人間関係形成に影響を与えるが,中学生と高校生の間で有意差はなかった。3因子の分散分析結果をTable3に示した。
以上から、自己管理スタイルについてバランスの良い自己評価をする中学生の職業意識は高いことが明らかになった。
【考察】
特別支援教育の視点から健康意識を取り入れて作成したキャリア意識を探る質問紙調査では新たな5因子モデルとなった。本研究から,思春期には健康意識と社会生活に対する自己評価が,自己管理スタイルとして表面化していることが考えられ,健康意識と社会生活の力を自覚的にバランスよく伸ばしていけば,キャリア意識を高められることが示唆された。これは,50年以上前に糸賀が知的障害のある中学生への教育目標とした「職業的陶冶・社会性の涵養・健康管理」が,現代の中高生に対しても「職業意識・社会生活・健康意識」として連関し,障害の有無に関わらず必要な内容であることを支持する結果である。
職業意識は中学生が高校生より高いので,それを維持するためには中高一貫して社会生活の力と健康意識に対する自覚を促し,学校の中で役割をもって働くような日常の教育活動がキャリア意識を向上させることにつながると考えられる。個人差への配慮は木村ら(1992)と同様に必要であり,健康意識と社会生活の自己評価点の低さやアンバランスのある生徒には中学生の時から配慮が必要である。進学先の学校生活における違いを考慮したうえで,中学生の時から,生徒の自己管理スタイルを理解し,一人一人の生徒の目線からキャリア教育を考えて,社会自立に向けた課題設定につなげることが大切である。
【謝辞】調査にご協力いただいた生徒の皆さん,教職員の皆様に深く感謝申し上げます。
キャリア発達やキャリア意識の評価測定に関する研究は多いが特別支援教育の視点からは検討されている研究が少ない。糸賀・田中(1956)は内的適応と職場定着との関連を指摘し,同時に糸賀は知的障害のある中学生の教育目標に「職業的陶冶・社会性の涵養・健康管理」を掲げた。現在でも特別支援教育領域では,基本的な社会生活習慣や健康・心理面に配慮した自己管理の確立を大切にしている。木村・米谷・小野(1992)は東京都の定時制高校生における生活習慣と健康意識の関連を明らかにし,個人差への配慮を指摘した。特別支援教育のキャリア教育の枠組みは4領域とされているが,障害の有無に関わらず中高生のキャリア意識構造には健康意識が存在し,自己評価のあり方がキャリア意識を創り出しているのではないだろうか。
そこで,本研究では,個人差や生徒の意識に着目してキャリア教育を進めるための基礎資料として健康意識を取り入れた質問紙調査を実施し,現在の中学生・高校生の自己評価のあり方とキャリア意識との関連を検討することを目的とした。
【方法】
(1)調査協力者 関東圏の中学生・高校生1035名
(2)調査手続き 2012年7月~11月に学級担任を通して調査を依頼した。学校生活を振り返って自己評価してもらうよう教示し,答えられない問題には回答しなくてもよいことを伝えた。
(3)調査内容 国立特別支援教育総合研究所(2011)による特別支援教育のためのキャリア教育の4領域(「人間関係形成能力」「将来設計能力」「情報活用能力」「意思決定能力」)の枠組みに合わせて,特別支援学校学習指導要領自立活動の「健康の保持・心理的安定」の視点から「健康意識」として1領域を追加し,新しく項目を作成した。5因子構造を想定し,各項目数を8項目ずつとして40項目について5件法により尋ねた。
(4)分析対象と分析方法 中学生532名(1年288名,2年66名,3年178名)高校生330名(全日制1年72名,2年74名,3年69名,定時制1年50,2年31名,3年34名)を分析対象とし,因子分析と分散分析を実施した。
データ解析にはSPSS.Statistics22を用いた。
【結果】
分析1 最尤法プロマックス回転による探索的因子分析の結果,5因子28項目から15項目(3項目×5因子(人間関係形成α=.711・意思決定α=.764・職業意識α=.744・社会生活α=.635・健康意識α=.782))に精選し,5因子モデルと2因子モデル(4領域・健康意識)に対し確認的因子分析を実施したところ,5因子モデルの適合度が良好であり,因子不変性が成立した(Table1)。因子間相関はTable2に示した。よって, 5因子の得点(15点満点×5因子)をキャリア意識に対する自己評価と定義し,以後の分析を5因子で行うこととした。
分析2 健康意識と社会生活の2因子における自己評価が職業意識,意思決定,人間関係形成に影響を与えていると考え,健康意識と社会生活の得点のバランスに着目し,自己管理スタイルとして,2因子間の得点差が3点以下をバランス群,4点以上をアンバランス群とし,学校間と自己管理スタイルによる 2要因2水準の分散分析を実施した。学校間と自己管理スタイルの組み合わせによる交互作用は見られなかった。学校間では職業意識のみに主効果が見られ,中学生が有意に高かった。自己管理スタイルでは職業意識,意思決定,人間関係形成に主効果が見られ,バランス群が有意に高かった。自己管理スタイルは,意思決定や人間関係形成に影響を与えるが,中学生と高校生の間で有意差はなかった。3因子の分散分析結果をTable3に示した。
以上から、自己管理スタイルについてバランスの良い自己評価をする中学生の職業意識は高いことが明らかになった。
【考察】
特別支援教育の視点から健康意識を取り入れて作成したキャリア意識を探る質問紙調査では新たな5因子モデルとなった。本研究から,思春期には健康意識と社会生活に対する自己評価が,自己管理スタイルとして表面化していることが考えられ,健康意識と社会生活の力を自覚的にバランスよく伸ばしていけば,キャリア意識を高められることが示唆された。これは,50年以上前に糸賀が知的障害のある中学生への教育目標とした「職業的陶冶・社会性の涵養・健康管理」が,現代の中高生に対しても「職業意識・社会生活・健康意識」として連関し,障害の有無に関わらず必要な内容であることを支持する結果である。
職業意識は中学生が高校生より高いので,それを維持するためには中高一貫して社会生活の力と健康意識に対する自覚を促し,学校の中で役割をもって働くような日常の教育活動がキャリア意識を向上させることにつながると考えられる。個人差への配慮は木村ら(1992)と同様に必要であり,健康意識と社会生活の自己評価点の低さやアンバランスのある生徒には中学生の時から配慮が必要である。進学先の学校生活における違いを考慮したうえで,中学生の時から,生徒の自己管理スタイルを理解し,一人一人の生徒の目線からキャリア教育を考えて,社会自立に向けた課題設定につなげることが大切である。
【謝辞】調査にご協力いただいた生徒の皆さん,教職員の皆様に深く感謝申し上げます。