日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PF

(501)

2014年11月8日(土) 16:00 〜 18:00 501 (5階)

[PF083] 日本版新個人的神話尺度の作成と信頼性・妥当性の検討

室屋賢士 (龍谷大学大学院)

キーワード:the New Personal Fable Scale, reliability, validity

1.問題と目的
本研究の目的は,日本版新個人的神話尺度(the New Personal Fable Scale:以下,日本版NPFS)の作成およびその尺度の信頼性と妥当性を検討することである。
個人的神話(Personal fable)とは,青年たちの自己中心性の1つの結果として構築される考えであり,青年期において自身が特別で,傷つきにくく,絶大な力(影響力)を持っているという感覚を持つことによって,自身を特別な存在であると認識していることを指す概念である。海外ではこの概念についての多くの研究がなされ,自殺や抑うつ,危険行動といった青年期における種々の問題との関係が明らかにされてきた。
本研究では,この概念を日本に導入するとともに,研究に先駆けて日本版NPFSの作成と信頼性,妥当性の検討を行った。
2.方法
尺度の作成に際して,原著者から英語原版の翻訳の許可を得,バックトランスレーション法を用いて原版46項目を訳出した。その後,原著者にも原版の項目と表現上の相違がないかのチェックを依頼し,日本版NPFSの使用許可を得たところで,尺度の作成を終了とした。
次に,大学生を対象に,前述の手続きで作成した日本版NPFSと個人的神話の近似の概念である自己愛を測定するための自己愛人格目録短縮版(NPI-S)の回答を求めた。
3.結果
調査は近畿地方に通う大学生842名を対象に実施された。回収された質問紙のうち,回答に不備のあったものを除外し,690名(男性348名:女性342名)を分析の対象とした。対象者の年齢は男性が19.7±1.09,女性が19.7±0.92であった。
項目分析を行った後,日本版NPFS46項目に対して因子分析(主因子法,Promax回転)を行い,固有値の減衰状況と因子の解釈可能性から4因子構造が妥当であると判断した。その後,4因子構造を仮定した因子分析(主因子法,Promax回転)を行い,多重負荷や因子負荷量が.35未満であった5項目と,下位尺度の内的整合性の向上のために3項目を除外し,最終的に38項目を採用した。それらの因子を第I因子から「万能感」,「ネガティブな個人の独自性」,「ポジティブな個人の独自性」,「対人的非被傷性」と命名した。
尺度の内的整合性を示すα係数は日本版NPFS総得点でα=.82,下位尺度は第I因子から順にα=.88,α=.77,α=.63,α=.66であった。そして,併存的妥当性を検討するためにNPI-Sとの間でPeasonの相関係数を算出した。その結果,r=.64(p<.01)と比較的強い有意な正の相関が得られた。
4.考察
本研究では個人的神話に焦点を当て,個人的神話を測定する尺度の日本版作成を行った。
因子分析の結果,3因子構造であった原版とは異なり,本研究では4因子が抽出された。原版はその後の研究で,Personal uniqueness因子のα係数が著しく低い値を示していたことや,Omnipotence因子とInvulnerability因子で1つの因子を構成していたことなど,その構造に不安定さがあった。今回の結果では,Omnipotence因子とInvulnerability因子の棲み分けがなされ,Personal uniquenessについても2側面から捉えることで精度が高まったと考えられる。
尺度の内的整合性や併存的妥当性は,いずれも許容しうる値であると判断したが,再テスト信頼性や構成概念妥当性の検討は行われていない。今後の研究で信頼性,妥当性のさらなる検討を加え,尺度を精緻化していくことが青年期のメンタルヘルスや青年たちの理解の一助となると考える。