The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PF

(501)

Sat. Nov 8, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 501 (5階)

[PF089] 大学生による他者の心の理解

人・ロボットを主人公とした物語形式の課題によって

小沢日美子 (尚絅大学)

Keywords:心の理解, 他者, 意図理解

目 的
 他者を何らかの形で理解するということについては、これまでも子どもの心の理解の発達的な変化を生み出す重要な心理的機能・構造に関する「心の理論(“theory of mind”; Premack,&,Woodruff,
1978)」研究領域における成果が報告されて来ている。1980年代以降、自分とは異なる他者の心的状態から他者の考え・行動を推測する能力について多数の研究が行われてきている。とくに他者の心の理解の発達指標とされる誤信念課題を用いた幼い年齢の子どもに関する研究では、定型的な発達過程では、4歳頃から徐々に課題を通過できるようになることがよく知られている。また、大学生を対象とした心の理解に関する報告では、岩田ら(2006)が、心の理解に関するストーリー図版を用いた課題によって、幼児期では他者の心的状態に関する表現が他者の行動予測に関する表現に先行して生じるが、それらがより可能になって行って大学生期では両者に差がなく言及できるようになるといい、各発達期に渡る発達過程の検討を行っている。本報告は、筆者が幼児を対象にした「心の理論」課題を用いた研究のうち、他者性に注目して課題のストーリーの主人公を人とロボットに換えた課題を大学生対象に物語形式により行い、幼い時期に限らない発達過程に関する示唆を得ること、また、今後の心の理解の発達の仕組みへの理解を進めることに役立てることを目的とする。
方 法
〔調査協力者〕 北九州市内の男女共学の私立4年制大学の大学生54人(m=20.1歳)(男子22人:m=20.3歳、女子32人:m=20.0歳)。
〔課題内容〕「心の理論」2課題は、誤信念課題(Wimmer,&,Pernar,1983)と意図理解課題(Happe,1994)を、林(2011)を参考に、主人公(人、ロボット)を替え、それぞれを物語形式にした質問用紙を作成・配布して行った。集団一斉方式。質問内容:(1)誤信念課題:4質問(現実質問、記憶質問、予測質問、信念質問)、及び付加質問、(2)意図理解課題:4質問(本心質問1、本心質問2、理解質問、理由質問)、及び付加質問。得点化:正答/誤答〔1,0〕。※ ここでは、誤信念課題の信念質問と4質問、意図理解課題の理解質問と4質問に着目し分析・考察を行うこととした。
結 果
1.大学生男女による相違:「心の理論」の2課題について、物語の主人公となる他者が人の場合と、ロボットの場合について大学生男女の性別による回答の頻度の偏りを調べるためχ2検定を行った。(1)誤信念課題:他者が人の場合、信念質問のみと4質問(全問)の両者とも有意ではなかった(p>0.1)。しかし、他者がロボットの場合、信念質問、4質問(全問)(χ2(1)=5.07,p<0.05,χ2(1)=5.85, p<0.05)とも有意だった。(2)意図理解課題では、人の場合、理解質問のみは有意でなかったが、4質問(全問)では有意だった(χ2(1)=6.26,p<0.05)。ロボットの場合は、理解質問のみと4質問(全問)とも有意ではなかった。
2.人とロボットの比較:「心の理論」の2課題について、それぞれの物語の主人公となる他者が人の場合とロボットの場合の各4質問の合計得点の結果について分散分析を行った。(1)誤信念課題:男子、女子、男女(全)とも有意だった(F(21,21)= 3.16,p<0.01、F(31,31)=2.76,p<0.01,F(53,53)=2.76,p<0.01)。(2)意図理解課題:男女別,及び男女(全)とも有意差は示されなかった(p>0.1)。
3.付加質問:ロボットの心について記述式で尋ね、(1)「心がある」と「思いやりのある」の記述、(2)「心がある」と「心がない」の記述、(3)「思いやりがある」と「思いやりがない」、それぞれの記述の有無についてχ2検定を行った。(1)、(2)は有意な差を示さなかった(p>0.1)。(3)では有意差が示された(χ2(1)=16.59,p>0.01)。
考 察
 これまでも他者の心の理解の研究では、日常の生活における他者との関係性(e.g.,親子関係、きょうだい関係)の影響が検討されてきているが、そのあり方は多様である。そこで、本報告では、他者について人の場合とロボットの場合を操作的に定義した物語形式の「心の理論」課題を用いた。そこでは、大学生男女の性別による回答への影響が課題特性と他者性との組み合わせにおいて示唆された。また、人とロボットの場合の比較でも、「心の理論」の課題特性との関連が示唆された。他者のどのような心を理解するかによって、他者が人であることロボットであることの影響、また、その両者の関係性が変化しうることが考察された。