The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PF

(501)

Sat. Nov 8, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 501 (5階)

[PF090] 学生は「将来について考えること」をどう評価しているのか

「将来について考えること」の認知的評価尺度の構成

石川満佐育 (鹿児島県立短期大学)

Keywords:認知的評価, キャリア発達, 大学生・短大生

【問題と目的】
近年高等教育機関では,キャリア教育の早期化が図られている。早期からのキャリア形成支援の実施は,支援者の観点からみると当然の教育的方策といえる。しかし,学生の視点からみると,自分の将来について考えることは楽しみと捉える学生もいれば,重要であるという認識はありつつも,不安や負担感を喚起させるものと捉えている学生も多くいる(リクルートキャリア,2013)。つまり,多くの学生は,将来について考える時,不安をはじめとしたネガティブな感情を抱いている可能性があり,心理学的観点からみると,学生にとって自分の将来について考えることは心理的ストレスになっている可能性が示唆される。心理的ストレスが増加すれば,進路選択,就職活動への取り組みが消極的になる可能性がある。早期からのキャリア形成支援において,前向きに自分の将来について考えることの支援が必要であると考えられるが,学生が自分の将来について考えることをどのように捉えているかについて直接に扱った研究は見当たらない。楽しい,不安といった反応喚起の個人差は,学生が「将来について考えること」をどのように評価しているかが影響していると考えられる。本研究では,学生の「将来について考えること」の評価をLazarus & Folkman(1984)による「認知的評価」 (「脅威」「挑戦」「損害」)の観点からとらえ,その程度を測定可能な尺度を作成することを目的とする。認知的評価の測定方法には,認知の仕方に関する評定項目文を用い直接的に測定する方法と,感情生起の程度を測定することで認知的評価の仕方を推察するという2つの方法がある。そこで,本研究では,認知面,情動面の2種類の尺度作成を試み,「将来について考えること」の認知的評価を測定するには,どちらの方法が適当であるかを検討する。
【方法】
(1)調査対象者:鹿児島県内の大学生167名,短大生177名,計344名(男性96名,女性248名;1年196名,2年78名,3年70名)を分析対象とした。
(2)調査時期・手続き:2014年1月に実施。講義内に一斉配布し実施した。所用時間は15分程度であった。
(3)調査内容:①フェイスシート ②進路希望状況
③認知的評価尺度(認知面):将来について考える時に生じるであろう考えに関する評定文,計24項目(脅威,挑戦各12項目ずつ)を独自作成した(6件法)。
④認知的評価尺度(感情面):臨床実習用ストレス認知的評価尺度(堤,1994)の17項目をそのまま使用し,教示を変更して実施した(5件法)。原尺度は挑戦感情,脅威感情,損害感情の3因子から構成される。
(上記以外の尺度も実施したが分析には用いなかった。)
【結果と考察】
認知的評価尺度(認知面)24項目について主因子法,プロマックス回転による因子分析を行った。その結果,脅威的認知(12項目),挑戦的認知(12項目)の2因子からなる尺度が構成された。認知的評価尺度(感情面)17項目について主因子法,プロマックス回転による因子分析を行った。その結果,挑戦感情(6項目),脅威感情(6項目),損害感情(5項目)の3因子からなる尺度が構成された。各尺度の記述統計,α係数,ならびに各下位尺度の相関係数をTable1に示す。α係数の値は,全ての下位尺度において高い値が得られ,内的一貫性が確認された。
相関の検討から,認知面,感情面ともに脅威と挑戦との間に有意な相関は示されなかった。この結果は,両概念は連続体の両極とみなされるものではなく,同時に起こり得るものとされる,というLazarus & Folkman (1984)の指摘と一致する。従って,脅威と挑戦の認知,感情は,個人の中に独立して生起していることが示された。
また,各尺度の得点分布について,理論的中央値と比較すると多くの学生が挑戦的認知をしていることになる。一方で,挑戦感情は理論的中央値よりも低い値となっている。つまり,挑戦的に考えようとしてはいるものの,実際の感情的反応としては,挑戦的に捉えられていないことがうかがえる。この結果から,評定文からの測定(認知面からの測定)では,社会的望ましさが影響している可能性があり,「将来について考えること」の認知的評価を測定するには,感情面からの測定が適当であることが示唆された。
今後の課題として,①認知的評価尺度の妥当性を検討すること,②縦断研究を用いて,認知的評価がどのように変化するのかを詳細に検討すること,③脅威,挑戦の両側面から学生を4群(挑戦高脅威高群,挑戦高脅威低群,挑戦低脅威高群,挑戦低脅威低群)に分類し,それぞれの群の特徴を検討すること,④認知的評価が実際の進路探索行動や就職活動にどのような影響を与えるかを検討すること,が挙げられる。