[PF091] 3つの気質次元に関する横断データを用いた擬似的な発達軌跡の検討
キーワード:気質, 横断データ, 発達軌跡
問題と目的
青年期・成人期以降のパーソナリティ特性の発達研究は“熟達化の原則”という頑健な発達傾向が示されている(Caspi et al., 2005)。熟達化の原則に従えば,人間は青年期以降は社会的に(そしておそらくは身体的にも心理的にも)おおよそ望ましいとされる方向に発達する傾向にある。すなわち,神経症傾向は年齢を追うごとに得点が下がり,協調性や勤勉性は得点が上がる。また,外向性は下位次元ごとに異なる傾向を示す。社会的優位性は増加傾向を示すが,社会的活力は緩やかな低減傾向を示す。経験への開放性は一貫した傾向を示しにくいがおおよそ変化しないか緩やかな低減傾向を示す。しかし,Grayのモデルなどによって記述される気質次元に関しては(気質は変容しないという固定観念によるものかもしれないが),上述したような平均値レベルの変容性に関する検討が現状において皆無である。そこで本研究では,罰の回避,報酬への接近,エフォートフル・コントロールという3つの気質次元に関して,その発達の様子を横断データを用いて描き出すことを目的とする。罰の回避は神経症傾向と,報酬への接近は外向性(とりわけ社会的活力)と,そしてエフォートフル・コントロールは勤勉性と正に相関するので,これらの3つの気質次元はBig Fiveと類似した変容傾向を示すものと予測した。
方法
本研究における調査参加者は,日本国内で行われたオンライン調査への回答者である(N=1,488; 男性723名, 女性725名; Mage = 45.28, SD = 13.65, range = 20-69)。日本の人口分布を参考に,地域と性別に関して人口代表性を持つようなサンプルである。気質尺度は,BIS/BAS尺度日本語版(Carver & White, 1994; 高橋他, 2007),罰の回避・報酬への接近感受性尺度短縮版(SPSRQ短縮版, Cooper & Gomez, 2008),接近-回避気質尺度(Elliott & Thrash, 2010),成人用エフォートフル・コントロール尺度日本語版(Rothbart et al., 2000; 山形他, 2005)を用いた。学歴は“中学校卒業”から“大学院卒業”までの5段階,収入は“収入なし”から“3千万円以上”までの16段階で自己報告された。
結果と考察
各下位尺度内で標準化得点(z得点)を求めたのち(縦軸),年齢を5歳ずつ10カテゴリに区分してプロットした結果,Big Fiveに関する先行研究と同様,3つの気質次元の平均値は,加齢に従って,罰の回避と酬への接近は低減傾向,エフォートフル・コントロールは増加傾向を示すことが明らかとなり,一般的に非変容的と考えられる気質次元の得点の平均値も年齢に応じて発達的変化を示すことが示唆された。