日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PG

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PG009] 教育現場におけるQOLと教師が求める援助(1)

小学校における教師QOLの尺度構成

佐藤広崇1, 金子智栄子2 (1.八戸学院短期大学, 2.文京学院大学)

キーワード:QOL, 教師援助

問題と目的
近年の教師研究の動向としては,教師の悩みやバーンアウトなどが主に取り上げられている(田中,2007;都丸・庄司,2005;八並・新井,2001など)。確かに,現在の小学校教師を取り巻く環境は厳しく,多忙かつ多様な職務をこなすなかで,疲弊している者も多い(例えば奥野,2013など)。
しかし,一方で教師は大きなやりがいを得られる仕事でもあり,特に児童生徒と関わりが良好な時に満足感などを感じるとされている(Lortie,1975;Nias,1989)。この点について,教職のポジティブな側面も加味しての教師援助研究はほとんどなされていない。そこで,本研究ではQOLの概念を取り上げ,教師援助についても検討していくことを目的とする。
本来QOLはその個人の職業生活の側面とプライベートでの生活の側面を含みこんだ広い概念であるが,本研究では,WHOQOL26(WHO,1997)の定義を参考に,教師の職業生活の側面に焦点をあてて,教師のQOLを“教師が日常の職務にあたる中で,その教師がもつ教育目標や期待および関心などに関連する自身の教育活動全般の状況についての認識”と定義した。これは,QOL全体から,教師のプライベートでの生活の側面を切り離し,学校という枠組みの中で検討することで,教師への援助の観点を明確にするためである。
方法
調査時期 :2013年8月~9月
調査対象 :A県B市に勤務する小学校教師440名。297名から回答が得られ(回収率67.5%),その中から児童の教育に直接関わらない職員1名除いた296名を対象とした。男性110名(37.2%),女性183名(61.8%),無回答が3名(1.0%)であり,年齢の平均は47.7歳(SD=8.43),勤務年数の平均は23.6年(SD=9.33)であった。
教師QOL項目の作成:
はじめにWHOQOL26の4カテゴリーである“身体的領域”,“心理的領域”,“社会的関係領域”,“環境領域”を想定した上で,これらのカテゴリーについて,WHOQOL26,原岡(1990),文部科学省委託教員勤務実態調査(東京大学,2007),
学習指導基本調査(ベネッセ教育研究開発センター,2010)などを参考に項目を構成した。
その際,カテゴリー名や質問項目の内容について大学教員1名,小学校校長1名(教歴35年),元教諭1名(教歴30年),教育や心理学を専攻する大学院生2名と協議した。最終的に,教師QOLのカテゴリーは,“日常の職務・学校生活領域”,“心理的・信念的領域”,“社会的関係領域”,“環境領域”となり,項目は全31項目で構成された。評定は5段階(5.あてはまる~1.あてはまらない)。
結果と考察
尺度構成:教師QOLの31項目について,因子分析(最尤法,promax回転)を行い,4因子を抽出した。第一因子からの因子負荷量の高い項目は,「私は,クラス運営が上手である(負荷量.78)」などで,“教師適性領域”と命名した。第二因子は,「私は,保護者や地域住民と協力し合える(.71)」などで,“協働や連携領域”と命名した。第三因子は,「私は,子どもと接することが楽しい(.89)」などで,“子どもと関わる楽しさ領域”と命名した。第四因子は,「私は,給与や福利厚生におおかた満足している(.60)」などで,“職務環境領域”と命名した。
次に,下位尺度項目として負荷量.43以上の項目を選択したところ,“教師適性領域”は8項目,“協働や連携領域”は8項目,“子どもと関わる楽しさ領域”は4項目,“職務環境領域”は4項目となった。各下位尺度についてクロンバックのα係数を算出したところ,.84~.69と,やや低いながらもある程度の値となった。最終的に,これら24項目を教師QOLの尺度として採用した。
教師QOL尺度の各下位尺度の合計得点を項目数で除したものを下位尺度得点とし,一元配置分散分析により比較を行った(Table1)。その結果,“子どもと関わる楽しさ領域”が他の下位尺度と比べて有意に得点が高かった。また,各下位尺度間について,ピアソンの相関係数を算出したところ,すべてに有意な正の相関(.27~.61)がみられた。
本研究で得られた4因子構造は,想定していた4カテゴリーとは異なる結果となり,特に“子どもと関わる楽しさ領域”が抽出された点が興味深いといえる。わが国の教師は,児童との人間関係づくりに重きをおき,それへの動機づけが高い傾向にあるとされる(藤田ら,1995)が,こうした傾向が教師QOLの下位尺度となって表れたと考えられる。