日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PG

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PG011] 剣道が中学生の学習規律と学校適応感の形成に及ぼす影響に関する学校心理学的研究

井上聡1, 浅川潔司2, 佐藤美保3 (1.加東市立社中学校, 2.兵庫教育大学, 3.加美町立中新田中学校)

キーワード:剣道, 中学生, 学習規律

問題と目的
本研究の目的は,中学生の発達段階において,礼法を重視した剣道を学ぶことで,自己を律する態度が身につくのかという点について,部活動と体育の剣道学習に焦点を当て検討することとした。学校生活に影響を及ぼす学習規律との関連性について検討し,武道必修化の有効な資料を得ることが目的であった。
【研究1】 目的
部活動に焦点を当て,中学生の発達段階において,剣道を学ぶことで他の種目との差異が見られるのか検討した。
方法
研究協力者 兵庫県内の中学校10校,3年生389名(男子191名,女子198名)が協力者となった。剣道部所属(A群) 112名(男子56名,女子56名),剣道部以外の運動部所属(以下,運動部所属)(B群) 199名(男子113名,女子86名),文化部所属(C群)58名(男子8名,女子50名),無所属(D群)20名(男子14名,女子6名)であった。
調査期間 2012年6月下旬~7月下旬に実施された。
質 問 紙 中学生の学習規律尺度(井上;2013)20項目に対して5件法で回答を求めた。学校生活適応感尺度(浅川,尾﨑,古川;2003)36項目対して4件法で回答を求めた。
結果
「中学生の学習規律尺度」因子分析(主因子法-プロマックス回転)が実施された。その結果,解釈可能な3因子が抽出され,それぞれに,授業への積極的関与(第1因子),授業への自主自律(第2因子),授業への準備(第3因子)と命名された。α係数はα=.874~.758であった。部活動所属群・性による分析結果,下位尺度について,部活動に関する4つの群と性を要因とする4(群)×2(性)の二要因分散分析が実施された。その結果によれば,授業への積極的関与(第1因子)については, A>B>C≒Dという関係で有意差があることが分かった。授業への自主自律(第2因子)については, A>B≒C>Dという関係で,性別では女子>男子という関係で有意差があることがわかった。授業への準備(第3因子)については,下位分析の結果は,A>B>D,C>Dという関係で,性別では女子>男子という関係で有意差があることが分かった。
【研究2】 目的
体育の剣道学習において,学習規律と学校適応感に影響があるのか検討する。
方法
研究協力者 T中学校1年生2学級(男子20名,女子23名)とした。介入群(剣道:陸上)は,剣道13時間実施し,その後に陸上競技を学習する。対照群(陸上:剣道)は陸上競技を13時間実施してから剣道を学習する。介入群の剣道授業は剣道7段の経験者,対照群の剣道授業は未経験の教員が実施した。
調査期間 2012年10月から11月,13時間の単元計画で実施した。その間,対照学級は他領域(陸上競技)の授業を実施した
調査内容 「中学生の学習規律尺度」「学校生活適応感尺度」(浅川,尾﨑,古川;2003)
授業実践 「剣道授業の展開」(全日本剣道連盟,2009)第1学年13時間の単元計画の学習展開を基本として,学習ノートを使用し実施された。
結果
中学生の学習規律尺度の調査時期pre-postについて,実験効果を検討するために2(群)×2(調査時期)の混合計画に基づく,2要因分散分析がなされ,学校生活適応感尺度についても同様に実施された。調査時期post-follow-upについて,2(群)×2(調査時期)の混合計画に基づく,2要因分散分析がなされ,剣道学習後に有意に上昇していることが分かった。
考察
教本「剣道授業の展開」(全日本剣道連盟,2009)を活用することで,剣道の経験者はもちろん,剣道未経験の体育教員が指導をしても,学習規律への影響が見られた。剣道が武道領域の教材として効果的であることを示している。
剣道を指導する際,技能の習得にとどまらず,自己を律する態度を育てる指導は,「生きる力」を育む貴重な学習場面となる。武道必修化においては,体育科だけでなく学校全体として取り組み実践することが求められる。