日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PG

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PG025] 高校生に対する予防的心理支援としてのレジリエンス教育の実践と効果

スクールカウンセラー,教師,研究者の協働を通して

鈴木水季1, 岐部智恵子2, 平野真理3, 中根由香子2 (1.郁文館夢学園, 2.お茶の水女子大学大学院, 3.東京大学大学院)

キーワード:レジリエンス教育, 予防的心理支援, 協働

【問題と目的】近年不安や抑うつなどの心理的問題を抱える若者の増加が指摘されており,青年の精神的健康を取り巻く課題は看過できない問題である。人生で経験する様々な困難や逆境に対処し,心理的な傷つきや落ち込みから立ち直る能力(レジリエンス)をどのように養うかということは,教育において重要なテーマとなっている。英米においては発達早期にレジリエンスを身につける必要性が提唱され,学校におけるレジリエンス教育が効果をあげている。日本の教育現場においても同様の教育的ニーズが存在するが,学校現場の時間的・構造的制約や,英米で開発されたプログラムを直接導入することの難しさ等から,これまで系統立ったレジリエンス教育の導入は困難であった。
本実践ではこのような現状を改善すべく,スクールカウンセラー(以下SC)が学校現場の要望に応える形でレジリエンス教育を導入し,複数回の授業を実施した。さらに,研究者,教師との協働を通して,生徒たちのレジリエンスに焦点をあてた心理評定をもとにコンサルテーションを行う等の予防的心理支援を行った。
【実践の概要・方法】<学校への導入>2年時に全員が長期海外留学をする私立高校において,留学関連ストレスや帰国後の大学受験ストレスなどが問題となっていたことから,教師が生徒の対処力を高める方策をSCに相談し,SCがレジリエンス教育実施の提案を行い,導入となった。
<対象>1年間の海外留学を控えた高校1年生,及び大学受験を控えた高校3年生
<実施時期>2013年度の特別講習時期に実施した。1年生:8月(プログラムA)45分×4回、12月(プログラムB)90分×2回。3年生:9月(プログラムAのみ)45分×4回
<授業内容>「SPARKレジリエンスプログラム」(Boniwell&Ryan,2009):ポジティブ心理学,レジリエンス研究,PTG(心的外傷後の成長),認知行動療法,の4つの実証研究に基づき英国で開発された心理教育プログラム。導入後生徒のレジリエンスや自己効力感の向上,抑うつ予防の効果が報告されている。日本の学校での導入にあたりローカライズを行い、プログラムA(45分×4回)・プログラムB(90分×2回)の全6回構成とした。
【効果測定と生徒支援】レジリエンス,楽観性,自尊感情,自己効力感について,自己記入式質問紙を用いて測定した。1年生はプログラムA、Bそれぞれの実施前後に計4回(t1~t4),3年生はプログラムA実施前後に計2回(t1,t2),質問紙を実施した。各回授業終了時には,授業への興味,理解度,感想等を尋ねる「ふりかえりシート」の記入を求めた。その後SCと研究者が,各生徒について測定点数及び「ふりかえりシート」の記述等からレジリエンス状態のアセスメントを行い,教師へコンサルテーションを行った。
【結果と考察】1・3年生共に,レジリエンス得点および自己効力感得点が,t1からt2にかけて上昇していた(Table1)。しかし1年生の全授業後に測定したt4(留学直前)ではt1と比較して得点の上昇は見られなかった。生徒の記述回答から得た質的結果からは,レジリエンス教育による自己理解や自己洞察の促進と共に,今後自分がレジリエントに変容するための新たな枠組みを獲得したことが伺えた。教師からは,「生徒たちが『心』や『心のプロセス』に興味をもって気持ちや心についてオープンに語るようになった」,「レジリエンス教育を行ったことにより,普段からレジリエンス教育の内容に立ち返った指導や支援を行うことが出来た」,との報告があった。またコンサルテーションの結果が生徒対応に活用された。
本取り組みから,生徒を中心にすえたSC,教師,研究者の協働を通した予防的心理支援としてのレジリエンス教育の学校現場における意義と適用可能性を確認することが出来た。今後は実施の拡大と追跡調査により,レジリエンス教育の効果の検討を行うと共に,プログラムの改善点などについて検証を行っていく。