[PG027] 高等教育における学生の就職意識・準備行動の規定因
学生・学校双方の要因を考慮して
キーワード:高等教育, 進学理由, 授業
目 的
高等教育が普及し,大学・専門学校への進学率が高まるにつれ学生の意欲低下などの様々な問題が表面化してきた。進学理由と学習観(三保・清水,2011)のように,学生のいくつかの要因に焦点を当てた研究がこれまで行われてきたが,複数の要因を同時に検討した研究は数少ない。また,学生側の要因だけでなく学校側の要因,すなわち授業の与える影響を考慮することも重要である。
以上を踏まえ,本研究では学生側の要因として進学理由・学習観・学習行動,学校側の要因として授業を取り上げ,これらがどのように学生の就職意識・準備行動に影響を与えているか解明することを目的とする。
方 法
参加者:首都圏の大学3校と医療系専門学校1校,北陸地方の大学1校,中国地方の大学1校の計6校から581名(男性217名、女性363名,不明1名:平均年齢21.21歳,SD=5.67)の学生が参加した。文系学部に約8割,理系学部に約1割,その他の分野の学部に約1割の学生が所属していた。
尺度:進学理由尺度(16項目),学習観尺度(20項目),授業尺度(12項目),就職意識・準備行動尺度(12項目)は先行研究を参考に作成した。高等教育学習観尺度は8項目から成る自作尺度であり,高等教育一般と母校の学習観に分けて聞いた。
調査時期と手続き:2013年12月から2014年2月の間に調査は実施された。授業終了後質問紙を一斉に配布,もしくは個別にインターネット上での回答を求めた。所要時間は約10分であった。
結 果
各尺度に対し最尤法(Promax回転)による因子分析を行った結果,進学理由尺度からは周囲の評判・勉学志向・課外重視・受験ランクの4因子,学習観尺度からは主体的学習・単位習得・社会的機能・ごまかしの4因子,授業尺度からは主体的参加・実用性・質問の3因子,高等教育観尺度からは高等教育一般と母校の双方で研究主義・習得主義との2因子,就職意識・準備行動尺度からは職種内容重視型・学習内容重視型の2因子がそれぞれ抽出された。
その後,進学理由尺度,学習観尺度,授業尺度,高等教育観尺度から抽出されたそれぞれの因子を独立変数,就職意識・準備行動尺度から抽出された因子を従属変数としてステップワイズ法による重回帰分析を行ったところ,学習内容重視型就職意識・準備行動に対して有意な結果が見られた(表)。自由度調整済み決定係数は0.41であった。
表 学習内容重視型就職意識・準備行動の規定因
従属変数学習内容重視型就職意識・準備行動
独立変数標準偏回帰係数
実用性0.35**
勉学志向0.21**
課外重視-0.15**
社会的機能0.11*
習得主義母校0.14**
研究主義母校0.12*
*p<0.1; **p<0.01.
考 察
学生側の要因では,進学理由の中の勉学志向の影響が最も強かった。入学時に明確な目標意識を持っていた学生は,最終目標である就職に至るまでその「初心」を保持していると言えよう。
一方学校側の要因の中では,授業の内容面に関連する実用性の影響が最も強かったが,授業の形式面である質問や主体的参加の影響は見られなかった。学生に授業の実用性という価値を実感させる授業を計画することが必要だと考えられる。
引用文献
三保紀裕・清水和秋(2011).大学進学理由と大学での学習観の測定――尺度の構成を中心として キャリア教育研究,29,43-55.
高等教育が普及し,大学・専門学校への進学率が高まるにつれ学生の意欲低下などの様々な問題が表面化してきた。進学理由と学習観(三保・清水,2011)のように,学生のいくつかの要因に焦点を当てた研究がこれまで行われてきたが,複数の要因を同時に検討した研究は数少ない。また,学生側の要因だけでなく学校側の要因,すなわち授業の与える影響を考慮することも重要である。
以上を踏まえ,本研究では学生側の要因として進学理由・学習観・学習行動,学校側の要因として授業を取り上げ,これらがどのように学生の就職意識・準備行動に影響を与えているか解明することを目的とする。
方 法
参加者:首都圏の大学3校と医療系専門学校1校,北陸地方の大学1校,中国地方の大学1校の計6校から581名(男性217名、女性363名,不明1名:平均年齢21.21歳,SD=5.67)の学生が参加した。文系学部に約8割,理系学部に約1割,その他の分野の学部に約1割の学生が所属していた。
尺度:進学理由尺度(16項目),学習観尺度(20項目),授業尺度(12項目),就職意識・準備行動尺度(12項目)は先行研究を参考に作成した。高等教育学習観尺度は8項目から成る自作尺度であり,高等教育一般と母校の学習観に分けて聞いた。
調査時期と手続き:2013年12月から2014年2月の間に調査は実施された。授業終了後質問紙を一斉に配布,もしくは個別にインターネット上での回答を求めた。所要時間は約10分であった。
結 果
各尺度に対し最尤法(Promax回転)による因子分析を行った結果,進学理由尺度からは周囲の評判・勉学志向・課外重視・受験ランクの4因子,学習観尺度からは主体的学習・単位習得・社会的機能・ごまかしの4因子,授業尺度からは主体的参加・実用性・質問の3因子,高等教育観尺度からは高等教育一般と母校の双方で研究主義・習得主義との2因子,就職意識・準備行動尺度からは職種内容重視型・学習内容重視型の2因子がそれぞれ抽出された。
その後,進学理由尺度,学習観尺度,授業尺度,高等教育観尺度から抽出されたそれぞれの因子を独立変数,就職意識・準備行動尺度から抽出された因子を従属変数としてステップワイズ法による重回帰分析を行ったところ,学習内容重視型就職意識・準備行動に対して有意な結果が見られた(表)。自由度調整済み決定係数は0.41であった。
表 学習内容重視型就職意識・準備行動の規定因
従属変数学習内容重視型就職意識・準備行動
独立変数標準偏回帰係数
実用性0.35**
勉学志向0.21**
課外重視-0.15**
社会的機能0.11*
習得主義母校0.14**
研究主義母校0.12*
*p<0.1; **p<0.01.
考 察
学生側の要因では,進学理由の中の勉学志向の影響が最も強かった。入学時に明確な目標意識を持っていた学生は,最終目標である就職に至るまでその「初心」を保持していると言えよう。
一方学校側の要因の中では,授業の内容面に関連する実用性の影響が最も強かったが,授業の形式面である質問や主体的参加の影響は見られなかった。学生に授業の実用性という価値を実感させる授業を計画することが必要だと考えられる。
引用文献
三保紀裕・清水和秋(2011).大学進学理由と大学での学習観の測定――尺度の構成を中心として キャリア教育研究,29,43-55.