[PG028] 困り感の強い学生の学校適応について
援助要請スタイルからの検討
キーワード:援助要請スタイル, 適応, 困り感
問題と目的
学習能力,心身の発達,精神面などの問題から大学生活に困り感を抱き,大学への適応状態に問題を抱える大学生が増えてきている(谷島,2005)。
個人が問題を抱え,必要に応じて他者に援助を求める現象は援助要請行動と呼ばれ(DePaulo,1983),個人の適応にとって望ましいものであるということが前提とされてきた(Lee,1999;Rickwood,Deane,Wilson&Ciarrochi,2005)。永井(2013)は援助要請行動の量を単純に増やすだけでなく,より適応的なものとして質的な側面も考慮する必要があると指摘しており,「援助要請の実行」に至る過程に注目した援助要請のスタイルを3つ想定している。
本研究では,大学生の援助要請スタイルの傾向を明らかにし,援助要請スタイルと適応感,困り感との関連の検討を行う。
方法
調査協力者:2013年7~9月にかけて関東地方の3大学の学生340名(男性109名,女性231名,平均19.9±1.7歳)に対して質問紙調査を実施した。
質問紙の構成:①『援助要請スタイル尺度(永井, 2013)』15項目。援助要請スタイルを自立型,過剰型,回避型に分類する。②『困り具合に関するセルフチェックリスト(国立特別支援教育総合研究所, 2007; 以下困り感尺度)』38項目。「PDD様」「ADHD様」「LD様」「抑うつ・不安」「読字障害」の5因子からなる。③『青年用適応感尺度(大久保, 2005)』30項目。「居心地の良さの感覚」「課題・目的の存在」「被信頼感・受容感」「劣等感の無さ」の4因子からなる。
結果と考察
困り感尺度について,調査協力者の半数以上が困っていると回答したのは3項目であり,すべて「抑うつ・不安」因子の項目であった。また1/3以上が困っていると回答したのは12項目であり,「LD様」因子9項目のうち7項目が該当した。このことから,大学生の多くが特に抑うつ・不安などの気分や学習面での困り感を強く感じていることが推察された。
次に援助要請スタイル尺度得点によって調査協力者の援助要請スタイルを分類したところ,過剰型85名(25.0%),回避型46名(13.5%),自立型159名(46.8%)となった。
困り感,適応感尺度得点について,援助要請スタイルごとの平均値を比較したところ,困り感尺度得点では自立型より回避型の得点が高く(F(2,2
87)=5.589,p<.01; 回避型>自立型),適応感尺度得点では回避型が他のスタイルより有意に得点が低かった(F(2,287)=4.308, p<.01; 回避型<過剰型≒自立型)。このことから,回避型は学校生活での困り感が強く,適応感が低いことが推察された。
援助要請スタイルが学生の困り感,適応感に与える影響を検討するために,援助要請スタイル尺度の因子得点を説明変数,困り感,適応感尺度得点を基準変数とした重回帰分析を行ったところ,「過剰」「回避」得点から「困り感」得点に正の,「自立」得点から「困り感」得点に負の影響が見られた(過剰:β=.226,p<.01;回避:β=.272,p<.01; 自立:β=-.112,p<.05)。また,「回避」得点から「適応感」得点には負の影響が見られた(β=-.168,p<.01)。次に困り感尺度の各因子が適応感に与える響を検討するために,重回帰分析を行ったところ,「LD様」「PDD様」「抑うつ・不安」得点から「適応感」得点に負の影響が見られた(LD様:β=-.228,p<.01;PDD様:β=-.138,p<.05;抑うつ・不安:β=-.265,p<.01)。以上のことから援助要請が過剰あるいは回避する傾向のある大学生は困り感が強まり,自立している学生は困り感が弱まることが示唆された。また,学習面,対人関係面,抑うつ・不安などの困り感が学校適応感を低下させることが示唆された。
大学生は学習や抑うつ・不安状態の困り感を自覚しつつ,対人関係での困り感も適応感を低下させていた。援助要請回避型は困り感が強く,適応感が低い上に,自ら援助要請を行わないことでさらに適応感が低下する悪循環にあると思われる。特に学習面,対人関係面,情緒面での困難に対しては,TAによる学習支援や教員による学生の状態の把握などの積極的な支援が効果的であろう。一方で過剰型については,過剰型傾向が困り感を増大させていたが,尺度得点自体は他のスタイルとの差異が認められなかった。自立型における困り感の解消の特徴と併せて,過剰型についても今後さらに検討することで,援助要請スタイルに応じた有効な支援方法を探ることができると考える。
学習能力,心身の発達,精神面などの問題から大学生活に困り感を抱き,大学への適応状態に問題を抱える大学生が増えてきている(谷島,2005)。
個人が問題を抱え,必要に応じて他者に援助を求める現象は援助要請行動と呼ばれ(DePaulo,1983),個人の適応にとって望ましいものであるということが前提とされてきた(Lee,1999;Rickwood,Deane,Wilson&Ciarrochi,2005)。永井(2013)は援助要請行動の量を単純に増やすだけでなく,より適応的なものとして質的な側面も考慮する必要があると指摘しており,「援助要請の実行」に至る過程に注目した援助要請のスタイルを3つ想定している。
本研究では,大学生の援助要請スタイルの傾向を明らかにし,援助要請スタイルと適応感,困り感との関連の検討を行う。
方法
調査協力者:2013年7~9月にかけて関東地方の3大学の学生340名(男性109名,女性231名,平均19.9±1.7歳)に対して質問紙調査を実施した。
質問紙の構成:①『援助要請スタイル尺度(永井, 2013)』15項目。援助要請スタイルを自立型,過剰型,回避型に分類する。②『困り具合に関するセルフチェックリスト(国立特別支援教育総合研究所, 2007; 以下困り感尺度)』38項目。「PDD様」「ADHD様」「LD様」「抑うつ・不安」「読字障害」の5因子からなる。③『青年用適応感尺度(大久保, 2005)』30項目。「居心地の良さの感覚」「課題・目的の存在」「被信頼感・受容感」「劣等感の無さ」の4因子からなる。
結果と考察
困り感尺度について,調査協力者の半数以上が困っていると回答したのは3項目であり,すべて「抑うつ・不安」因子の項目であった。また1/3以上が困っていると回答したのは12項目であり,「LD様」因子9項目のうち7項目が該当した。このことから,大学生の多くが特に抑うつ・不安などの気分や学習面での困り感を強く感じていることが推察された。
次に援助要請スタイル尺度得点によって調査協力者の援助要請スタイルを分類したところ,過剰型85名(25.0%),回避型46名(13.5%),自立型159名(46.8%)となった。
困り感,適応感尺度得点について,援助要請スタイルごとの平均値を比較したところ,困り感尺度得点では自立型より回避型の得点が高く(F(2,2
87)=5.589,p<.01; 回避型>自立型),適応感尺度得点では回避型が他のスタイルより有意に得点が低かった(F(2,287)=4.308, p<.01; 回避型<過剰型≒自立型)。このことから,回避型は学校生活での困り感が強く,適応感が低いことが推察された。
援助要請スタイルが学生の困り感,適応感に与える影響を検討するために,援助要請スタイル尺度の因子得点を説明変数,困り感,適応感尺度得点を基準変数とした重回帰分析を行ったところ,「過剰」「回避」得点から「困り感」得点に正の,「自立」得点から「困り感」得点に負の影響が見られた(過剰:β=.226,p<.01;回避:β=.272,p<.01; 自立:β=-.112,p<.05)。また,「回避」得点から「適応感」得点には負の影響が見られた(β=-.168,p<.01)。次に困り感尺度の各因子が適応感に与える響を検討するために,重回帰分析を行ったところ,「LD様」「PDD様」「抑うつ・不安」得点から「適応感」得点に負の影響が見られた(LD様:β=-.228,p<.01;PDD様:β=-.138,p<.05;抑うつ・不安:β=-.265,p<.01)。以上のことから援助要請が過剰あるいは回避する傾向のある大学生は困り感が強まり,自立している学生は困り感が弱まることが示唆された。また,学習面,対人関係面,抑うつ・不安などの困り感が学校適応感を低下させることが示唆された。
大学生は学習や抑うつ・不安状態の困り感を自覚しつつ,対人関係での困り感も適応感を低下させていた。援助要請回避型は困り感が強く,適応感が低い上に,自ら援助要請を行わないことでさらに適応感が低下する悪循環にあると思われる。特に学習面,対人関係面,情緒面での困難に対しては,TAによる学習支援や教員による学生の状態の把握などの積極的な支援が効果的であろう。一方で過剰型については,過剰型傾向が困り感を増大させていたが,尺度得点自体は他のスタイルとの差異が認められなかった。自立型における困り感の解消の特徴と併せて,過剰型についても今後さらに検討することで,援助要請スタイルに応じた有効な支援方法を探ることができると考える。