The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG

(5階ラウンジ)

Sun. Nov 9, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PG031] 指導者からの体罰を肯定する若者たち

部活にとどまらない体罰の「効果」

尾見康博 (山梨大学)

Keywords:体罰, 部活, 文化

問 題
2012年12月に起きた高校バスケットボール部キャプテンの自殺の主因が教師兼部活動顧問の体罰によるものであったというニュースは,日本中に大きな衝撃を与えたが,学校関係者やスポーツ指導の現場にどれほどその衝撃が伝わったのだろうか。文部科学省も教育委員会も迅速に調査をしたり対策をうちたてたりしたものの,その後も,学校種や競技種目を問わずに体罰の実態がつぎつぎと表沙汰になったのである。
本研究では,現役大学生の被体罰経験を調査し,なぜ学校スポーツに体罰が定着しているのか,その実態を把握すると共に,回答内容を分析することにより,教師の体罰を許容する社会文化的背景を探る。
方 法
首都圏国立大学における某教職科目受講生に対し体罰の直接経験を1)時期,2)具体的状況,3)体罰の理由,4)納得しているかの4つの観点から自由回答形式で尋ねた。直接経験がない場合は間接(見たり聞いたりしたことがある)経験を尋ねた。非匿名調査であるがプライバシーを侵害しないことを約束した。受講生145名のうち129名が回答した。
結果と考察
「体罰を受けたことがある」という回答(経験者)は64名(49.6%),「見たり聞いたりしたこともない」という回答(未経験者)は25名(19.4%)であった。いずれの回答においても2名誤解している回答者がいた(以下では実態に即して入れ替えた上で集計)。「見た」は30名(23.3%),「聞いた」は10名(7.8%)であった。経験者の経験時期は,未就学1名,小学生15名,中学生31名,高校生23名,不明1名であった(うち8名は複数校種)。高校生の時期よりも中学生の時期の方が多く想起されていることから,体罰問題を考えるときに中学校の文化や制度から考える必要性がうかがえる。
つぎに,経験者の経験状況を分類したところ,小学生時はスポーツチームの指導者,中高では部活の指導者による体罰が最も多かった(Table 1)。未就学時の運動会という事例も象徴的であるが,部活を主としたスポーツ指導と体罰の関連性は密接であり,高校時には体罰の舞台は部活にかなり収斂していくようにみえる。
また,被体罰経験に対して納得できるという回答が圧倒的に多かった。自由回答を詳細に見ると,試合中のミスのせいで「髪を引っ張られ体育館の隅に追いやられ蹴り飛ばされ」ても納得しており,「あの経験があってこその今だと思っている」「他校よりもまし」という事例をはじめ,理不尽としか思えない体罰も積極的に受け入れてしまっている例も少なくなかった。
本調査には不十分な点もあり,被害児童生徒数が1%にも満たない文部科学省の調査結果とのギャップの大きさの解釈は慎重にすべきかもしれない。ただし,重要なことは,本調査がマスコミやネット情報で体罰が大きく報じられ,基本的には体罰に対してネガティブなムードがあった時期の調査であったこと,調査対象者が教員養成学部の教職科目の受講生であること,そして,匿名調査ではなく提出課題にも似た調査であり,「なし」と回答するバイアスが強いと思われる状況下であったことである。にもかかわらず,これほどまでに,「堂々と」体罰を肯定する回答がいくつも見られたのである。一部の回答者は,こちらが求めた以上に丁寧に体罰の大切さを回答してくれた。自らの授業実践についても大いに反省するとともに,直接的な体罰撲滅キャンペーンとは違う形の文化心理学的,社会心理学的検討を行っていきたい。