日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PG

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PG033] 児童虐待事例の検証報告書からみた保育所等における児童虐待防止活動の協働上の課題

笠原正洋 (中村学園大学)

キーワード:児童虐待, 協働, 保育士

本研究は,保育所保育士らを対象とした児童虐待防止活動の研修をデザインする研究の一環として,保育所等(幼稚園,届け出施設を含む)における児童虐待防止活動の協働上の困難と課題を記述する。よい教授を生み出すには,何よりもまず,学習の対象となる活動を理解する必要がある(Engestr?m, 2009/松下・三輪, 2010)。児童虐待防止活動は様々な関係機関との連携実践すなわち異なる文脈の境界を横断する協働である。そして,この実践では,保育者の共同体と家族,関係機関等,異なる共同体が交差しており,そこで生じる様々な困難(矛盾や葛藤)はネガティブな意味合いを有するのではなく保育者の「学びや発達の駆動因(香川, 2008)」となる可能性を有している。そこで本研究は,Web上に公開された児童虐待死亡または重大事例検証報告書(心中事例を除く)を手がかりに,保育所等が関わった事例から協働上の課題を明らかにし,教授可能性について検討する。
方法
1. 調査対象資料 平成20(2008)年度から平成25(2013)年度に公開された75報告書95家族104事例(きょうだい児の通告や施設への措置など児童相談所または市の関与が認められた,きょうだい児の9事例を含む)を収集した。そのうち小学校就学前の89事例のうち0歳0日から生後2か月までの保育所入所が制限される17事例を除く72事例を検討対象とした。
2.資料整理の視点 収集した資料は以下の観点から整理した。事例の概要部分では,1)保育所等利用の有無,2)保育所利用勧奨の有無,3)(保育所等が関与していた場合の)協働上の課題,提言部分では4)保育所利用の提言の有無,5)(保育所が関与している場合の)協働のあり方の提言の有無とその内容である。
結果と考察
1.年齢別にみた保育所等利用・勧奨について
72事例のうち19事例(26.4%)が保育所等利用,53事例(73.6%)が未利用だった。未利用事例のうち保育所の利用勧奨または申請中(保育所利用前に被害)だった事例は,0歳児3,1歳児3,2歳児4,3歳児2,4歳児2,5歳児2事例の計16事例(30.2%)だった。保育所利用が少ない背景として,居住実態の把握が困難であり,市担当部署との接点がなく家庭養育の問題から虐待に至った事例などが多い。しかし,医療機関から障害や未熟児としての届けがあり母子保健担当部署が関与しながら福祉担当部署との連携まで至らなかった事例(保健と福祉という市担当部署間での連携の問題),生活保護担当部署が把握した情報を児相福祉担当部署と共有しなかった事例(市の福祉担当部署内の連携問題),施設への措置解除後の家庭養育支援の必要性を看過した事例(児相と市との連携の問題)等が認められた。なお検証報告書の提言部分に保育所利用勧奨について言及した事例は利用事例で1,利用なし事例では3にすぎなかった。以上より,日常的な見守りの機能を有する保育所の機能が十分に利活用されていない現状が推測された。他の専門職との有益な交差をもたらすために,その原因を詳細に探っていく必要がある。
2.保育所が関与した事例の協働上の課題
保育所等が関与した19事例のうち保育所等の協働上の課題が指摘されたのは13事例だった(6事例は,保育所等からの通告後の児相や市の関係機関の対応の問題が指摘)。そのうち11事例が未通告や情報提供の問題を指摘されていた。キズ・アザ等の子供の不審な情報を通告していない,家庭内不和や退園等の危機的状況をもたらすと予想される情報を提供していないと記載されていた。ここには子供や家族の背景を想像し協議・対応するという保育者側の知識・行動の欠如だけでなく,要保護児童対策地域協議会に属していない団体があるなど制度的な課題も残されていた。一方,養育家庭の悩みや問題に対する理解が不十分で一部の限られた職員しか家庭の情報を把握しておらず園内の支援体制の問題が指摘された事例,保育園が情報を提供することに留まり保育園としてより明確にどう対応してほしいかなど具体的な働きかけを行うことも必要と指摘された事例があった。
今後は,保育所での家庭・相談支援の技量育成のために,事例の背景情報をより多くの視点から考慮し組織内・間の発信・協議の重要性を理解させる研修プログラムや教材を開発する必要がある。本研究は科研費・基盤研究(C)(代表:笠原正洋,課題番号25381106)の助成を受けた。