日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PG

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PG038] 女子中学校における新入生宿泊行事の実践研究

期待と予期不安に注目して

佐々木聡 (松蔭中学校・高等学校)

キーワード:構成的グループエンカウンター, 移行, 中学校

問題と目的
中学校へ入学すると,生徒は多くの変化に直面する。それに加えて,この校種間移行は心身の発達的変化が大きく不安定になりがちな思春期の始まりと重なるため,2重の意味で危機的な環境移行事態であると指摘されてきた(古川・小泉・浅川,1992)。そこで,本研究は,私立女子中学校における新入生のオリエンテーションキャンプ(宿泊行事)という教育実践を通じて,新入生の特に対人関係における適応を促進するための教育支援プログラムを開発し,その効果を検討することを目的とした。
学校における対人関係の支援プログラムとして,近年注目されているものの1つに「構成的グループエンカウンター(SGE)」がある。片野(2009)は,学校現場において,人間関係作りなどの教育課題を達成するための「スペシフィックSGE」が普及していると指摘している。本実践ではこれをプログラムに取り入れることとした。
方法
実施期間 201X年4月1日から2日の1泊2日
対象生徒 201X年度の中学校新入生116名を対象として実践を行った。
エクササイズの内容 國分康孝・國分久子(2004)などを参考に構成した。
1日目 「ハイタッチでよろしく」,「じゃんけん列車」,「自己紹介」,「ご指名です」,「トラストアップ」,「ラインナップ」,「足し算トーク」「ハンドパワーの輪」
2日目 「二者択一」,「新聞紙タワー」,全体の振り返り
効果測定 事前の測定は201X年3月末に実施し,事後の測定はキャンプ終了後に実施した。いずれも,教室での集団場面で,担任教諭の教示によって実施された。質問紙の項目は,期待・不安尺度(小泉,1995)から「期待」6項目を採用し,予期不安尺度(南・浅川・秋光・西村,2011)から「社会文化的不安」3項目と「対人的不安」3項目を採用した。すべて4件法で回答を求めた。
結果
質問紙への回答に不備のなかった109名を分析の対象とした。期待6項目と予期不安6項目について,事前測定の回答でそれぞれ主成分分析を行った結果,第1主成分の寄与率が期待で44.25%,予期不安で49.25%であったため,それぞれ1次元として扱うことにした。クロンバックのα係数は期待でα=.74,予期不安でα=.79であり,一定の内的整合性が確認された。
事前と事後の期待と予期不安の合計得点について,それぞれ対応のあるt検定を行った。その結果,期待の得点については事前(M=21.26,SD=2.53)よりも事後(M=21.63,SD=2.12)が有意に高い傾向がみられた(t(108)=1.81, p<.10)。予期不安の得点については事前(M=15.24,SD=4.03)よりも事後(M=14.17,SD=4.26)が有意に低かった(t(108)=3.25,p<.01)。
考察
本実践の実施後には期待が増し,不安が低減されたことから,このプログラムが移行期の学校適応の支援として有効に機能する可能性が示唆された。参加した生徒のエクササイズに関するふり返りも肯定的なものが多くみられ,多くの生徒が積極的にプログラムに参加したことがうかがえた。
本実践は,SGEのエクササイズを中心としつつ,それ以外にも,学校生活についての説明や集団での宿泊など,様々な要素を含むもので,それらが総合的に効果を発揮したと考えられる。SGEの効果のみに着目するのであれば,今後さらに詳細な検討が必要であろう。また,今回検討したのは短期的な効果のみであり,本実践が入学後の適応過程にどのように影響を与えるのかという点についても,今後の検討課題であろう。
引用文献
片野智治 2009 教師のためのエンカウンター入門 図書文化社.
古川雅文・小泉令三・浅川潔司 1992 小・中・高等学校を通した移行 山本多喜司・S.ワップナー(編著) 人生移行の発達心理学 北大路書房, pp.152-178.
小泉令三 1995 中学校入学時の子どもの期待・不安と適応 教育心理学研究, 43, 58-67.
國分康孝・國分久子(総編集) 2004 構成的グループエンカウンター事典 図書文化社.
南雅則・浅川潔司・秋光恵子・西村淳 2011 小学生の予期不安と中学校入学後の学校適応感との関連に関する学校心理学的研究 教育心理学研究, 59, 144-154.