日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PG

(5階ラウンジ)

2014年11月9日(日) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PG046] 教育ディベートにおける学習者の論理的思考

工学系学生に必要とされる能力育成の観点より

飯島睦美1, 三宮真智子2 (1.国立明石工業高等専門学校, 2.大阪大学大学院)

キーワード:論理的思考力, コミュニケーション能力, ディベート

問題と目的
この国際化社会の中,工学教育では,問題や課題を論理的に解決し,国境や分野を超えて協同し取り組むことのできる能力を育成する努力がされている。エンジニアリングデザイン,PBL(Problem Based Learning),Active Learningなどの手法を導入する教育機関も増え,教員による一方向的講義形式ではなく,学習者の能動的な学習参加を必須とする課題解決型学習が行われ,分野を超えて汎用可能なジェネリックスキル,言語を問わず情報を正確に且つ効果的に伝達するコミュニケーションコンピテンス,問題や課題などを論理的,批判的に考察し,解決方法を導きだす知的コンピテンス,そしてチームで協同できる社会的コンピテンスの育成に力を入れている。16歳から22歳までの5年~7年間一貫教育を行う工業高等専門学校も同様に求められる人材を育成するために,統合的なカリキュラムの導入の可能性を模索し,科目が相互に乗合ながら,上述した能力の育成を目指そうとし,その手法として,理解力,分析力,批判的思考力,構成力,伝達力,即興性が必要な能力とされる教育的ディベートを用いることを計画しようとしている。本研究では,この取り組みの事前調査として,学生の論理的思考力をディベートを通して観察・分析し,報告するものである。

方法
16歳から17歳の工学を専攻する66名を対象として,ある3つの選択肢を含む社会問題をテーマとして与え,3グループに分かれ,次に示す6つの経過で討論を行った。(1)意見陳述(各グループ5分) (2)反論に向けての打ち合わせ(5分)(3)反論(各グループ5分)(4)最終答弁に向けての打ち合わせ(5分)(5)最終答弁(各グループ5分)(6)判定。意見陳述には,事前に調査する時間が与えられていた。

結果
意見陳述場面における発言は,事前に準備がなされ文章化されていたが,反論や最終答弁の場面では,その場で相手の意見を理解し,反論する即興性が求められ,自分の意見をモニタリンングしながら発言し続けなければならず,メタ認知が重要な鍵を握る。以下に最終答弁での発言に観察された問題点をあげる。
・間投詞「えっと,あの,え~,で・・・」の多用
・文と文のつなぎ方が不適切である
・意見が建設的に拡大・発展しない
・発話の中止により意見が立ち消えている
・本論からずれ,議論の一貫性がない
・議論とそれを支持する理由や例示の関連性が弱い
・グループ内での意見の集約ができていない
・相手チームの意見の理解が不十分で,求められている内容の返答ができていない
・他者の意見と自分の意見との比較力不足

考察
今回の分析より,学生の陥りやすい思考傾向や談話分析上の問題が把握できた。論理的に議論する力を養成するために,三宮(2010)であげられている「考えることを妨げるからくり」を知り,「限られた情報から判断する」「原因を探る」力を養い,「事実と考え」の違いに気づく指導を行っていく必要があると考えられる。平成28年度に改訂が予定されている高校学習指導要領(英語)では,「発表や討論を通じ,より高度な英語力の習得」が目標とされる動きがあるが,英語での発表や討議には英語力以前の問題がある。「論理的思考の欠如」や「自己主張の意志と能力の不足」がグローバル人材に必須とされる英語コミュニケーション能力不足の原因に関係するところが大きいのは明らかである。これは,高いTOEICスコアを持つ学生が高い英語コミュニケーションを持つわけではない,という一般的事実が裏付けている。今後,メタ認知的アプローチの考察を行い,科目間で連携し能力の育成に取り掛かるべきである。英語科におけるCLIL(Content and Language Integrated Learning)の導入も一つの案であり,理科や社会などの教科学習と英語の語学学習を統合したアプローチで,科目内容を題材に言語活動を行うことで,英語の4技能を高めることができる。今後,工学部学生用「教育的ディベート教材」を作成し,授業実践をしていく。

参考文献
三宮真智子 (2010). 考える心のしくみ 北大路書房